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第三話/人の恰好

 暫くの間歩くと、開けた場所に出る。

「見えてきました、あれがコーシの街です」

メイが指さす方を見ると、一本道の先に大きな石造りの壁がそびえ立っていた。

「…こりゃァ」

シュテンは前世で全国を回ったが、あのような建造物は見た事がない。

本格的に異なる世に来たという実感が湧いてきた。

「さて、シュテン殿はここで暫く待っていてください」

「あァ?」

「流石にその格好では衛兵に止められてしまいますので、一度私だけで中に入って、適当な衣服を見繕って参ります!」

「あー…ああ」

そういえば褌一丁なのだった。

鬼ならば妥当な格好とも言えるが、確かに人間がこの姿で出歩いているのを見た事がない。

「ここで待ってりゃ良いんだなァ?」

「はい!ここなら強い魔物などは出ませんし、この時間は人が通る事も滅多に無いので!」

「よくわからんが、分かったァ」

「では!」

メイはガチャガチャと大きな音を立てながら走って行った。

「…あー」

シュテンはその場に座り込むと、無意識に腹の当たりを擦る。

先程メイに締め付けられた部分が妙な熱を帯びていた。

「何だったんだありゃァ」

シュテンは、生まれながらの鬼である。

生みの親にすら忌まれ、集まるのは子分ばかりだった鬼にとって、他人に抱き締められることなど未知の世界だった。

「…変な奴だなァ」

疼くような感覚を押さえ込んで、シュテンは横になり目を瞑った。




「シュテン殿」

呼ばれた気がして目を開くと、大きな荷物を抱えたメイがしゃがみこんで見下ろしていた。

「すみません、待ち長かったでしょうか」

「…いんや」

身体を起こす時、日が陰っていることに気がついた。

どうやら、派手に居眠りしていたらしい。

「シュテン殿、着替えを持って参りましたよ」

メイが背中に抱えていた巾着袋を降ろし中身を取り出す。

「服はいちばん大きいものにしました。サイズは…うん、よさそうですね」

取り出した着物をシュテンの身体に当てて寸法を計る。

「ん…あァ」

「えーっと…あと、こちらを」

更に出てきたのは簡素な作りの防具類だった。

「…要らんぞ?んな重そうなモン」

「いえ、流石にこのくらいは付けておかないと怪しまれますから、それにこれだけ付けるというのもおかしな話ですし」

そう言って最後に出してきたのは額当てだった。

「なんだこれ?」

「シュテン殿の額に埋めてある石は、民族装飾ですよね?ですが魔物の角に見えかねないので、街中では隠しておくのが無難かと思いまして」

「額…あー」

シュテンは自身の額を触り、そこに中途半端に露出した「鬼の角」がある事を思い出した。

平安の世でも、鬼の1番の特徴だったこの角を隠すのは、人として生きようとするなら必須かもしれない。

「…わかったァ、全部付ける」

「はい、それが宜しいでしょう!」

「……」

にかっと微笑むメイに、シュテンは頭を搔くしかなかった。

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