マイカがハンナに事件のあらましを聞いたところによると、皇宮の宝物庫は1日に2回、朝と夜に必ず点検を行ない、その際は、宝物庫の表で見張りをしている番兵と、鍵を持った近衛の騎士との二人で行なうという。
表で見張りをしている番兵は、交替の者が来てから宝物庫の中に入るのだが、この時の朝の点検の際に交替の兵がなかなか来ず、それまで表で見張りをしていた番兵が詰所まで呼びにいったらしい。
その、番兵が交替を呼びにいった合間に、近衛騎士のエリアンが1人で宝物庫に入って点検を実施し、その日の夜の点検の際、
(その状況のみで判断して、エリアンとやらを逮捕したって訳か…なんとも、はや…)
「ふむ。ハンナさん、その近衛の騎士様が捕まった時や、その後に、捕まえた側は、どれくらい他の人達に話を聞いていましたか?」
と、マイカはハンナに「知っている範囲で構わないから」と補足を付けてそう質問した。
「いいえ…その時に一緒に確認に当たる筈だった番兵の人のみのようです。
その他の人には、全然聞いていないと思います。」
(何ということだ、ろくに聞き込みもしていないではないか…)
「では、紛失した
そして、その
「その
はい。エリアン様の衣服や、皇宮内のお仕事部屋、御自宅も探したそうですけど見つからなかったそうです。」
「お城の中の他の場所、例えば、そのエリアン様が立ち入る可能性がある所などは探したのでしょうか?」
「詳しくは知りませんが、そこまで探した様子はなさそうです。エリアン様のお部屋しか探していないと思います。」
(捜索も至って初歩的な、単純なことしかしていない…これでは真実が全く掴めないではないか。)
「それでは、2件目の事件についてですが。」
「はい。エリアン様の件で、近衛には鍵を持たせられないということになって、次の日の朝から番兵さんが鍵を持って、交替する際に、交替に来た番兵さんと交替を受ける番兵さんの二人で点検するようになったんですけれど…
その、エリアン様の件があった次の日の夜の点検の際、また一つ
「その無くなった
「先に無くなった指輪と同じく摂政殿下の御持物で、今度はブローチです。
それで、朝から見張りをしていた番兵が盗んだのだろうということで、その番兵さんが捕まったんです。」
「では、扉の前でそれまで見張りをしていた番兵さんが鍵を持っていたということですか?」
「いいえ、それが、鍵を持っていたのは、交替に行った番兵さんなんだそうです。」
「それでは、見張りをしていた番兵さんでは宝物庫の中に入れないのでは?」
「私もそう思うんですけれど、他に宝物庫には誰も入っていないらしく…その番兵さんしか考えられないということで…」
「…その無くなった指輪とブローチは、やはり相当な価値のある物なんでしょうね?」
「いえ!それが、そこら辺の露店なんかで売ってるような安物なんですよ。まるでオモチャのような感じの物です。
何故そのような物を大帝陛下が摂政殿下にお贈りになったのか、今でも皇宮内の不思議の一つなんです。」
(…そんな安価な物を、命を
…第三者の介入の可能性が大きい…と、オレは思う…)
「どうだいマイカ?ハンナさんの話で、何か判ったか?」
マイカとハンナが会話している中、ハンデルが口を挟んできた。
「いや、逆に全く判らないよ。
何故そんな安い物を命を
マイカは難しい顔付きをしながらハンデルに答えた。
「さすがのマイカさんも、
「違うよ。力になれるかもって大見得切ったんだから、投げ出すつもりはないよ。
ただ、その捕まった二人を犯人とする決め手が無いということだよ。
それなのに、よくその二人を犯人だと決め付けられたもんだなあって。」
「ふむふむ。ではマイカは、誰が犯人だと思うんだい?」
「それも判らないよ。
ただ、私個人としては、犯人はその二人ではないんじゃないか、と思っている。
その二人以外の誰かが犯人の可能性が高いと思っているよ。」
「二人以外の誰かって?」
「そんなもん、全く判らん。
ハンナさん、その宝物庫に入ることが出来るのは、どんな人なんですか?」
マイカは再びハンナに質問を始めた。
「はい。皇帝陛下と摂政殿下は、勿論中に入れます。その他の人では、摂政殿下から許可の書類を頂いた人しか…
あ、あと、ウェイデン侯爵様も入れます、書類無しでも。」
(お…またウェイデン侯爵のお出ましか…)
「
「いえ、ウェイデン侯爵様は只の貴族ではないんです。
皇帝陛下の御父上であられますし、初代皇帝陛下からの、皇統の御血筋を継いでいらっしゃる御方ですから。」
(ほう…なるほど…じゃあ、ウェイデン侯爵のラインも有り得るな…まあ、今の段階においては全く
「………」
「どうした、マイカ?さっきからずっと黙って。」
と、無言で考え込んでいるマイカにハンデルが話し掛けてきた。
「あーーっ、やっぱり現場に行かんと、何も判らん!第三者からの話だけでは何も見えてこん。
すみませんハンナさん、長々と話して頂いたのに、どうやら力になれそうもなくて…」
「はい。…あら、いやだ私ったら、事件のことは固く口止めされていたのに…
エルフさん相手だと、ついベラベラと喋っちゃった。」
(うーん、このハンナさんも、本来秘密にしておかなくてはならない事を、何故かオレには話してくれた…
これは、やはりオレには何か特別な能力が備わっているんじゃなかろうか?)
ハンナは、自分が禁を破って、口止めされている事を話してしまったことにオロオロしている。
(しかし、このハンナさん、よく事情を知ってらっしゃる。
エリアンと番兵を捕まえた連中なんかより、
「現場に行かないと判らないということは、逆に、皇宮に来れれば何か判るということですか?」
と聞いてきた。
「まあ、行ってみなければ…行っても判らないままかもしれませんが、話を聞くだけよりは、何か掴めるかもしれません。
…しかし、何の
「いえ、手は有ります!
マイカさんが皇宮内に入れるように出来る手が……」
第35話(終)
※エルデカ捜査メモ㉟
皇宮侍女セシリア付きの女中ハンナは、その癒し系のルックスと、素直で、でしゃばらない控え目な性格からか、人から気軽に話し掛けられることが多く、時には秘密めいたことも、よく打ち明けられる。
そして、その聞いた話については忘れることのない記憶力と、話の裏に隠されている事柄について正解に分析出来る頭の良さを持ち合わせている。
以上の点から、ハンナは情報収集能力、情報分析能力に非常に長けているといえる。