「やがてこの一歩引いた観点は、一歩先の考え方として固定化される。そうなった時に愚か者は愚か者ではいられなくなる、恥ずべきことなんだという雰囲気が漂う」
アトラは淡々とその思惑に対する語りは続け。
「これが私の望む革命、意識改革だ。そのためのきっかけになるのなら、馬鹿馬鹿しい方法だろうとくだらないことだろうと嘘だろうと違法だろうと奇策も愚策も何だってするさ」
やや声量を強め、覚悟を感じさせる言葉を宣ってアトラは語りを終えた。
なるほど……、いやなるほどか?
なんか長々語ってくれたけど、わかったのは思想の強さと革命に対するマジさだけ。
納得は出来ない。
「……なんでそんな……あなたがそこまでする理由ってなんなの?」
私は話を聞いた上で、率直な疑問を投げかける。
いや熱意とかは何となくわかったけど「で?」って話でしかないからね。納得感はまだない。
「ああ……まあいいか、思ったより君とは親しくなれたからね。教えてあげよう」
再びにこりと目を細めて、アトラは語り出す。
「あ、ちなみにラストエデンに私の友人や家族が取り残されたみたいなことはない。正直、私はラストエデンに対してそこまで思い入れはない。併せて考えた方が良いものではあると思ってはいるが、私の根幹はそこにはない」
あっけらかんと、一番手前にあった予想の否定から入る。
え、ち、違うの……?
さんざっぱらラストエデンの亡霊とか話題にして……いやまあ多分そこにも思うことがあるにはあるんだろうけど、話題になりやすいところから主張したのか。
二百年の間にあった犠牲の中でも、ラストエデンというのは認知度も高いしインパクトもある。
そんなところまで徹底していたのか……、想像以上にクレバーだ。
でもここまでクレバーにうごかせるほどの動機って――――。
「――――
私の頭の中の疑問に力強く続くようにそう言ったアトラからは、笑みが消えていた。
「私には姉がいるんだ。年は七つほど離れていてね、まさに超人世代ど真ん中の年齢だ」
そのままつらつらと、アトラの根幹について語り始める。
「姉は生まれた時から超人になることを義務付けられて育った。知力、筋力、体力、精神力などはもちろんのこと医学や機械工学やプログラミングなんかの専門的なものをプロフェッショナルになるまで鍛え抜いていた」
アトラは超人世代について語る。
これは私も知っている、私たちの世代は超人世代とうっすら比較されてきた。
超人世代のような、苛烈な教育カリキュラムにならないように。
スペアエデンに行くためではなく、到着した後にフォーカスした教育が出来ているかどうかとか。
まあ実際これが出来ているか微妙なんだけどね。
「私は姉を尊敬していた。いや過去形じゃあないか、今も尊敬しているし、これからもこの尊敬が損なわれることはない」
私の考えをよそにアトラは語りを続ける。
「まだ姉が学生だった頃はブロッサム・ノアの量産がどこまで行われるのかわかっていなかったからね。両親も特に専門的な職ではない一般家庭のうちとしては、姉が超人として移住計画に参加することが唯一船に乗る方法だと姉も含めて家族全員がそう考えていた」
平らな声で、時折遠くを見つめるような眼差しでアトラは家族について語る。
「というか、超人世代に生きた大人のほとんどはそう考えていた。だから、苛烈な競争社会となった」
当時の世論についても語る。
まあこれも間違いない。
私が物心がつく頃にブロッサム・ノアが五十三機建造されることが決まるまでは、そうだったらしい。
ちなみにうちは早い段階で乗船が決まっていた。
両親ともに学者で少なからず移住計画に携わっていたから、当時は役割を持った人間を優先的に乗船させる方針があったみたい。
つまり、必然的に椅子取りゲームが始まった。
「その苛烈な競争……もう生存競争と言っても過言ではない競走社会で、人類は飛躍的に進化した」
アトラは少し笑みを浮かべ、語りを続ける。
「ほら、あの『可愛すぎる天才』ことシャーロット・ヤスダ女史や『人類最強』のミストマン氏や『超人世代首席』のビリィ・ベイブルック氏なんかは聞いたことないかい? 彼らのような本物の超人を生み出すに至った……これが成功例。つまりは、失敗例もあった」
やや得意げに超人世代の人について語る。
詳しいな……、確かに幼少の頃メディアで取り上げられていた気もするけど流石に個人名までは覚えてない。
それが成功例……では、失敗例とは。
「苛烈な競争についていけなかった人々、超人になり損なった人々だ」
緊張感を感じる声色で、アトラは語る。
「まあお察しの通り、私の姉は苛烈な生存競争に振り落とされた。訓練に着いていけず超人にはなれずカリキュラムから外された」
やや早口になるべく感情を抑えて、語り……いや吐き出していく。
「姉は心を病んだ。超人になり損なったことを悔やみ、自分を責め続けて病んでしまった」
感情を抑えて尚、圧のある声でアトラの根幹を述べる。
「さらに病んだ姉を両親は糾弾した。どうしてもう少し頑張れなかったのかとか、家族がどうなるかは考えなかったのかとか……まあ両親を肯定したり擁護する気は微塵もないけど、彼らからしたら姉の失敗はイコールで死だった。地球に置いていかれると本気で考えていたからね……誰もマトモでいられる状況でもなかった」
複雑な気持ちを抑え込みながら、努めて冷静にアトラは悲劇を語る。
「……自責と糾弾に耐えかねた姉は姿を消し、程なくしてブロッサム・ノアなほぼ全ての人類を乗せられる数まで量産されることが確定した」
アトラはタンブラーから一口レモンスカッシュを飲んで冷静さを取り戻しつつ、語りを続け。
「超人世代は無駄に競わされて、不要な生存競争に人生を強制されて矯正された時代の犠牲者だ」
レモンスカッシュ程度じゃ冷めない熱を帯びた声でそう言った。
「結局……超人となった人々はブロッサム・ノアと確定予測演算装置というハード面システム面共に磐石となった移住計画で、その超人性を発揮する場面は訪れることもなく。その何倍もの落伍者たちに肉体的にも精神的にも大きな傷跡を残して、壊した」
そのままアトラは熱の篭った声で語りを続ける。
「実際、超人世代にあたる人々から多くの自殺者が出たというデータもある。まあ一概に全ての要因が競争社会にあったとは言えないが、全くの無関係であるとも言えないだろう」
早口で捲し立てるように、怒りや悲しみを纏った言葉を並べていく。
「ああちなみに姉は生きているよ。ちゃんとデータベースを検索して存命を確認した。このブロッサム・ノアβ41に乗船しているらしいが、Cグループではないようだけど」
突然、気づいたように穏やかな口調へと変わる。
「人類はこの移住計画を遂行するために二百年を要した。凄まじい速さで強行された人類の存亡をかけた計画は、超人世代だけじゃあなくて様々な成功と失敗からなる排除と犠牲によって今日に至る」
ここでアトラは当初私に語った動機に話を繋げて。
「縮退炉やブロッサム・ノア製造の為に大陸と月を半分以上削り、環境によって居住地を失った難民たちの暴動、食料や資材の抱え込みなどの不正の淘汰からくる紛争、出生率管理、安樂死選択……そうやって人類は色々なものを削りに削って今ここにいる」
二百年の間に起こった出来事を並べて。
「この奇跡を、ただ今の時代に健康で生きていただけで何も考えずに受け入れている愚か者たちが……私は気に入らないのさ」
アトラは革命家としての根幹を、語り終えた。
なるほどね……これはなるほどだ。
アトラの根幹は超人世代……より具体的にいうならお姉さんから始まったのか。
お姉さんを傷つけて壊して、今の人類はここにいる。
そんな奇跡みたいな今に、何も考えず船に乗る人類が気に入らない。
だから、革命……意識改革を行って何も考えないことをさせないようにしたい。
そういう話だ。
理解出来た、意味はわかった。
納得感はわりとあった。
でも、この話を聞いて尚、私は。
「なんか……
心の中に湧き出た思いをそのまま口にする。