「
初めに麻理と
過去に何かあったのか、大きくなりたかったのになれなかったコンプレックスか、なんてことは当然これまで一度も
その後の麻理の行動は早かった。
「よくやった!」と春陽の頭を一度ガシガシ
その時、麻理だけを呼び止め、春陽は雪愛がクラスメイトであること、気づかれたくないのでハルとしか
ここまで言っておけば麻理も
二人を見送った春陽は、そのまま店で働き始めた。
二階に上がった麻理は
「これなら大丈夫だと思うから制服が
麻理は自分よりも
これなら胸部がパツパツになってしまっても目立ちにくいだろう。
「ありがとうございます。下着は大丈夫です。何から何まですみません」
「いいのよ。着替えたら声かけてちょうだい。下に行きましょう」
そう言って麻理は雪愛を通した部屋から出ていった。
一人部屋に残された雪愛はここまでの
しかし、着替えている間も色々と考えてしまう。
(ハル…さん…名前もちゃんと聞けなかった。どうして助けてくれたんだろう……)
ハルは初対面の相手だ。
そんな相手があの時
そんな中でハルだけが助けてくれた。
(嫌な感じが全くしない
追い払うために、『彼女』って言われたのも本当に嫌とかはなかったのだ。
むしろ気にしてすらいなかったのに、ハルの方から
中学生になった辺りから雪愛の
胸が大きくなるにつれて、男子生徒がそこに視線を向けてくるのが嫌でもわかってしまった。そのこともすごく嫌だったが、男性教師までもが見てくるのが気持ち悪くて
それでも、自分の身体の成長とともにそういう目を向けられることが多くなるにつれ男性全体がどんどん嫌いになっていったのだった。
なのに……ハルに対しては安心感すら
大丈夫と言われたとき、雪愛は自分でも訳が分からないが本当に大丈夫なんだと思えてしまった。
その後も
けど、実際今こうして助けてもらえている。
(彼はどんな人なんだろう……もっと彼のことが知りたい……)
なぜこんなにもハルのことが気になるのか、知りたいと思うのか、雪愛自身理由はわからなかったが、その
そんな風に考えながらも雪愛は着替えを済ませた。Tシャツを着た時は
雪愛は部屋にあったスタンドミラーで一度チェックをし、部屋の扉を開けた。
「麻理さん、ありがとうございました。あの……Tシャツがちょっと伸びてしまうかもしれません…」
後半を言うのに雪愛は顔を赤らめてしまう。とても申し訳なさそうだ。
「うっ!?そ、そんなこと気にしないでいいのよ。むしろきついと思うけど少しの間
麻理は変な声が出そうになるのを力を入れて止め、引き
濡れてしまった服を受け取った麻理はすぐに乾燥機に入れて、二人で一階に下りていった。
「ここに座って。何か
麻理の言葉に雪愛はお
麻理はカウンター席の一席を
そしてすぐにカフェラテを二
ほっと一息
春陽はちょうど作った料理を出してきたところのようだ。
麻理がいなかった間にコーヒー類のオーダーは入らなかったため、特に麻理に急ぎ作ってもらうものはない。
「戻ったんですね、麻理さん。
「気にしなくていいのよ」
「白月さんも
「あ、はい。ありがとうございます。えーと……それじゃあオムライスをお願いしてもいいですか?」
雪愛は春陽に言われ、メニューを手に取るが、壁にかけられた『おすすめメニュー』と書かれた
「もちろん。少々お待ちください」
そう言って春陽は料理を作りに戻った。
そんな春陽を見送って、雪愛は麻理に申し訳なさそうに春陽のことを
「あの、麻理さん。ハルさんのこと教えていただけませんか?ここに来る
「ん?そうね~。どんなことが聞きたいのかしら?」
「どんな……ハルさんはどんな人ですか?」
言って、雪愛は顔を赤くしてしまった。あまりにもざっくりしすぎていると思ったからだ。春陽のことをとにかく知りたいと思う心がこんな聞き方をさせてしまった。
だが、麻理はふふっと笑うと答えてくれた。
「どんな人、かぁ。…ハルは優しい子よ。あんないい子によく育ったものだと本気で思うほどにね」
「?麻理さんは小さい頃からハルさんを知っているんですか?」
「小さい頃って訳じゃないわね。ハルは中学生の頃ここに住んでたの」
今は出て行っちゃったんだけどね、と
「えっと…麻理さんはハルさんのお母さん、ではないですよね?お姉さんとか…」
母親としては麻理は若すぎるように見える。
「違うわよ。どちらでもないわ。ちょっと色々あってね。ハルはここに住むようになったの」
「……そうなんですか。それならハルさんのご両親は……」
亡くなられてしまったのだろうか、と雪愛は言葉を
家族ではない人と一緒に住むことになる可能性など雪愛にはそれくらいしか思い浮かばなかった。
麻理は困ったように
「ねえ、雪愛ちゃん。ハルに対して
麻理はいきなり特大の
「えっ!?」
「ハルは
「っ!?…そ、そうだったんですか……!?」
雪愛は突然の麻理の発言に
「顔を見て気づいたって言ってたわよ。まあハルは自分があなたの同級生だって知られたくなかったみたいだから、私に
今言っちゃったとお
「……それは…言ってしまってよかったんですか?」
雪愛は完全に
だが、
「大丈夫よ。それに教えた方が
麻理は笑って言うが、雪愛にはなぜ教えると面白いのか全くわからない。
麻理だって本当に面白おかしくしたいと思って言ったわけではもちろんない。麻理は思ったのだ。あの春陽が、目立ちたくないと自分から行動することを
ならば、これが何かのきっかけになるかもしれない。それに―――。
春陽には
雪愛はまだ
「あ……それなら―――」
『ハル』の名前を聞こうとしたところで、春陽がお皿を持ってこちらに声をかけてきた。
「お待たせしました、オムライスです。温かいうちに
「っ!?あ、ありがとうございます…」
「ごゆっくりどうぞ。あ、麻理さんあちらのお客さんにカフェラテ二つお願いします」
「はいは~い」
話はここで中断してしまい、雪愛はオムライスにスプーンを
オムライスは本当に
お腹が減っていたのもあるが、
これなら他の料理も食べてみたい。もっと早くに入ってみればよかったとすら思った。
食べ終わり一息
「雪愛ちゃん、オムライスどうだった?」
「はい!すっごくおいしかったです!」
「でしょー!ハルの料理って本当においしいのよ!」
「そうなんですね。他の料理も食べてみたいです!」
本当においしかった料理に雪愛のテンションは高めだ。麻理も春陽の料理が
「そうそう。もう服は乾いたからいつでも着替えられるわよ」
「あ!ありがとうございます」
食事を終えた雪愛は着替えるために、麻理と共に二階へと上がり、制服へと着替えを済ませた。
麻理にお礼を言い、貸してもらっていた服を返した雪愛は、麻理と共に再び一階へと
「今日は本当にありがとうございました。ハルさんに助けていただけてなかったらどうなっていたか…。それに麻理さんにもたくさんご
春陽と麻理が
「ふふっ。いいのよ、気にしないで。雪愛ちゃんが無事で本当によかったわ」
「そうですよ。だから頭を上げてください」
二人から言われ雪愛はゆっくり頭を上げた。
そして、
「そろそろ失礼します。本当にありがとうございました」
「そう。またいつでも来てね。ハル、雪愛ちゃんを送っていってあげて。あなたももう今日はあがっていいから」
「…………」
「そんな!悪いです!」
「もう外は暗いし、ハルは安全だから。ボディーガードと思って。ね?」
「…すみません。ありがとうございます…」
麻理の中で春陽に送らせることは決定
そして、
「また来てくれたらうれしいわ」
「はい!絶対に来ます!」
「ふふっ。ほら!ハル、早く着替えてきなさい」
「……わかりました。ただ、このまま送っていきます。また戻ってくるので」
春陽からしてみれば、せっかく隠しているのに制服に着替えたりしたらすべて
本当なら雪愛とはこれっきり、となりたかったのだ。
「ハルが何を考えてるかはわかるけど、
「はっ!?」「えっ!?」
春陽と雪愛の声が重なった。
雪愛の方はまさか春陽に伝えるとは思わず、驚いてしまったのだ。
春陽の方は、
何を言っているんだこの人は、と。これは
愕然としたまま雪愛に目をやれば、雪愛は申し訳なさそうに
それで、もう知られていることは事実だと理解した春陽は
「……わかりました。着替えてきます…」
バックヤードに消えた春陽が制服に着替えて戻ってきたのはそれからすぐのことだった。男性の着替えにそれほど時間はかからない。
「……待たせてごめん」
着替えの間に心の整理がついたのか、春陽は同級生として雪愛に
「じゃあね、雪愛ちゃん。ハルもお疲れさま」
「はい、今日は本当にありがとうございました」
「…お疲れさまでした」
雪愛は何度目かわからないお礼を言い、春陽は
そして雪愛と春陽はフェリーチェを出ていくのだった。