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 いや、一つもわからない。

 何言ってんの? 革命家? 露出狂ではなく?


「あ、あのこんなところで一体何を……大丈夫……な感じのあれですか……?」


 私のしどろもどろな問いかけに、革命家は眉を上げて少し考える素振りを見せてから。


「うん、まあ隠すことでもないか。実は現在、この都市階層には何箇所かセンサー類が一切働いていない場所が存在するんだよ。ここみたいにね」


 そんな、ことを前提として述べて。


「その検証の為に、服を脱いでみたんだ。街中でこんな格好したら必ずオートマトンによる注意や保護が行われるからね」


 あっけらかんと、私の問いに対して回答する。


 センサーが働いてない……? 嘘でしょ? この都市階層はマザーの演算に基づいて最適な環境を維持して、航行期間のストレス検知や治安維持を行っているって授業で言っていた。


 それがそもそも検知すら出来てないって、とんでもないトラブルなんじゃ……。


「そんなことより君……いいね。とてもいい……不躾ですまないが、頼みたいことがあるんだが――――」


 考え込む私をよそに、アトラはそう言いながら私の顔を覗き込むように顔を近づける。


 近い!

 え、なに、そっちの人? 私全然そっちじゃないんだけど、普通に隠れマッチョのメガネ外したら実はイケメンみたいな男子が好きなんだけど。


 いやでもめっちゃ目鼻立ちがハッキリしてるわ……、一点の曇りもなく純然たる事実として美人だ。この人。


 化粧映えもしそうだなー、まつ毛も長くて上向きだからマスカラ一発でばっちり決まりそうだし。

 リップもワントーン落として下唇をオーバーリップ気味に乗せたら、セクシーさが際立っていいかもしれない。

 私の顔だとちょっとくらいのメイクだと陰影がつかないし、がっつりやると流石に学校で悪目立ちしてしまう。


 なんて思考に重なるように。


「――――私にメイクをしてくれないか?」


 真っ直ぐ私の目を見ながら、革命家はそう問いかけ。


「えっ、いいけど」


 私は思考していたままに、そう返してしまった。


「そうとなれば善は急げ、さっそく動こう」


 革命家は不敵な笑みを浮かべてそう言って、私の手を引いて歩き出した。


 アトラ・フライト。

 身長百七十七センチ、体重五十キロ代、十八歳。


 女子。


 内巻きのオレンジ気味な茶髪のショートヘアで刈り上げている。

 体のラインが出ない黒いコートを羽織り。

 ヒールのない靴なのに背が高い。

 声もハスキー気味で、裸体を見てなかったら女性だと思わなかったかもしれない。


 凄まじくプロポーションが良かった……ええ? 私と二つしか違わないんだよね……、え? こんなに発育の差出る? 私も栄養管理されて育ったはずなんだけど。


「ん? ああ、私は生まれた頃まだギリギリ超人世代の影響があってね。幼少期は大きく強く育つように調整されていたのが効いたみたいなんだ」


 私の視線に気づいたアトラは優雅にレモンスカッシュを飲みながら、自身の自信の体躯について語る。


 なんて。

 なぜ私が彼女をこんなにまじまじと見ているのかといえば、私が彼女の部屋で真正面に座ってレモネードを飲んでいるからだ。


 アトラの家……というかアジトのような場所。

 あの路地で出会ってから、そのままオートバイに乗せられて連れてこられた。


 生活感のない部屋に、インクを使って書く大きなアナログホワイトボードや液晶を使ったモニターや物理ボタンの付いたキーボードだったり旧世代コンピュータが山のように積まれている。


 コンピュータなどの機器は床を伝うケーブルで無理やり並列に有線接続されており、これまた旧式の五枚羽根のファンが回る送風機で冷却されていた。


 かなりクラシカルな設備だ。アンティーク趣味といえるくらいに、学校の資料としてしか残ってないような古いものだ。

 仰々しいというか無駄だらけ。機械工学とかに明るいわけじゃないけど、多分この部屋の設備全部合わせても私たちが支給されている端末以下のスペックだろう。


 なんでこんな非効率な設備を……趣味なのかしら…………あ、いや違うこれ船のシステムから独立した設備なんだ!

 支給された端末だとなんか悪いことしようとしても、船のネットワークシステム内のAIが自動的に悪行を検出してしまうしログも残ってしまう。


 徹底している。

 これだけの機材を意図的に持ち込んでるってことは思いつきじゃなくて、最初から何かをしでかすつもりでブロッサム・ノアβに乗船した……?


 古い機械は文化保全の一環として持ち込みは容易いだろうし、IPプロトコルも合わないからスタンドアローンでしか動作しない。


 なんなんだこの人、マジで意味がわかんない。


「ははは、なかなかなものだろう。見た目よりかなりよく働いてくれるんだ。捨てたもんじゃない」


 部屋をキョロキョロと見渡す私を見て察したアトラは、嬉しそうにそんなことを述べる。


「…………何をしたいんですか? あなたは」


 私は少し考えたけど良い言い回しが思いつかず、ストレートに疑問を投げかける。


「ああ私は世の中に対して変革を……いや違うか、思い出させようとしているだけなんだ」


 ゆっくりとレモンスカッシュの入ったグラスをローテーブルに置きながら、アトラは語り出す。


「二百年をかけた移住計画の犠牲を、その者たちの痛みと悲劇を」


 やや感情が入った声色で、語りは加速する。


「スペアエデンに到着して『あーよかった、ここから輝かしい未来に生きられる!』なんてのうのうと暮らすことを私は許さない」


 捲し立てるように、つらつらと思いの乗った言葉を私の頭に流し込む。


「二百年という月日の中で振り落とされた人々、何か出来なきゃ生きていてはならないという価値観の中で生まれた落伍者たちの重い思い」


 激情を薄皮一枚下で燃やしているような熱量で、革命家は語り続け。


「そしてに置き去りにされた人々の思いを、忘れようとしているのが気に食わないのさ」


 革命家らしく、そう漏らした。

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