春陽達は、九人で屋台を見て回っていた。
フランクフルトに
フランクフルトを春陽、悠介、隆弥が買った時には、春陽がとても嬉しそうにケチャップとマスタードを
他にも男子達が
意外にもと言っては失礼かもしれないが、射的が一番上手かったのは蒼真だった。小学生の頃から祭りなどに行っては必ず射的で遊ぶほど好きらしい。
金魚すくいは瑞穂が絶対やりたいと言って目を
終わった後、瑞穂は大満足の笑顔だった。
瑞穂がすくっている間の店主はその顔が
そんなちょっと意外な
そろそろ花火を見る場所取りのためにも屋台を抜けて、
和樹と隆弥が先頭を歩き、その後ろに男子三人、さらにその後ろに未来と香奈、最後尾に瑞穂と雪愛が列となって各々話しながら屋台が並ぶ通りを抜けようと歩いていた。
花火の時間が近づいているからか、
そんな中、最後尾を歩いていた瑞穂がふと
「雪愛?」
周囲を確認しても雪愛の姿がない。
正面から歩いてくる人や屋台に並んでいる人を
だが、まさか居なくなっているとは、と
そんな瑞穂に気づいたのか、未来と香奈が振り返った。
「瑞穂ちゃんどうしたの?」
「みずっちー?」
「雪愛がいないの。隣歩いていたはずなのに、気づいたらいなくて」
その言葉に未来と香奈も目を大きくする。
二人も周囲を見回すが雪愛の姿はなかった。
「とりあえず、雪愛ちゃんにメッセージ送ってみるね」
そんな後ろの
「どうかしたのか?」
「あ、風見。雪愛がいないの。どこかで
それを聞いてからの春陽の行動は早かった。
「雪愛を捜してくる。入れ違いになるとまずいから悠介達は先に進んでてくれ。場所が決まったらグループにメッセージ頼む」
悠介にそう言って、春陽はその場からここまで歩いてきた道を戻るように
時間は少し
瑞穂と話しながら歩いていた雪愛だったが、人
すると突然、横から小さな男の子が走ってきて思いっきり雪愛にぶつかった。
「きゃっ」
「うわっ」
雪愛はぶつかってきた男の子に目を
「君、大丈夫?」
雪愛が目線の高さを合わせるように
するとこの子のお母さんだろうか、
「こら、まーくん。こんなところで走っちゃダメって言ったでしょ!すみません、お
最初は男の子に、続いて雪愛に言葉をかける。
「はい、私は大丈夫です」
実際雪愛の方は
「よかった。まーくんも怪我はない?」
母親の言葉にこくんと
「よかった。お姉さんにぶつかったのはまーくんがこんなところで走ったからよね?お姉さんに何か言うことはない?」
「……ごめんなさい」
男の子が下を向きながら
それに雪愛は
「ちゃんと謝れて
雪愛の言葉にこくんと頷く男の子。
そして、母親がもう一度雪愛に本当にごめんなさいと謝って、親子はその場を去っていった。
そんなやり取りを終えて、前を見れば、瑞穂達の姿はどこにもなかった。
完全に雪愛一人だけ逸れてしまった形だ。
雪愛は苦笑を浮かべたが、スマホを見れば、香奈から『雪愛ちゃん大丈夫?今どこにいる?』とグループにメッセージが送られていた。
悠介からは春陽が
雪愛はとりあえず、目の前の屋台の名前、そして大丈夫ということと、今屋台の通りを歩いていて、自分もこれから向かうと送った。
そして、雪愛はこの屋台の通りを抜けようと歩き始めた。
春陽を見つけられたらいいなとそんなことを思いながら。
だが、すぐにそんな余裕はなくなった。
男子達が前を歩き、その後ろを歩くだけでも横から割り込む人や屋台に並ぶ人を避けるのに大変だった道だ。
そんなところを一人で歩けば、肩や腕がぶつかる機会が増えていった。
そしてついに、後ろから思いっきり肩がぶつかった。
「きゃっ」
今度は子供ではない。大人だ。
ただでさえ足元が
思わず目を
「―――――――――っ」
このまま転ぶ、雪愛がそう思ったとき――――。
ぽす。
何かに頭が当たり、肩が誰かに支えられた。
見上げた先には焦ったような、それでいて
「……春陽くん?」
春陽は雪愛を捜しながらどうしてかとても気が急いていた。雪愛だって子供ではない。逸れたといっても自分で合流できるはずだし、別に春陽が焦る必要なんてどこにもないはずなのに、
そんな中で、春陽が人ごみの中雪愛を見つけられたのは本当に偶然だった。
よかった、と安堵が全身を
そしてもうあと少し、というところで、雪愛が後ろから男性に押されるようにしてよろめいた。
「雪愛っ!」
それを目にした瞬間、考えるよりも前に身体が動いた。あと数歩という距離を急ぐ春陽。
倒れそうになる雪愛に春陽の心臓が嫌な感じに
そして何とか雪愛が倒れてしまう前に、支えることが間に合った。
もし間に合わなかったらという
「大丈夫か?」
雪愛の目を見て春陽が言う。
「う、うん。ありがとう春陽くん」
春陽の胸に抱かれるような体勢に、自分が今どんな体勢なのかを徐々に理解した雪愛の
「よかった」
雪愛の言葉を聞いて、やっと安心が勝った春陽は安堵の息を
そして、心臓に悪い、先ほどのようなことが起きないようにと雪愛の手をそっと取り、一つ提案をした。
すなわち、この屋台の通りを抜けるまで、手を
その表情は
「っ……うん」
雪愛は頬の赤みが増していくのを感じながらも、頷き、自分からも春陽の手を握ることで返したのだった。
春陽が雪愛を見つけたからこれから河川敷に向かうとグループメッセージで送った後、二人は手を繋ぎ、通りを抜けるべく歩き始めた。
「突然居なくなったって聞いたけどどうしたんだ?」
春陽のその疑問に、雪愛は先ほどあった出来事を話す。
「そっか。雪愛は大丈夫だったのか?」
「うん。私の方は本当に驚いただけだったから。けど、その親子を見送って前を見たらもうみんな先に進んでいなくて……」
ごめんなさい、という雪愛に春陽は優しい笑みを向けて言った。
「無事だったならそれでいいよ」
「うん……ありがとう、春陽くん」
雪愛の心は春陽と話しながらも別のことでいっぱいいっぱいになっていた。
春陽に
春陽と恋人繋ぎではないが、
正夢とまではいかないが、今朝見た夢と似た状況の連続に心臓の高鳴りが
春陽の手の温かさが収まることを許してくれない。
けれどそれがまた心地いい。
ずっとこうしていたいと思ってしまう自分がいた。
男性―――春陽に触れることでこんな気持ちになるなんて少し前の自分なら考えられなかった。
一方、春陽も心中は
自分はなぜ雪愛と手を繋ぐなどと言ってしまったのか、と。
あの時はそれが
倒れそうになる雪愛の姿はそれほど春陽にとって耐えがたいものだったのだ。
間に合って、腕の中に雪愛がいてくれて
そんな姿をもう絶対に見たくない、守れるものなら守りたいという思いでいっぱいだった。
だが、こうして落ち着いてしまえば、なぜという
雪愛を思って手を繋ぐと言ったはずなのに、雪愛の手の温かさを心地よく感じてしまっている自分が、あまつさえ離したくないと思ってしまっている自分がいることが余計に惑いを大きくしていた。
他者、それも女性に対する恐怖心は
そうして、表面上は穏やかな会話をしながら二人はようやく屋台の通りを抜けた。
通りを抜けてすぐのところで、春陽と雪愛はスマホを見た。
皆から雪愛が見つかってよかったという内容や気をつけて来てという内容の返信が来ており、悠介からの返信に、どこに
だが、ここからは
結局、
皆が雪愛が無事合流できてよかったと笑顔で安堵の息を吐く中、瑞穂が目に涙を
瑞穂の肩に回した雪愛の右手首には、それまで無かったペリドットの
そして、瑞穂も落ち着き、しばらく皆でお