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 そんなこと思っていた、二日後。


 思っていたより早く謎の旧式端末で、私は例のアトラのアジトに呼び出された。


「おお……、凄いな君は。確かにゾッとする、鏡を見て嫌になったのは初めてだ」


 黒髪ロングのウィッグに私が施したゴシックメイクベースに傷メイクで痛々しく病んだ見た目のアトラが鏡を見ながらそう漏らす。


 今日はメイクボックス持参で、がっつりアトラにメイクを施した。


 やっぱり美人だな、この人。

 肌も綺麗でファンデのノリもいい、むしろホラーに寄せるために傷メイクでちゃんと荒らしていかないとホラーより下地の美人が勝ってしまう。


「よし、このまま私を撮影してAIで加工して何パターンか作成……。これをホログラムで投影、このホログラムはカメラで撮影しようとするとノイズ扱いされてAI補正で消えてしまう。さらに体感温度を下げるための冷却装置を……」


 痛々しい見た目のお化けがデスクでキーボードを叩いてモニターを見ながら呟きながら作業を行う。


 正直この画は面白い。勤勉なお化けっていうこのミスマッチ感はかなりコミカルだ。


 手際よくアトラは古いカメラで自身に向けながら機器を操作してより不気味に加工した自身の姿のホログラムを投影する。


「音声もそれっぽく動物や自然音を加工して作っておいた」


 続けてそう言って。


『ア、ア――――……タス、ケテ。あ、あ――――……たす、けて、A、a――――……TASU、Kete』


 制作した機械音声を流し。


「音声はあえて残るようにしておいた。解析されても人の声は使ってないから特定も出来ない」


 したり顔でそう言ってから、デスクの引き出しを開けて。


「さらに簡単なものだけど、赤い特殊インクを噴出する装置と人工皮膚を用いたマニュピレーターを作ってみた。これで乾燥と共に消える血糊をかけて、マニュピレーターで足首を掴んだらホラー演出を行えるだろう」


 取り出した機械を動かして、語りを終える。


 いん………………………………っや、準備良すぎじゃない?


 す、素直に凄い……なんか超人世代の人みたいな優秀さだ。

 いや多分超人世代の人はもっと優秀だし、そもそも絶対にこんな悪戯まがいの霊障偽装なんて無駄なこと絶対にしないんだろうけど。


 本当に何者なんだ。


 とりあえず革命家……いやまあ、強い思想を持って船のシステムエラーというかシステム障害を悪用する悪童というのは間違いない。


 二日の間に落ち着いて考えてみたけど。

 正直、やっぱり頭が悪いとしか思えなかった。


 船内での違法行為はそもそも破綻している。

 どれだけ隠蔽して逃げ隠れたところで、一年経ったら必ず状態固着睡眠カプセルに入らなくてはならない。

 被害者がいる限り、何かしらのトラブルログは残るし事件情報を解析したら町中の監視カメラやら色々なログから特定されるし状態固着睡眠時に確保される。


 だから私は二日の間でかなり冷静になれた。


 でもあまりにも……本気過ぎるというか、なんか優秀過ぎる。

 ブロッサム・ノアに乗り込む前から準備をしてきただけじゃなくて、超人世代ほどじゃないにしろ特別な訓練というか勉強をしてきたような。

 品性や教養……いや単純な能力値の高さに違和感がある。


「さて、さっそくこれらを無法路地に仕掛けて霊障作戦を実行しよう。君も見に行くかい?」


 私が考え込んでいる間に超速でシャワーを終え、メイクを落としてセクシーな下着姿で髪を乾かしながらアトラは不敵に笑って私を誘った。


 そのまま私はアトラに着いて、無法路地へと向かった。


 無法路地とは、あの池の近くにあったセンサー類が働かずに治安維持のアラートが鳴らないような路地をアトラはそう呼んでいるらしい。


 原因は不明らしいけど、この都市階層の至る所に存在していてアトラはそれらの場所を把握して確定予測演算装置マザーに修正されないように紙にペンで地図を描くというアナログな方法でまとめている。


 とはいえ基本的には使い捨て、注目を浴びれば必ず報告が入って修正される。

 どのくらい無法路地があるのかはわからないけど、そのうち全部修正されてこの悪戯も終わりになる。


 なんだかちぐはぐな感じがする。

 綿密な計画で入念な準備をしたわりに、地道過ぎる。

 このブロッサム・ノアには一億人が乗っていて今起きているCグループだけでも一千七百万人以上の居る中で……なんかもっと、私はそんなに想像力のある方ではないから具体的な方法とかは出てこないけど。

 大昔の映画とかだったら爆発物とかシステムに介入してのサイバーテロとか思い浮かぶけど……、まあそんな悪魔みたいな所業を船のシステムが許すわけもないか。


 閑話休題。


 私とアトラは無法路地に積まれたボックスに入って、人が無法路地へと歩いてくるのをこっそりと観察する。


 この間とも違う場所、第十地区にあるビルとビルの間にある薄暗い路地。

 夜時間になる少し前、日光は陰ってきていて路地がさらに暗くなる。


 規定の位置に人が来たところで、アトラは装置の物理スイッチを弾いて路地の体感温度を下げながら湿度を上げる。


 なんか嫌な空気ってやつが出来上がる。


 そこからビルを跨ぐように幌を張って射し込む光量を調整してさらに不気味になるように暗くする。

 ビルの中からの光も上手く遮断して、遮光テープで近くの街灯も光を抑えてある。


 ここで、暗くて冷んやりと湿った空気が漂う路地に路地を歩く人は違和感を覚えたような雰囲気できょろきょろと路地を見渡す。


 そこでアトラは更なる仕掛けを動かす。


 ヒーターによって生暖かい空気を送り出して、気配を作り出して振り向かせて。

 ほぼ同時に一瞬だけ、さっき撮ったばかりの幽霊アトラのホログラムを投影して消す。


「……っ?」


 歩いていた人は流石に不審に思って、かなり訝しむ様子を見せたところで。


 後方から、缶が崩れるような音を鳴らし。

 音に驚いてさらに振り向いた、瞬間。


 目の前に、先程のホログラムを出現。


「……――忘レ、る……ナ」


 加工した音声でホログラムにそう喋らせると。


「――――ッ⁉ な……っ! っ⁉」


 声にならないほどに驚いて、そのまま大きく仰け反って尻もちを着く。


「……っ、な、あぁぁ……っ ッ⁉」


 完全に腰が抜けてじたばたとその場から去ろうとした人に向けて、不自然な挙動でホログラムが手を伸ばすのと同時に特殊インク噴射装置で血糊をかける。


「……っ、あぁぁぁあぁあぁぁぁああああ――――――ッ‼」


 目の前が真っ赤になり、絶叫。


 完全にパニック状態になり、地面を跳ねるように暴れ回り壁や物に激突しながらホログラムから逃げ出そうとしたところで。


 人の手を模したマニュピレーターで足首をがっちりと掴んで。


「――――ッッ‼ ……が……っ」


 声にならない悲鳴と同時に、キャパシティを完全超えて気を失い倒れた。


 うわぁ……ええ、こんなに効果あるの?

 私は比較的ホラーとか好きだし娯楽として楽しめるくらいの耐性があるから、正直これはどちらかといえばチープな部類のホラーだと思う。タイミングは悪くなかったと思うけど。


 まさか気を失うほど驚かせてしまうなんて……。


「……思ったより効いたな。君のメイクとホラー知識には恐れ入ったよ」


「えっ? 私のせいなの⁉」


 あまりの効果に慄いたアトラの呟きに、私は思わず声を荒らげる。


 えええ……、いや確かに演出は私だけどさ……。ええーなんかもう完全に共犯なんだけど。


 でも私はメイクしただけで……これは九割九分以上がアトラの行動によるものでしょ。でも三厘……0.3パーセントは私が悪いか……はあ、なんでこんなことに。


「さあ、さっさと片付けてトンズラしよう。彼が目覚めて報告したらこの路地は修正が入る」


 悩める私をよそに、アトラあっけらかんとそう言って立ち上がった。


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