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「はは……、マヌケ過ぎて余裕で見つけられたわよ」


 都市階層を四時間半もの間に探し回ったことを余裕とするなら嘘ではないことを私は述べる。


 モーターアシスト付きとはいえ絶対明日は筋肉痛……、でも体育の授業を真面目に受けていて良かった。学校生活も無駄じゃあない。


 私は息を整え、軽く汗を脱ぐってアトラに向き直し。


「出頭しましょ、アトラ。今ならまだそこまで大きな処分は下されないし、自分から出頭したらなんか情状酌量の余地があるかもしれない。私も一緒に治安維持の大人に謝るから」


 真摯に私はアトラを説得する。


 革命……いや、今なら単なる悪戯として処理される。

 確かに無法路地の報告義務は怠ったし、無法路地を悪用してはいたけど誰かを害したりそれで金銭的な利益を得たわけじゃあない。


 めちゃくちゃ怒られるし、なんかしらの罰則が適用されるだろうけど全然なんとかなるはず。授業でこの辺の法律や規定について触れていた。


 まさか学校での授業がこんなかたちで役立つとは思わなかったけど、これ以上ややこしいことになる前に終わらせてしまう方がいい。


「うん、お断りだね。今出頭しようが状態固着睡眠に入る時に身柄を抑えられようが間違いなく今後、私の行動にはなんかしらの制限が付く。そうなれば革命は進められない、私はギリギリまで活動を続けるつもりだ」


 アトラは私の説得をけんもほろろに拒絶する。


「っ……もうやめよう。やっぱこれ意味ないよ。確かに思った以上に話題にはなった、でもどうせ忘れられる。犯人が捕まって、犯人はティーンエイジャーの女の子だったとわかったら悪戯だったで片付けられる。アトラの主張は個性的な女の子の悪戯として、みんな特に考えずに落とし込む」


 私は堪らず、説得を続ける。


 そう、こうなった時点でこの策は失敗なんだ。

 ホラーは正体不明だからホラー足り得る、こうなったらもう悪戯でしかない。


 人々の関心は正体が分かった途端に失われる。

 誰の心にも残らない、何も変わらない。


「ああ、そうだね。多分そうなる、だったら――――」


 アトラは立ち上がりながらそう返し、ロングコートをひるがえして内側から。


「――――なら、歴史に刻むことが出来る」


 ナイフを抜いて、こちらに見せながらそう言った。


 一瞬頭が真っ白になる。

 刃渡りが二十センチを超える大きな片刃の刃物だ。


 あんな大きな刃物は文化的な保全を目的とした保管か歴史的な研究、もしくは料理人くらいしか民間人は持ち込めない。


 自作したの……? まさかそこまで……。

 いや言っていた、確かに言っていた「最悪、何人か刺しておおごとにする」って。


 本気なんだ、アトラは革命家だ。

 間違いなくこの時代に現れた唯一本気で世界に挑戦している思想犯なんだ。


 私の中に焦りや恐怖や悲しみが駆け巡って、視界がちかちかと点滅する。


 でも、それでも。


「……っ、もうやめよう‼ 無駄すぎるよ! 私は無駄や余裕は大切だと思ってる! ホラー映画とかメイクとか! 無駄だけど素敵なものはいっぱいある‼ でもそれは、それはダメだよ‼ それで傷つく人は、時代や環境のせいじゃない! ただアトラのせいで傷つくだけだよ!」


 私はアトラに説得……いや、もうただ心の中の思いを吐き出す。


「あなたはただお姉さんを傷つけた時代が許せなくて、まだ子供で何も出来なかったのが嫌だったのを八つ当たり……いや憂さ晴らししたいだけだ! 人類のためどころかお姉さんのためですらない、自分のためだけの革命でしょ‼」


 吐き出される思いと一緒に、私の目からは涙も零れる。


 ああわかった。

 私がなんで、アトラを止めたいのか。


 

 


 優秀なのにぶっ飛んでいて、理知的なのに根っこで感情を優先させる。


 ただなんとなくここにいて、なんとなくクラスメイトたちに歩幅を合わせて生きているだけの私は。


 革命家アトラ・フライトに憧れたんだ。

 尊敬してしまったんだ。


 そんなアトラが、悪者になってしまうのが嫌なんだ。

 思想とか正義とかそんなものじゃあなくて。


 ただ私は幼稚な友情で、アトラに向き合っている。


「……それが――――」


「――――見つけた! 間違いない‼ あの女だ‼」


 アトラが何かを答えようとしたその時、私の背後から男性の怒鳴り声が響き渡る。


 驚いて咄嗟に振り向くと。


「おまえがアトラ・フライトだな! 違法行為で逃走中の! 民間人の逮捕権は認められてるからな‼ 大人しく捕まれ! 犯罪者‼」


「よくも脅かしやがって……探し回ったぞ! センサートラブルを悪用して民間人に恐怖を与えて、犯罪だろ‼」


「移住計画遂行のために、犯罪行為は制圧だ!」


 なんてことをアトラを指さし、大きな声で宣う。


 男性が四人、全員何かの建材のような金属パイプを握りしめて武装している。


 え、なに誰……あ、一人はわかる。

 確か一番最初に無法路地で驚かした人だ。


 そっか最初に脅かした男の人が仲間の人を連れて『ラストエデンの亡霊』の記事を見て亡霊の正体を調べて探し回っていたんだ。


 どういう流れかはわからないけど、アトラを特定した。

 正義感という大義を得て、アトラを捕まえに来たんだ。


 金属パイプを振り回して、興奮気味だ。

 この路地はセンサーが効いていない場所、助けは来ない。


 かなり危険な状況だ。


「し、私人逮捕はトラブルに巻き込まれてやむを得ない場合に限ります! 捜し出して逮捕するのは、民間人には捜査権限がないのでこれは違法行為です! やめてください!」


 私は授業で習った知識をフルに活かして、男たちに制止を促す。


 そう、これは違法行為だ。

 ここは無法路地だから治安維持アラートが鳴ってないだけで、あんな金属製のパイプを振り回して良いわけがない。


 そもそもアトラに関してはまだ治安維持担当が捜査している段階なので、何かしらの容疑はあってもまだ起訴もされてないし罪が確定しているわけでもない。


 そんな人を捜査権もないのに特定して、成人男性複数人が武装して取り囲むのは完全に違法行為だ。

 正義感なんて便利なもので理由付けしてるけど、それじゃあ言い訳にならない。


 私は男たちとアトラに割って立ち塞がるように、訴えかける。


 しかし。


「なんだ仲間かぁ⁉ まとめて捕まれッ‼」


 興奮状態にある男は私を怒鳴りつけられながら、パイプを振り上げる。

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