あたしは今、世界をめちゃめちゃにしたいくらいに怒っている!
ピンク色のカーテンも、小さくてかわいいって理由で飼ったキャラ物机も、天井に張ってしまった星形のシールも全てがうざい! 許せない! 喰い壊したい!
あたしは昨日からずっとそんな具合だった。ずっとあたしは、何かが許せなくて、番犬のように喉を鳴らしたい衝動に駆られて、髪の毛を引き抜きたい怒りが動悸を誘発していた!
……昨日あったことである。
あたしはスマホで適当に動画をみていたら、いきなりあたしの顔写真が勝手に載せられていた。何事! なんて怒りながらあたしは友達に共有すると、なんと友達が犯人だった。あたしは流石に怒った。さすがに、他人の顔を許可なしに投稿するのは如何なものかと。でも彼女はとくに反省の色をみせずに笑ったままだった。
あたしは凄くイライラした。どうして正しいあたしが傷つかなきゃいけないんだって。
なんてことを彼氏に愚痴ろうとした。すると彼氏からブロックされてた。
「なんで⁉」
訳が分からなかった。彼氏とは別に仲が悪いわけじゃないのに、脈略がなかったからそれなりに頭を抱えていると、クラスラインからも弾かれているようだった。どうやらあたしはなぜか、その日を境にハブられているみたいたった。
学校にいくと知らない噂が流されていた。あたしが勝手に友達の顔をネットにアップしたらしい。あたしの味方をしてくれる人は誰もいなかった。友達だったあの子も、結局はノリで友達しているだけの野郎だった。クラスの男子も女子の悪ふざけを信じて、あたしは次第にクラスで孤立した。正直とても生きてはいけないと思った。あたしはその日のうちに飛び降り自殺でもしたいと思うくらい追い込まれていた。
何故あたしだけが不幸な目にあるのだろう。そして、普通の幸福を享受している連中が憎くなった。あいつらはきっと、理不尽な目にあったことがない幸せ者なんだと軽蔑した。
でも流石に自殺は勇気がでなかった。あたしは屋上へ登って、そこでどこにも発散できない悲しみを、一歩進むだけで全部楽にできるというところまできていた。風が生暖かくて、空は曇りかけていた。そんな時、あたしは、どうしようもなくなって。誰でもいいから話を聞いてほしくって、久しぶりにとある女性に連絡を飛ばした。
美沙義里奈という。ラインを飛ばすと、昔話に花が開き屋上で座り込んで、あたしはニヤニヤしながら一緒に会話した。そして流れであたしは愚痴を飛ばした。
しばらくすると返信が帰ってこなくなり、彼女からブロックされていることが分かった。なんで! どうして! あたしだけ! と憤慨した。
思えば、あたしはそんな人生だった。母は私より姉の方が好きみたいで(どうして妹を生んだのかイミフ!)父はどちらかというと家族に興味がないみたいだった。容姿も別にあたしは良い方でもないし、物覚えも悪い。なぜそんな風にあたしは生まれてしまったのだろうか……と境遇を呪った。あたしはとても嫌な気持ちになって、胸の痛みとともに熱い涙が込み上げてきた。すごく熱くて、熱くて、嫌になった。だから無闇に両手で拭いたんだと思う。とにかく止めたくて、涙を抑えたかった。涙が落ち着くと計り知れない孤独感にレイプされた。最悪な気分になって、あたしは口を歪ませながら、景色や周囲の静けさに耳を傾けた。
そのとき吹いた小さな風が、あたしの意識を冷ました。熱湯みたいに煮えたぎっていた激しい意識を、そっと冷やした。
「――……」
その時、あたしは気が付いた。
あたしは誰かに何も与えていないのに
誰かから与えられることを望んでいたのだ
そう気が付いてあたしはそっと体に這っていた虫の大群の感覚が霧散して、胸のズキズキとした激痛が止んだ。
そして、自殺なんてやめて、あたしはもっと誠実に生きようと思った。
*
私はその小説を読んで考え込んでしまった。
彼女は恐らく、憤慨している自分が他人からどう映っているのかに気が付いたの、かな。別に私読解力がある方じゃないから難しいけど、でも何となくその気持ちは分かる。これって、渡辺沙織ってタイトルだよね……?
私はふつふつと思い出した。彼女は、私の小学校時代の幼馴染だった。
それも私の小説にも登場していた、いきなり連絡を送って来た幼馴染だった。でも不思議だ。どうして彼女視点の小説がこんな場所にあるのだろう? だってそれは、彼女自身が書かなくちゃあり得ない筈なのに……。
つんと冷たい汗が背筋をなぞり、肩が震えた。
「……」
依然謎が深まった。この『空間』、『マーティ』という存在、そして『私』と『里奈』と『沙織』の自伝が置いてある『クラシックな部屋』。まずまず、なぜマーティが起動していない時に限りこのクラシックな部屋は現れるのだろうか? どういう原理で?
【どうして書斎の本に誰かの過去が記された本があるのか】
【マーティはなぜ部屋の出現を隠すのか】
「…………」
夢にしては出来過ぎている……。
刹那、私は下腹部にある冷たい液体が一そう冷えた気がして、途端に吐き気がした。トイレに走って嘔吐する。――気持ち悪さも、吐しゃ物も、触っている便器も、トイレットペーパーの質感も何もかも現実だった。この場所で見て来たあらゆる娯楽も、私が知らないものばかりだ。いや、私の記憶は頼りにならない。思い返すと、この場所に来る前の記憶が、まるでないのだ。生まれたときからこの場所にいるなんて勘違いをしていたけど、違う。私はここに来た時の記憶がない――。
「…………きもちわるい」
なんて言いながら、心臓がバクバクと太鼓を叩いて。身に余る力が内から外へ放出されたがり、私はそのエネルギーに激しい身震いを二度して、無理やり笑顔を作らされた。
どうやらこうなっても、私の好奇心はすこぶるフルスロットルのようだった。
私はまたあの書斎へ移動し、次の本をとった。本は三冊しかなかった。
『