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 そして。


「――――追いテ……か、なイ……で」


「うわぁぁあああぁあぁあ――――――――っ‼」


 みたいな。


「――――憎……イ……、おまえラ……が……、憎ィい」


「キャアァアア――――――――アァァァァアっ‼」


 だったり。


「――――死ニた、く……ナかっ……た、おまエらの……せイで……」


「な、なぁああぁあぁああああぁ――――――ッ‼」


 っていう。


 アトラは初回と同じように、人を無法路地に誘い出して霊障偽装で脅かし続けた。


 まあ阿鼻叫喚。

 亡霊作戦は絶大な効果を発揮した。


 ホラー映画が趣味の私からしたら、テコ入れして初期案よりはマシになったとはいえ粗だらけで稚拙なB級どころかZ級ホラーだと思ったけど。


 だからさらに途中何回かメイクや演出にテコ入れを行った。


 確定予測演算装置マザーの管理するAI制御された科学技術の真骨頂であるブロッサム・ノアβ内で起こる絶対に起こり得ないことを前提とした怪奇現象は、想像以上の恐怖を与えた。


 宇宙空間で起こる霊障は、ネットワーク内であっという間に拡散された。


 様々な考察や議論が行われ、やがて思惑通りに地球に残されてきた人々の霊として認識され。


 、そう呼ばれるようになった。


 賛否両論。

 一方ではマザーの確定予測演算を超えた事象な以上、本当にオカルト的な超常現象がブロッサム・ノア内で起こっているとされていたり。

 一方ではオカルトなんてありえないので何かしらのシステム介入などで行われている違法行為だとされていたり。


 真相究明のための議論も活発に行われていたし、再現検証を行う人まで現れたり、目撃者証言をまとめた記事とかも出たりしていた。


 それだけではなく。

 アトラの思惑通り、ラストエデンに残された人々についての話題も上がるようになっていた。


 その無念さとか、どうにか出来なかったのかとか、仕方ないとか、そんなことを喧々諤々したり。


 なんかの団体がスペアエデン到着後に慰霊碑の設置を計画し始めたり、その設立に合わせたクラウドファンディング返礼用Tシャツとかを作り始めたり、なんかラストエデンへの悲しみを歌った楽曲だったり、知人や身内がラストエデンに残った選択をしたエピソードを綴ったエッセイだったり。


 あっという間に、Cグループ全体に波及して一番ホットな話題として広まって。

 そんなネットワーク上での話題は、やがて校内でも聞こえてくるようになった。


「ねえ見た? ラストエデンの亡霊のやつ」


「見た見た、なんか色んなとこに現れるんでしょ?」


「置いてかないでとか、忘れるなとか、言って来るっていう」


「イタズラにしては全然捕まらないから、マジなんじゃないかって話」


「えーこわぁ、ラストエデンに残された人たちの無念が都市階層をうろうろしてるってやつでしょ?」


「でもなんか可哀想だよね。ラストエデンに残された人って」


「わかるー、本当に悲しいことだよね」


「なんかもっとちゃんと生きなきゃって思った」


「ねー! それ! 私もめっちゃ思った!」


 なんてクラスメイトの話が聞こえてくる。


 いやはや本当に思った以上に効果が出てる……、あの霊障偽装がアトラの言う意識改革に繋がってきてる。


 今まで誰も考えようとしなかったラストエデンに残された人々について、考え始めるきっかけとなってい る。

 方法はともかく、これ自体は悪いことではない。

 自分たちが何故この船に乗れているのか。どう生きていくべきなのかとかをスペアエデンに到着するまでに考えておけるのは多分新天地という新環境での新生活にプラスになる。


 Why are you here?


 あんたはなんで、ここにいるのか。


 …………まあ、私自身は自室の壁からの問いかけにまだ答えは出ない。

 消すことも出来ず、棚で隠して考えないようにしている。


「チェリーは? ラストエデンの亡霊の話」


「……えっ? あー、うん。可哀想だよね」


 私はクラスメイトから突然振られた問いかけに、かなり適当な言葉を返す。


 その瞬間、私の胸の真ん中からモヤっと違和感が膨らむ。


 なんだ? なんだろ。

 なんか嫌な気持ちだ。


 私はクラスメイトたちの会話の輪から、一気に気持ちが引いてしまう。

 引いた先から、ぼんやりと彼女たちの会話を聴いているような感覚。


 なんか……? これ。


 こんな稚拙な誰かの悪戯だってわかりきっている霊障偽装に人々が騒ぐのは、暇で退屈なだけ。

 人を慈しむ感じが良いことをしてる気がしてるだけ、悲しんでる方が正しい感じがするだけ、平和なオカルトを安全な位置で騒ぎたいだけ。


 ラストエデンには本当に人が残されていたし、私たちは本当に犠牲の上にこの船に乗っている。

 そんなものが、暇つぶしの話題にされていること自体が不謹慎に思えた。


 私はそんな違和感を、そのままアトラにぶつけた。


「……なるほど。素晴らしいね、君は」


 アトラは旧式折り畳みコンピュータの物理キーボードを叩きながら、私の話を聞いてそう漏らす。


「まあその通り。これは何も考えてない愚か者でも考えられるように愚か者に合わせた方策だ。これは不謹慎な話題で愚か者たちの退屈に漬け込み、騒がせるための策なんだよ」


 キーボードを叩く手を止めて、アトラは笑みを浮かべてはいるが対象的に冷たい声でそう語り始めた。


「そもそも話題にさえなれば何でも良かったんだ。いくつか考えていた方策の一つ目が思った以上に効果を上げただけにすぎない」


 私に向き直しながら淡々と、自身の思惑を語り続ける。


「まあ正直に言ってしまうと、君にわざと稚拙に見せて協力するように仕向けた。メイクばっかりは鏡で見て自分でやるよりできる人間が客観的な視点を持ってやった方が自然だし、CG修正だと生っぽさが出ないからね。ちょうど良かった」


 笑みは浮かべつつも平らな声で、全てを明かす。


 これには妙に納得してしまう。

 ちぐはぐすぎたし準備が良すぎた。


 心霊偽装に対する機材を用意するのに二日は早すぎた。超人世代でもない、ただのティーンエイジャーにしてはでは手際が良すぎた。


 まんまとホラー好きでメイクも出来ちゃう私が釣られてしまったと……なるほどね。


「メッセージ性の強い楽曲の流布、本の執筆、影響力のある人物への広報依頼とか色々考えていたけれど……最悪の場合は無法路地で何人か刺しておおごとにしてしまうことも考えていた。


 そのまま流暢にアトラは冷たく語り続ける。


 確かに……、私は一度もアトラに名前を聞かれていないし名乗ってもいない。ずっと『君』としか呼ばれてなかった。


「方法なんてどうでもいい、倫理観など考えない。この船に乗る愚か者たちが、ふと冷静に『なぜ自分たちはここにいられるのか』を考えるきっかけさえ作ることができれば何だって良かったんだ」


 淡々とアトラは続けて思想を語る。


「浅い感傷と感動、薄っぺらな正義感、くだらない同情と共感、そこで止まってしまうやつらはもう何をしても手遅れだ。愚かなままスペアエデンへとたどり着くだけ」


 冷たい言葉の中にちらりと熱を帯させて少し早口で続けて。


「私の真の狙いは、そんな愚か者たちの姿を見て自身がここにいる理由を省みる人々を生み出すこと」


 アトラの目的の真ん中の部分を語り。


「まさに、君のようにね」


 私にしっかりと熱を帯びた目を合わせて、そう言ってにこりと笑った。

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