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おにいちゃん、やめます。
おにいちゃん、やめます。
あき伽耶
文芸・その他童話
2024年11月14日
公開日
2,957字
完結済
大人は赤ちゃんをかわいいって言うけれど、たっくんはそうは思えません。お兄ちゃんは、我慢したり怒られたりといいことなし。次第にたっくんはお兄ちゃんをやめたくなっていくのです。
「小説家になろう」にて、レビュー8件獲得。ファンタジー系童話が好まれるなか童話ジャンルにて年間18位になり、多くの方の共感を呼びました。
兄や姉となった子どもたちの複雑な心情を子育て支援業の著者が丁寧に綴りました。子ども心に寄り添う物語ですが、大人にこそお読みいただきたい物語にもなっています。是非お読みいただけましたら嬉しいです!

おにいちゃん、やめます。

6がつ6にち


ボクのおうちにね、まっ白いベッドがやってきた。

でもボクがねるには、ちいさいなあ。

びょういんから、やっとかえってきたおかあさんが、だっこしていた赤ちゃんを白いベッドにねかせたよ。


「たっくんはね、おにいちゃんになったんだもんね」と、おかあさん。


うん。

でも、おにいちゃんて、なにするのかな。


「名前はメリちゃんだぞ。ほら、かわいいだろ?」と、おとうさん。


メリちゃん? ようちえんのおともだちと、おんなじだ。


「かわいがってあげるんだぞ? よろしく、おにいちゃん」


ふーん、おにいちゃんて、カワイガッテあげるんだ。


「あらまあ、メリちゃんたら」とおかあさんが、オムツのテープをびりびりして、赤ちゃんのおしりをきれいにした。


わ、なんかへんなにおい! 


おとうさんもおかあさんも、かわいいっていうけど。

赤いかおはまんまるだし。かみのけは、あんまりなくてはげてるし。ぼくがニコッとしてあげても、ちっともわらわないし。クサイし。

それにおともだちのメリちゃんは、もっとかわいいよ? おんなじメリだけど、ぜんぜんかわいくない。

おかおが丸まるいから、メリじゃなくて、マルのほうがぴったりだ。



 *



7がつ7にち


「かしこみかしこみ」


あのカンヌシさんがバサバサふってるやつ、やりたいな。おもしろそうだもん。

赤いかおのマルは、白くてひらひらしたぼうしにドレス。

おひめさまみたいで、ちょっとだけだけど、かわいいな。


きょうはあさから、じいじとばあばが来て、しゃしんやさんにいって、カンヌシさんのとこに来て。みんなに「おにいちゃんでしょ、しずかにしてね」っていわれて、つかれちゃった。

でも「えらいね」って。

えへへ。

おにいちゃんて、たいへんだなあ。


おうちにかえって、ベッドでマルがおひるね。

おとうさんもおかあさんも、じいじもばあばも、ベッドのまわりで「かわいいかわいい」って。


あのねボク、ようちえんの『のぼりぼう』、てっぺんまでできるようになったんだよ!

ベッドのぼうをカッコよくのぼってみせたら、「登らないよ、おにいちゃんでしょ。メリが起きちゃうでしょ」っておこられた。


みんなして、マルばっかり。

おにいちゃんなんか、つまんない。



 *



8がつ8にち


おっぱいっておいしいのかなあ。マルはまいにちのんでるけど。

ボクものんでみたいな。

でもはずかしいから、おかあさんにはナイショだもん。 

マルはいっつも、おかあさんのだっこでおっぱい。

ボクがだいすきなおかあさんのだっこ。

おかあさん、かしてあげるね。

おとうさんも、かしてあげるね。

だってボク、おにいちゃんだもん。



 *



9がつ9にち 


かしてあげた、だっこ。

ぜんぜんかえってこない。

マル、はやくかえして。

おにいちゃんて、いっぱいガマンする。

やっぱりおにいちゃん、やだなあ。

おにいちゃんやめて、マルになりたい。

そしたら、ずっとだっこしてもらえるもん。

でもまいにちおっぱいは、やだな。

マルのかおをじいっとみてたら、マルがニコッてした。

へえ。マル、かわいい。



 *



10がつ10にち 


ボクね、マルのにおいがすきなんだ。

おかあさんにきいたら、おっぱいのにおいかもしれないねって。

マルのおむねのところをクンクンする。

あったかくて、なんか知ってるいいにおいなの。

クンクンしてたら、マルがボクのかみのけ、ぎゅーってひっぱった。


「いたいよ、マル、やめてよー」


おねがいしたのに、ぜんぜんやめないの。

いたくていたくて、なみだでた。


「マルはあかちゃんだから。たっくんごめんね。おにいちゃんだからがまんしてね」


がまん、きらい。

おにいちゃん、きらい。

ボクがぎゅーってやったら、おこられるのに、マルはおこられない。

ずるい。

マルのかみのけ、ちょっとだけひっぱったら、マルがふぎゃってないた。

マルだって、がまんしろ。



 *



11がつ11にち 


ボクのだいじな赤い車のぬいぐるみ。お顔がついててね、ジョウっていうんだよ。

えほんやブロックのやまのうえ、ボクといっしょにブンブンビュ―ンってはしってね、はやいんだよ。すっごくたのしいんだ。


マルがえほんのとなりでごろごろしてる。

ボク、ごろごろのマルにぶつからないようにしてるけど、ちょっとジャマ。

マルはごろごろしたあとクルンって、おなかをゆかにつけて、あたまをぴって上げるの。マルはがんばって、できるようになったんだよ。


おやつのあと、ボクがジョウであそぼうとしたら、マルがジョウをおくちでびしょびしょにしてた。

ボクのだいじなジョウなのに……!

びしょびしょ、やめてよ!

かえしてよ! って、ジョウをとったら、マルがギャーッてないた。

おかあさんが、びっくりしてこっちにきた。


「たっくん、どうしたの?」


ボクのだいじなジョウだもん。

マルがおくちにいれるの、やなんだもん。

でもおにいちゃんなんだもん。

でもびしょびしょ、やなんだもん!

ボク、マルみたいに、まっかになった。


びりびり。

びりびりびり。


ボクのおむね、ようちえんの「しんぶんしびりびり」みたいだった。


やだ!

やだやだ!

もう、いやだ!

マルなんかきらいだもん!

おにいちゃん、いいことないもん!

おにいちゃんなんて、いやなんだもん!


「ボク、おにいちゃん、やめる!!」



 *



12がつ12にち


おとうさんとおかあさんが、こまってる。

でも、おにいちゃん、やめた。

がまん、やめた。

すきなこと、いっぱいするんだ。

すきなことしたら、たのしいはずなのにね、……なんかへんなの。

びりびりのおむねに、いらいら虫がくっついちゃった。


ジョウといっしょに、ブンブンビューンって、すっごく早くはしったよ。

マルはそばのベッドでおひるね。

でも、しるもんか。

びりびり、ブンブン、いらいら、ビューン!

びりびり、ブンブン、いらいら、ビューン!

しまった、ベッドにしょうめんしょうとつ!!


ドッカンごっちーん!!!!


あたまがびりびりいたくて、ジョウがびりびりやぶけて、起きたマルが、わあんてないちゃって……

だから、ボクも。


うわあああん、うわあああん。


おかあさんがはしってきて、ボクのことキュッて、だっこしてくれた。

いたいあたまも、なでなでしてくれた。

ジョウもなおしてくれるって。


「ねえたっくん、おにいちゃんだからって、がまんさせてばかりで、きがつかなくて、ごめんね。おにいちゃん、がんばらなくていいよ。だっこだって、いっぱいしてあげるね」


おかあさんがだっこしてくれてたら、いらいら虫となみだがね、だんだんとちいさくなった。


おめめのさめたマルは、ベッドのはしっこで、ごろごろクルンをやろうとしてた。

わあマル、だめ! そこでクルンしたら、ベッドにぶつかっちゃう! 

マルあぶない!

ごっちんしないように、ボク、いそいでベッドのぼうをにぎった。

おててのクッション、まにあった!


マルはそんなこと、ぜんぜんきにしないで、じょうずにごろごろクルンをして、ニコッてした。

ボクのかおみてね、うれしいねって、ニコッてした。


「ただいま」と帰ってきたおとうさんが、ボクをキュッてだっこしてくれた。


ねえおとうさん、マル、あぶなかったの。

ぜんぜんわかってないの。

やっぱり、マル、あかちゃんだもんね。

それでね、マルがニコッてしたおかお、なんかね、メリちゃんに似てたんだよ。



おかあさん、かしてあげるね。

おとうさんも、かしてあげるね。

でもときどき、おにいちゃんにかえしてね。

やくそくだよ?

よろしくね。

メリ。





(おしまい)

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