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第45話 『園遊会が終わり…』

 園遊会からの帰りの馬車において


「マイカ、お前さん、あれは何をやったんだい?

 子供は息もしてなくて、心臓も止まっていたんだろう?」


と、ハンデルがマイカに尋ねてきた。


「うん。救急法、または心肺蘇生法といってね、私が居た元の世界では、子供も学校で習うような一般的なものさ。

 必ずしも蘇生できるわけではないけど、今回は運が良かった。」


「ふーん。じゃあ、お前さんの身体が光ったのは関係ないのかい?」


「うん。判らないけど関係ないんじゃないかな?

 本来、この方法を用いる際には、相手の身体に電気を流すんだが、私が光った時に電気が走ったようには思えなかったし。」


「電気?電気って何だい?」


「あ、そうか。うーんとね、雷だよ、雷は電気のかたまりだよ。」


「雷?雷なんて、どうやって起こすんだよ?」


「そういう機械があるのさ、AEDっていう。」


「ふむふむ…それさえあれば人を生き返らせることができるのか…そのAEDってやつも仕入れてえなぁ…」


「ははは。だから絶対じゃないって…

 そんな事よりさ、ハンデル、気が付いた?」


「気が付いたって、何が?」


「ベルンハルト騎士団長、摂政さんのこと好きみたいだよ、女性として。」


「な?いや、判らねぇよ。てか、それが何か関係あるのか?俺達にとって。」


「いや、別に関係とかは…でも、気になるじゃん!」


「他人の色恋沙汰いろこいざたが気になるなんて、お前さん、心根も女っぽくなってきてるんじゃないか?」


「え!?」


 (…たしかに…前は、例えば芸能人の熱愛なんとかなんて、全く興味なかったよな、オレ…)


「まあ、でも、例えベルンハルト閣下が摂政殿下をお好きでも、どうにもならねえよ。

 御皇族の姫様と、臣下の者じゃあ釣り合いが取れねえ。」


「そんなの判らないじゃないか!愛があれば身分の違いなんて!」


「ハハ、まあな。逆のパターンであれば有り得なくもないけどな。」


「逆のパターン?」


「ああ、閣下の方が身分が上だったらってことさ。ベルンハルト閣下のお母君は庶民の出だって聞いたことがあるし。」


「え?そうなの?だから貴族にしては…」


 (ベルンハルト君が庶民のオレらに対しても、やたら偉そうな態度を取らないのは、そういう訳か…)


「ま、何にせよ、そんな雲の上の方々の恋愛の心配を、俺達がしても仕方ないじゃないか?」


「確かにそうだけどさ、ベルンハルト騎士団長、いいヤツじゃん!だから応援したくなったんだよ。」


「確かに、いいヤツだ。

 …近い将来、エリーが見つかって…エリーが恋する相手がベルンハルト閣下みたいな男だったら…

 …申し分ないな…」



「…殿下、御食事をなさらないのですか?」


 皇宮ヒローツパレイスの摂政執務室において、リーセロットがエフェリーネに問いかけた。

 執務室内にはエフェリーネとリーセロットだけである。他には誰もいない。

 園遊会が行われていたクストストランドのアールダッハ離宮から、二人が蜻蛉トンボ返りするような形で皇宮に戻ってきたのは夕刻過ぎであった。

 リーセロットは軽い夕食を済ませたが、エフェリーネは用意された食事に全く手をつけていない。


「はい、食欲がありません。」


「しかし殿下、今朝スープを飲まれたきり、何も口にされておられないではありませんか。

 お身体に触ります。せめてお飲み物なりとも…」


「…リーセロットには聞こえていたのでしょう?わらわの呟きが。」


「……はい。聞こえました、殿下。」


「………」


「………」


「黙っていても仕方ありませんね。リーセロットは既に何かを察しているでしょうから…

 あのハンデルなる商人は、わらわの…いや、エリーとしての、私の兄です。」


「兄…?兄さん…?」


「はい。アルム村にて別れた、私の8歳上の兄…

 アルム村の人々は、5年前の大冷害で殆ど死に絶えてしまいました。なので、兄も既にこの世には居ないと思っていました。

 でも…どうやら、その頃までには村から出ていたようですね。」


「それは何より…」


「本当にそう思っていますか?リーセロット。」


「………」


「私も、今となっては会うべきではなかったて思っています。

 だって、今の私…わらわは…

 わらわの過去を知る人物などと、もはや会ってはいけなかった。」


「…幸いにも、彼は全くこちらには気付いておりませんでした。」


「リーセロットは、秘密を守るために、兄を亡き者にしようという考えを持っているのではないかしら?」


「………」


 リーセロットは、エフェリーネの問いに無言であったが、その目は、何かを決意したかのように力が込もっていた。


「あなたの考えは、私にもよく理解できます。

 わらわの秘密がおおやけとなれば、皇家の威光は消え失せ、臣民や貴族達の皇家への忠誠は霧散むさんするでしょう。

 そして、奴隷なぞを死んだ姫とすり替えた母上の、ヨゼフィーネ大帝陛下の名声も地の底にまで失墜し…このラウムテ帝国は崩壊してしまうでしょうね。」


「で、殿下、私は…」


「でも、もし貴女あなたが兄を亡き者にしたならば、理由には納得しても、私は決して貴女を許さないでしょう。

 貴女に心を開くことは、永久に無くなります。」


「殿下……」


「………」


「………」


「…もう、会わなければ良いのです、殿下。

 この先ずっと…生涯、会わなければ…」


「……そうですね、そうする他はありませんね…」


「はい。今後お会いなさらなければ気付かれることもなく、彼が気付かなければ、誰からも秘密が漏れません。」


「そうね。この秘密は、今や私と貴女、そしてララしか知らないことですものね…」


「はい殿下。我ら3名のみが知るのみです。

 なので大丈夫です!秘密が漏れることはありません!」


 そうエフェリーネに対して強く言い切ったリーセロットであったが、心の中では別の事を思っていた。


 (…そう…16年前、ドラーク公が温情をかけた者達を除けば…)


              第45話(終)


※エルデカ捜査メモ㊺


 ベルンハルトのレーデン上騎士家は、帝国創立時からの名門であり、ベルンハルトの父が庶民の娘を妻にしたいと言った際には、当然ながら強い反対があった。

 しかし、父は決して諦めず、粘り強く説得を続け、ついに、栄えある近衛騎士団の団長となることが出来たならば、二人の結婚を許すという、親族からの条件付きの承諾を得た。

 そして、血の滲むような努力の末、近衛騎士団長になり、晴れて結婚することが出来たのである。

 既に述べているとおり、近衛騎士団長の座は〈近衛騎士団員も含め〉世襲制ではなく、ベルンハルトが親子二代に渡って近衛騎士団長になれたのは、実力のみが理由である。

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