「ねえ、ゆあち。今日は休み時間にどこか行ったりしないけどもういーの?」
最初に切り出したのは未来だった。
瑞穂と香奈は
「ええ。それはもういいの」
未来の言った通り、雪愛は今日
昨日
だが、そんなことを知らない三人はこれで終わらない。
「探し人が見つかったってことかなー?」
「えっ!?なんで―――」
未来が人を探していたことを知っているのか。
「雪愛、あんた二年の全クラスを何回も見て回ってたでしょ。すっごい
瑞穂の言葉に香奈も未来も
「噂って?」
ちょっと各クラスを
「ん~
実際は、雪愛に好きな人ができた。それは二年の誰かだが、クラスがわからない。だから探しているのだという流れで、誰だ誰だと特に雪愛に
「なんでそんなことになってるの!?」
「雪愛ちゃん目立つから。
「でも、廊下からちょっと教室を見ただけよ?」
香奈の言葉に雪愛はすかさず
「それが二日間、何度もね。だからでしょ」
瑞穂がすぐにぶった切る。
「みずっちの言う通りだねー。それで、それでー?実際どうなのー?男子を探してたのー?見つかったー?」
「みずっちはやめろ」
瑞穂のツッコミは三人にスルーされた。
「はぁ……確かに探してたのは男子で、まだ見つかってないわ」
「本当に男の子だったんだ」
香奈が目を見開いている。瑞穂も
「かなちもみずっちも驚きすぎだよー。でもそっかー。ゆあちにもとうとう春が来たんだねー」
「!?そういうのじゃないんだけど……。ただちょっと気になるっていうか…」
だが、雪愛の気になるという言葉にさらに香奈と瑞穂は
「けど、見つかってないのにもういーの?」
「ええ。連休中にまた会えることになって。その時にわかるはずだから」
雪愛は昨日麻理が言った言葉を思い出す。
『その日ならハルは
その後も未来、瑞穂、香奈から質問
ただ雪愛自身わからないことだらけなのだ。
最終的には、三人とも雪愛が
その日の放課後。
雪愛の帰った後の教室内で未来、瑞穂、香奈の三人は話していた。
「結局ゆあちの気になる人って誰なんだろうねー」
「さあ。でも雪愛にとっては初めてのことなんだろうね、あれは」
瑞穂は昼休みの雪愛を思い出しながら言った。
「何ができるかわかんないけど雪愛ちゃんの力になってあげたいね」
三人は近いうちに雪愛の変化にさらに驚くことになる。
そうして春陽にとっては
空はよく晴れており、
「こんにちは。今日はよろしくお願いします」
「いらっしゃい、雪愛ちゃん。ハルが来たら出発だからもう少し待っててね」
はい、と返事をして雪愛は悠介と楓花の方へと近づいていく。
メンバーは事前に聞いていたので、チェック
「こんにちは、
「あ、はい!佐伯楓花です!中三です!お兄がいつもお世話になってます!よろしくお願いします!」
楓花は、さすが悠介の妹という感じの
「楓花、お前
悠介は雪愛に、こんちは、白月と返事をし、楓花にジト目を向けた。
「だってお
悠介への言葉は小さめに、雪愛への言葉ははっきりとしていた。
だが前半部分も雪愛にばっちり聞こえてしまっている。
「んなことわかってるっつの」「え、ええ。わかったわ、楓花ちゃん」
そんな自己紹介をしていると再び扉が開いた。
「あ、ハル兄来た!」
その瞬間、雪愛は自分の身体が
そして、ゆっくりと振り返るとそこにいたのは――――
「風見…くん?」
目を見開いて驚いて固まっている春陽が立っていた。
今日の春陽はジーンズに
ちなみに、雪愛の服装も今日の予定を聞いていたため、春らしい
「なんで白月が……!?」
今日は毎年の言わば
雪愛も混乱度合いは春陽と似たようなものだ。今の春陽はあまりにもハルのときと
「あら、ハル来たわね。じゃあ全員
麻理はあっけらかんとそんなことを言うが悠介がすかさずストップした。
「いやいや麻理さん!この空気なんとかしてから行きましょうよ。向こうに
「もう、しょうがないわねぇ。雪愛ちゃんはこの間話したときに誘ったのよ。ハル!もう
麻理の言いたいことはわかるようで
だが、言われた春陽は、聞こえてはいたのか、
「……風見春陽です。……ここでバイトしてます」
まだ頭が追いつかず、
空気はおかしくなったままなのだが、麻理はこれでいいでしょ、と言わんばかりだ。悠介はそんな麻理に、
駅までの移動中、春陽は悠介からなぜこうなったのかを聞いていた。
雪愛は麻理と楓花の三人で歩いており、そちらはそちらで春陽のこと、雪愛のこと、楓花のことなど色々と話して
「…それは、麻理さんの嫌がらせということか?」
話を聞いた上での春陽の
「そうじゃねえよ。麻理さんがんなことするわけないだろ。…白月とのことがお前にとっていいことだって信じてんだと思うぞ?」
「…わけがわからん」
電車で一時間。電車の中では春陽も持ち直したが、雪愛と春陽が直接話すことはなかった。
このキャンプ場は手ぶらでバーベキューができるので結構な人気スポットであり、麻理達は毎年この日に予約をしている。
春陽がすぐに火を起こし始め、麻理は食材を箱から取り出し、雪愛達は五人分のドリンクを取りに行った。
そうして、すべての準備が整って、麻理が
「それじゃあ、今日は食べて飲むわよ!かんぱーい!」
「「「かんぱーい!」」」
春陽だけは
それからは皆思い思いにバーベキューを楽しみ始めた。焼き係が春陽なのは
悠介は食べる
春陽も焼きながら自分でも食べたり、悠介
麻理達は焼き場の近くに
「私、バーベキューって初めてです。外で食べると何だか
「そうなのよ!それにビールが美味しいのなんのって」
「いつもより食べ過ぎちゃうんだよー」
「この後もあるのに麻理さんそんなに飲んで大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ雪愛さん。麻理さんってばすっごいお酒強いから」
実際麻理は食べるよりも飲む方が進んでいるが、全く
時間は進み――――。
「ハル兄!お肉無くなっちゃったからちょーだい!」
悠介は飲み物を取りに行ったのか焼き場のところには春陽一人だった。
「自分で取りに来い楓花」
「えーいいじゃん!焼けたら持ってきてよー」
「あ、じゃあ私が―――」
「いいの、いいの。雪愛さんは座ってて。ハル兄お願いねー」
雪愛は自分が取りに行くと言おうとしたが、楓花に止められてしまった。
はあっと春陽は深いため息を吐き、焼けたお肉と野菜を皿に乗せ、三人の座る場所まで持っていくのだった。
「ほれ」
「ありがとー!」
「楓花、肉だけじゃなくって野菜も食えよ」
お皿を差し出す前に春陽が言った。
「むー。バーベキューはお肉を食べるものなんだよハル兄」
受け取ろうとしながら反論する楓花。
「や、さ、い、も食えよ?」
一度皿を上にやり、
「もう!わかったから!早くちょーだい!」
そうして春陽から肉と野菜の乗った皿を受け取った楓花。
その二人のやり取りを麻理と雪愛は
さらに時間は進み、みんないい
ふと雪愛が焼き場の方を見ると悠介が焼いており、春陽がいなかった。
あれ?と思い周囲を見てみるが、見当たらない。
すると雪愛の様子に気付いた麻理が
ハルなら多分
ちなみに、麻理のお酒のペースは
雪愛は一言断りを入れ、席を立つと意を決して春陽を
川辺に辿り着くとすぐに春陽は見つかった。座ってぼんやりと川を
「…ハルくん。ハルくんが風見くんだってわかって驚いたわ」
「白月…。黙ってて悪かったな」
「ううん、
「好きに呼んでくれていい。ただ店では今までどおりに、逆に学校でハルはやめてもらえると助かる」
「ええ!わかったわ!」
たったこれだけの会話で雪愛が笑顔になる、それが春陽には不思議だった。
「……白月はなんでそんなに俺のことなんか気にする?この間のこと、助けたなんて言える
「そんなんじゃない!きっかけは確かに助けてもらったからだけど、あなたのことを知りたいって、仲良くなりたいって思ったのは
「それがわからないんだけどなぁ。俺は白月がそんな風に思うような人間じゃないぞ?」
「そんなの私が決めることだわ。………それとも…ハルくんにとっては私がいると
最後の問いは
チラッと雪愛に目を向けた後、春陽は言った。
「……迷惑ってほどじゃないけど。
春陽には本当に雪愛が何を考えているのかわからなかった。こんなにグイグイ来るのは悠介以来だろうか。あの時も思ったものだ。
「でも、佐伯くんとも楓花ちゃんとも仲良くしているように見えるわ」
「あいつらに対しても
仲良くと言っても否定していない。それに、『最初は』ということは今は違うと言っているようなものだ。春陽の様子から無意識なのだろうなとは思う。けれど、ここに来る前、駅まで歩いているときの話を雪愛は
『ハルはね、人と関わるのをとても怖がっているのよ。だから遠ざけようとする。けど、その内側に入ったらあいつはもう遠ざけるなんてしないわ。だって本当のハルはすごく優しいから』
『ハル兄には押せ押せドンドン!ですよ!』
ならば、自分も楓花の言う通り押せ押せドンドン!だと雪愛は
「ねえ、ハルくん。私のことも名前で呼んでほしいのだけど」
「?いきなり何言ってんだ?」
どこから名前で呼ぶとかっていう話が出てきたんだと春陽は
「いきなりじゃないわよ。今日ずっと思ってたもの。私以外みんな名前で呼んでるのに私だけ白月って。ちょっと
「……悠介だって白月って呼んでるだろ」
「佐伯くんは関係ないわ。今はハルくんの話」
「…………」
黙ってしまった春陽に、ちょっと強引だったかしら?と雪愛の心臓はドキドキと
一方、春陽は頭の中が
「………やっぱり嫌、かな?」
雪愛は春陽の沈黙に耐えられなくなり、
「……雪愛。これでいいか?」
「っ!ええ!うれしい!
雪愛は
その笑顔を見て春陽もちょっと驚いていた。嫌だったからじゃない。なんだか胸の奥がポカポカするような何とも言えない
その笑顔に雪愛の心臓はまたも大きく高鳴った。心臓が壊れてしまうんじゃないかと思うほどドキドキ鳴っている。バイト先での仕事として浮かべている表情ではない。初めて春陽の笑った顔を見られた。
それが雪愛の心臓に大きな負担をかけている。
「そろそろ戻ろうか、雪愛」
「っ!そうね!行こう春陽くん!」
二人は並んでみんなのいる場所へと戻っていった。
その後、五人はお肉も野菜もすべて
そして、
「さあ!次は温泉に行くわよ!」
麻理が高らかに