「ここは良いところだよなあ。カトリーヌ」
「そうよね。景色もいいし、穏やかで。島の皆さんは気のいい人たちばかりで、とっても親切だわ。それにやっと農園も軌道に乗ってきたし」
はっと見ると、犬が立っている。
短足で小さい犬が器用に後ろ足で。
それに少女としゃべっているのは、犬!
ガタンッ。
男は窓からそうっと覗き見てて腰を抜かしそうになる。
「どなた?」
開き戸を開けてカトリーヌ(エリザベート)が外を見渡すと、高そうな上質のフード付きの
こんなに暑いオワイ島にめちゃくちゃ怪しい。
「すまーん」
男は慌てて転びながら走って逃げた。
「俺が追うか」
やれやれといった表情で犬のジスがブルルッと、体を震わす。
一瞬で身の丈がカトリーヌの二倍はありそうな大きな獣になった。
体中の毛がふさふさで大きいモコモコの尻尾が2本ある。
光り輝く銀の毛を持つ狼の姿に
変わったのは姿だけではなく嗅覚や五感ももっと鋭くなる。
「すぐには行かなくていいわ。ジス大丈夫。あの人の正体は分かってるもの」
「んっ?」
「これが、その証拠」
男が逃げる時に落としていったものを、窓からぴょんっと外に出てカトリーヌは右手にぎゅっと掴んだ。
カトリーヌはニコッと可愛らしく笑った。
「あの者を口止めせねばなるまい」
「そうね。ジスが普通の犬じゃないって知っちゃったものね」
「オレが勇者に仕えし聖獣だということは、あまり多くの人間が知るべきではないからな」