ギルドマスターの執務室へ通された二人は、言われるままにソファに腰掛ける。
机を挟んで向かい合ったギルドマスターが口を開く。
「改めて、私がギルドマスターのゲンオーだ、よろしく」
「あ、め、メイと申します」
「…シュテンだ」
メイに倣って名乗ると、ゲンオーは「うむ」と頷いた。
「なあシュテンよ、さっきのアレ、どうやったんだ?」
ゲンオーは体を乗りだしてそう切り出した。
さっきの、とは壁の穴の事だろうか。
「どうって…ちょっと力込めてぶん殴っただけだ」
「ほうほうほう、ちょっとか。君はその気になればこの建物ごと吹きとばせそうだな」
ゲンオーはデカい図体に似合わない少年のような眼差しでそう返した。
「それ程の力があれば問題ないだろう」
「あァ?」
「ケンム、入ってきなさい」
ゲンオーの合図で扉が開くと、細身の男が入ってきた。
俯いている上にフードを被っており、顔はよく見えない。
「彼はケンム、この街を拠点に活動する冒険者だ。昨日、彼はパーティメンバーと共に森へ入り、一人で帰ってきた」
「…ん?」
シュテンは話に違和感を覚える。
「おい、数が変わってるぞ」
「ああそうだ。彼の相棒はまだ帰ってきてない」
「そ、それって…」
メイが口を挟むと、ケンムはいきなり大きな声を出した。
「生きてるよッ!」
その表情にメイは口に手を遣る。
「すみません、無神経でした」
「いや、いいんだ…状況からみて、そう思われても仕方がない」
「…何があったのです?」
メイは続けてそう尋ねた。
「森を、順調に進んでいたんだ…でも、いきなり、緑尾龍が…」
「緑尾龍!?」
メイが思わず跳ねる。
「ああ、低級龍種の緑尾龍だ。低級とはいえ龍種をたった二人のパーティで相手するのは無謀に当たるな。彼らはそこそこ長く冒険者をしているが、いわゆる中堅冒険者だ、高ランクという訳では無い」
ゲンオーは冷静にそう返す。
「龍、ねェ」
当のシュテンは、この世界にはそんなものも居るのかと思いながら聞いていた。
数多の妖怪を下してきた酒呑童子も、龍は見た事がない。
「俺たちは、逃げているうちにはぐれてしまって…帰ってくれば合流出来ると思ったんだけど…」
ケンムは消え入る声でそう告げると、俯いたまま黙り込んでしまう。
「…そこでだ、君たち3人に取り残されたケンムの相棒を救出してきて欲しい」
「え゛っ」
1番に反応したのはメイだった。
「正気ですか!?相手は龍種ですよ!?こんな少人数で…」
「メイ嬢、君の相方は闘技場の強化壁に大穴を開けてみせた。君も見込んでいるのでは無いのか?」
「うっ…」
「報酬もたんまり出そう」
シュテンは頭の中で今の会話を整理する。
要するに、龍を狩ればいいらしい。
「…シュテン殿、どうします?」
「ん?あァ、いいんじゃねェの?」
「シュテン殿がそう言うのであれば…分かりました、やりましょう」
覚悟を決めるメイと、快諾を喜ぶゲンオーと、ひたすら頭を下げるケンムを見て、シュテンは悪くない気分だった。
「こういうの、なんか人間っぽいかもなァ」