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「…………なにがだい?」


 私の思いに、アトラは低い声で静かに返す。


「わかんない……でもさ、人類は最善を尽くしたんだよ。だから私たちはここにいるわけで……少なくともその時その瞬間においては必死で最善の行動をしてきた……はず」


 私はなんとか私の中から湧き出た思いを言語化しようと言葉を並べる。


「ちゃんと考えることは必要だと思う。でもそれはちゃんと歴史や行動のログを検証して、さらには今後の人類の新天地での発展度なども考慮して考えなくちゃならないことだと思う。仕方ないことだったのか、その犠牲に対してこれからの人類はどれだけ変わっていかなきゃならないのかを」


 何とか言葉を捻り出して、私は思いをかたちにしようと語り続ける。


「でも今それを突きつけたり世論に波紋を起こすようなことをしても、答えは出ない。あなたの革命は、まだ人類のためにならない」


 無理やり私は続く言葉に合流するように言葉を紡いで。


「お姉さんのため……なの?」


 私はアトラに、問いかける。


「もしそうなら、革命なんかじゃなくてお姉さんのために……こうメンタル的な部分で寄り添ったり一番近くの味方になるみたいなことをした方がいい。お姉さんのためだけになることをして――――」


 私はアトラへ語りかけながらも考える。


 否定をしたいわけじゃあないけど……なんだろう、わからない。


 でも、なんか違う。

 もっと……こう……いやなんだ? なにが気に入らないんだろ、私は……。


 全然言語化が出来ない。

 なぜかわからないけど、無性に違う気がしてしまう。


「はあ……あまり姉を舐めるな。超人になれなかっただけで私の十五倍は優秀でスタイルも良い美人だ。私なんかの助けなんて必要ない、立派に自立した大人だよ。私が姉にしてやれることなんて……ないんだ」


 やや眉をしかめて、私の語りかけに対してアトラは感情を滲ませながら返して。


「まあ否定はしないよ。というかもう理由とか動機とかきっかけなんて何だっていいんだ、私の目的は革命の遂行。エゴだろうと不純だろうと憂さ晴らしだろうと、私は遂行するだけだ」


 すぐに感情を戻して、アトラは平らな声で覚悟を宣い。


「でも…………君もただ非日常を楽しんでいただけのように、私には見えていたけれどね。まあいいか、君に対する革命は既に完了している。協力を感謝するよ」


 心做しか残念そうにそう言って。


「ありがとう、さよならだ」


 アトラは笑顔で、私に別れを告げた。


 その日、ブロッサム・ノアから幽霊が消えた。


 それから。

 いつものように学校に行って授業を受ける日々に戻った。


 ギリギリ大丈夫なソフトゴシックメイク。

 みんなと同じくらいのスカート丈。

 適当に話を合わせて、ヒットチャートやら授業の話やら。


 無法路地を駆け巡ったり。

 こっそり驚いてる様子を見たり。

 思いっきりゴシックメイクをしたり。

 霊障偽装の演出をあーだこーだ話し合ったり。

 『ラストエデンの亡霊』でパブサしてみたり。

 大真面目にホラー映画の構造を因数分解しながら観たり。


 そんな日々から離れ、私は学校生活に戻った。


 アトラとはあの日以来、連絡も取り合っていない。

 喧嘩別れ……いや、そもそも友人という仲でもなかった。アトラは私の名前すら知らないわけだし。

 別に私は巻き込まれただけで、元の生活に戻っただけだ。

 アトラも霊障偽装の策は止めたみたいだ。

 ある程度の効果はあったし、そろそろ引き際って判断して何か別の策に移ることにしたんだろう。


 ……次は何やるんだろ。

 いや、私には関係ない話だ。仲間でも何でもないんだから。


 ……………………うーん……いや、認めよう。

 この意地に意味はない、無駄だ。


 

 アトラと大真面目にホラーの話をして、思想強めな議論をして、都市階層の色んなところに行って、美人に思いっきりメイクを試して、人を驚かして。


 今の状況に退屈を感じてしまう。

 私は楽しんでいたんだ。


 ああ、浅ましい自分が嫌になる。


 アトラの言う通りだ。

 私もただ、強い思想を大義にすり替えて不謹慎な題材で退屈しのぎをしていただけだったんだ。

 クラスメイトたちや世論とそれほど変わらない、私は愚か者だ。

 結局私はアトラにここまで影響受けても、私は私自身がここにいる意味に答えを出せない。


 教室の机に突っ伏して、端末をいじりながら答えが出ないことをぐるぐると頭を悩ませていると。


「………………え?」


 私は端末に出てきた速報ニュース記事に、思わず驚きの声を漏らす。


 見出しは『ラストエデンの亡霊、特定へ』というもの。


 内容は、目撃者からの情報や撮影された映像からの解析によって心霊騒動を起こしていた人物を特定。

 さらに、センサー類の不調やトラブルを意図的に悪用し報告を行わなかったことにより現在治安維持担当による捜査が行われているとのこと――――。


「……っ!」


 私は記事を読み終わると同時に机から立ち上がる。


 行かなくちゃ。

 いてもたってもいられない。


 そのまま私は驚くクラスメイトたちをよそに、そのまま教室を飛び出して学校前のレンタル自転車に乗って漕ぎ出す。


 アトラの場所はわからない、でも多分治安維持担当から逃れるために身を隠す。

 身を隠すのならアトラは必ず無法路地を使う。


 治安維持アラートの鳴らない無法路地だけが、この都市階層で身を隠すことが出来る場所だ。


 私は頭の中でアトラが紙にメモしていた無法路地の場所を思い出す。

 アトラについて回って何ヶ所も無法路地には行ったけれど、行ったことのある無法路地は全て修正されているはず。


 メモ自体は見せてもらったことはあるけれど、複製したり端末に残るような共有はされていない。目視確認をしただけだ。


 しかも一回見ただけ。

 思い出せ思い出せ思い出せ……、あのメモに書いていた内容を。


 私はうろ覚えの記憶を頼りに、自転車のモーターアシストを最大にして都市階層を駆け回り。


 そして。


「はあ……はあ……あー、見つけたよ。アトラ」


「……流石に驚いた。まさか見つかるなんてね」


 無法路地の奥に放置された搬入ボックスに腰掛けるアトラを見つけて、息も絶え絶えに声をかけるとアトラは珍しく驚いた顔で私に返す。

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