逃げ出すのはいつだって簡単じゃない。綿密な計画を立て、準備をして、それを実行に移すまでに、何度も頭の中でシミュレーションを繰り返した。完璧なタイミングを待っていた。けれど、いざその瞬間が訪れると、心臓が跳ね上がり、手足が震えた。俺たちは、もう後戻りできないところまで来てしまっていた。
今日はメリッサを連れ出した日。いや、正確には二人で家を出た日だ。彼女をあの家から解放するために、俺は何ヶ月も前からアルバイトをして貯金を重ね、この日に備えていた。
だが、現実は予想以上に厳しかった。悪天候が俺たちの行く手を阻むとは思ってもみなかった。嵐の中、俺たちの乗った電車は運転を見合わせた。すでに町を離れたものの、思わぬ足止めを食らった。まるで運命が、俺たちの逃避行に試練を与えているかのように感じた。
仕方なく、俺たちは郊外の寂れたモーテルに身を寄せた。激しい雨が窓を叩く音が響く中、古びたテーブルで食事をとった。夕食は、道中で買ったクラブハウスサンドとクラムチャウダー。メリッサにとっては、あの家を出て初めて自分の意志で口にする食事だった。義両親の厳しい監視下から解放され、自由に食べることができた彼女の様子を見て、俺は少しだけ救われた気がした。メリッサは、食べ物を口に運ぶたび、ほんのわずかに微笑んでいた。
食事を終えると、俺は彼女をベッドに寝かせた。メリッサはしばらくまぶたを揺らしていたが、やがて静かな寝息を立て始めた。彼女の穏やかな寝顔を見つめると、俺の心の混乱が少しだけ鎮まる気がした。今夜の嵐のように、俺の心も荒れ狂っていたが、彼女の安らかな表情がその嵐を和らげてくれる。
「……本当に、これで良かったのだろうか。」
俺は正しい選択をしたのだろうか。あの家を出ること、メリッサを連れ出すことは、本当に彼女のためになったのだろうか。こんな寂れたモーテルに身を潜めている今、俺は自分が取り返しのつかないことをしてしまったのではないかという恐怖に襲われていた。
嵐は、いつになったら過ぎ去るのだろうか。俺たちはどれだけ耐えなければならないのか。そして、嵐が過ぎ去った後、俺たちはどこへ行くのだろうか。何一つ確かなことはわからない。ただ、メリッサの寝顔だけが、俺の選択を肯定してくれているようだった。彼女が安心して眠り続ける限り、俺は――少なくとも今は――正しかったと信じたい。
「彼女も、俺のもとから去ってしまうのだろうか。」
俺の独り言は、雨音にかき消され、誰にも届かなかった。