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 あ、ダメだ叩かれる。

 怖い、痛いのは嫌だ……でもこの隙にアトラが無法路地から出たら治安維持アラートでオートマトンがやって来て――――。


 そんな思考と同時進行で、容赦なく男は私に金属パイプを振り下ろす。

 私は目をつぶって、ぐっと歯を食いしばる。


 同時に金属がぶつかる音が響き渡る。


 っ………………あれ? 痛みがこない。


 叩かれたはずなのに……何が起こったのか確認するために目を開けると。


「何を……やっているんだ貴様は……っ‼」


 アトラが爆速で駆け寄り、振り下ろされた金属パイプをナイフの峰で受けながら怒りを滲ませてそう言った。


 そのままアトラはナイフの峰を使って金属パイプを弾き。

 掛け蹴りってやつから右のリバーブロー。

 反動と沈み込みからの抗力を使っての左のフックで、ワンダウン。


 そこからくるくると回るように別の男に飛び回し蹴りして。

 壁で跳ね返って来たところを三日月蹴りを刺して、ツーダウン。


 さらにもう一人に接近してヴァレリーキックで崩して。

 飛び膝蹴りで顎をかち上げて、スリーダウン。


「っう、わぁぁああぁあぁあぁぁ……っ!」


 最後の一人は、暴力行為を見て慄いて、しっぽを巻いて逃げ出した。


 あっという間の制圧、ええ? 格闘訓練まで受けてるの……? 凄すぎる……。


 迅速で華麗な武力制圧で呆気にとられていたところで。


「…………っ、いいだろ! 、それでいいだろ‼」


 アトラは私に背を向けたまま、声を荒らげる。


「姉のためなんかじゃあないことなんて、最初からわかってた! でも私は、そんなこと飲み込めない! そんなに利口じゃあいられない!」


 肩を震わせながら、アトラは心の中の思いを吐き出す。


「君もそうだろ! 勝手に、身勝手に、常に納得を求めている」


 振り向いて、こちらを少し涙が潤む目で真摯に見つめながら私に心からの思いをぶつけ。


「……だから私は、君と行動を共にしたんだ」


 やや穏やかに、少し悲しそうにアトラはそう言って。


「……正誤や善悪は自分で決めろ、そういう世代に私たちはいる。先人たちが、そういう世界にしてくれたんだ。君はそうやって勝手に生きている方が、魅力的だよ」


 優しい笑顔で、私に革命家らしく言ってのけた。


 そんな革命家の言葉に何か返そうと言葉を選んでいたところで。


 治安維持アラートが鳴り響く。

 そっか多分さっき逃げた男が通報して、この無法路地が修正されたんだ。


 アラートと共に、治安維持オートマトンが駆けつける。


「……私がアトラ・フライトだ。私がやった。投降する、彼女は私が巻き込んだ」


 治安維持オートマトンが到着したのと同時にアトラはナイフを地面に捨て、両手を上げてそう言った。


 オートマトンはナイフを回収し、アトラの両手に拘束具を付けて連行を開始する。


 私は連行されるアトラに向かって。


「チェリー・チェン。私の名前はチェリー・チェンだから」


 初めての自己紹介をする。


 アトラは私の方を見て、少し驚いた顔をして。

 すぐに笑顔を見せて。


 何も答えずに連行されて行った。


 まあ私も治安維持オートマトンに参考人として、事情聴取を受けたり色々と話を聞かれたり治安維持担当の人にちょっと怒られたりもしたけれど特にお咎めなしだった。


 少しくらい何か咎められても良かったけどね。

 そのくらいの満足感があった。


 自己紹介は済ませた、いっぱい遊んだ。

 私たちはもう友達なのだから。


 その後。

 アトラは治安維持担当による取り調べが行われた。


 自身の策略について余すことなく証言し、把握していた無法路地は全てマザーによる再演算で修正された。


 襲いかかってきた男たちに関しての対応は正当防衛が認められたけど、ナイフの所持や無法路地に関する報告義務違反やいくつか旧式の違法デバイス所持によって起訴された。


 そしてアトラへの処分は今回の覚醒期間の残りを留置施設で過ごし、そのまま状態固着睡眠をして二回目の覚醒以降は特別学習施設で過ごした後に保護観察付きでの社会復帰カリキュラムをこなすことになった。


 そんな革命家の話題はメディアも取り扱ったが、一週間も持たずに話題性を失って結局みんなすぐに忘れた。


 


 漠然となんとなく勉強したりみんなに合わせたりじゃなくて、自分のためになることをやることにした。


 亜光速でも振り切れない様々な思いを新天地連れていくべく。

 チェリー・チェンはチェリー・チェンのために、誰かのためじゃなくて自分の納得の為に生きることにした。


 ソフトゴシックじゃなくてばっちりゴシックメイクを決める。

 肌は青白く、目の周りはより黒く、リップは赤黒く。

 スカートの丈も長く、爪も黒く塗った。


 親からは不気味だと言われたけど、これで移住計画に支障は出ないと言ったら何も言われなくなった。

 学校では教員やクラスメイトから驚かれたり、興味の対象にされたけどもう慣れた。


 鏡を見るのがこんなに楽しいと思ったことはない、私は今、好きに生きている。


 そんな日々の朝、アイラインを引いているところでアイライナーが転がって棚の裏へと落ちていった。


 若干憂鬱になりながら、棚を動かしてアイライナーを救出したところで。


「……あっ」


 私は思わず声を出す。


 Why are you here?


 再び、壁から問いかけられた。


 完全に忘れてた。あんだけ悩まされたのに……まあ答えはもうとっくに出てるんだけどね。


 私は壁の問いかけに対する答えをアイライナーでそのまま返す。


 for myself.


 


 結局、私がここにいる理由はこれにつきる。

 私は革命家の悪戯で、自分勝手に生きられるようにされてしまった。


 だから、まだまだ私の旅は続いていく。

 私のために、またまだ旅は続けていく。



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