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009  Fたりは歩む



*>>三人称視点



 オーブショップをあとにした2人。ナユカは〔飛行〕のスキルを買い忘れ、あまつさえ所持金をほぼ使い切ってしまったことに後悔していた。


「うぅーー〜…」


「そういつまでもクヨクヨしないの〜」



「うぅーー〜…」


 この調子である。


「また今度買いに来るか〜、それよりも先にフィールドで飛行系スキルを取ってしまえばいいんだから、ね?それにほら魔法は使えるようになったんだし〜」


「そうだけど…」



「それに今から魔法教えてあげるから元気出しなって〜」


「ほんと!?」



 急に元気になったナユカを見て少し驚いたユキ、まあ元気になったならいいかと歩みを進める。


 昔からこうなのだ、元気になったり、落ち込んで見たり。コロコロと表情が変わる。まあ、そこがナユカの可愛いところでもあるからいいのだけれど。だけど…、そんなかわいいナユカは久しく見ていない。そう感じたユキはナユカを覗き見る。




「うん。その方がいいよ」


「なんか言った?」



「ん〜?なんでもない」



 ユキの小さなその声はナユカには届いていない。ユキは誤魔化すついでにゲームについてナユカにどんどん説明していく。


 バトルの仕方、このゲームのコツ。更には大まかな出来事も。


 笑い話もぜながら2人で歩む。



「ほらナユカ〜。こっちだよ〜」


「うん?闘技場は現実に存在しない建物だからいまいち土地勘がくるうね?」



「普段そんなに外でないでしょ〜?」


「それもあるかなー」



 そう、ナユカは普段から外に出ない。あの日、あの出来事があってから彼女は極度きょくどに人に恐怖心を抱き続けてきた。


 あの日…。明るかった彼女を恐怖に突き落としたあの事件。ユキはナユカは護れてもナユカの心までは護れなかった…


 事件直後は両親とユキ。それと2機だけ。それ以外の人を見るだけでナユカは顔を青ざめその場でその3人にすがり付き過呼吸になるほど。もしかしたら死んでたかもしれないのだ。8歳の少女にとってその事実は何よりも恐怖である。


 徐々に少しづつ、時間とともに症状は落ち着きを取り戻すもそれでもそう簡単に恐怖心は消えず。8年たった今でもその傾向けいこうは根強くナユカをむしばんでいた。



 もちろん、8年の間ナユカの両親はナユカに寄り添い。ユキが段階を得てナユカのリハビリを続けてきた…


 ゆっくりと、ナユカのペースで。少しづつ。



 そんな努力のおかげか、ユキ同伴どうはんかつ敷地内でなら他人相手でも基本的に会話は出来るようになった。


 更に敷地内ならユキがいなくとも外を出歩けるようになった。



 ユキは今日、ナユカをゲームにさそう。



 断られるかもしれない。そう思ったユキの不安とは裏腹にナユカはあっさりと誘いを受けてくれた。それはほんとに。少しづつ。ナユカの成長。


 今こうして自身の隣を歩くナユカを見てユキは微笑む。



 ふと視線を感じてか。ユキの微笑みに気付いてナユカもそれに答えるように微笑んだ。




 これはゲームで。今もナユカの本体はナユカの部屋のベッドに横たわっている。でも確かにナユカは外にいて。


 ちょっとづつ。



 小さな歩みが2つ。ゆっくりと大して遠くもない闘技場へ進んでいく。


 それは噛み締めるように。踏みしめるように。



 ナユカはそこを歩いていた。

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