(え?ええっ!?ダ、ダブルベッド!?
二人が寝れるベッドって、そういうこと?)
マイカが、部屋の中に一つだけ置かれている大きなベッドを見て、大きく口を開けて驚いていると
「なあマイカ、やっぱり
と、ハンデルが言ってきた。
「他ったって、さんざん部屋が空いている宿を探して、ようやく此処が見つかったんじゃん。他に空いている所なんか無いよ。」
「じゃあ、俺は床に寝る。マイカはベッドで寝ろ。」
「いや、アンタがベッドに寝なよ、ハンデル。馬車を運転してきて疲れているでしょうに。」
「いいから、さっさと寝巻きに着替えてベッドで寝ろ!
女の子を床に寝かせたなんて知れてみろ、末代までの恥だぜ!」
「他にバレる訳ないじゃん!そんなこと誰も言わないよ。
それと、何だよ、さっきから女の子女の子って。私は元は男だよ、オッサンだよ。だから気を
「いーや、ダメだ!
そうだ、これは雇用主としての命令だ。マイカ、お前がベッドで寝ろ!」
「この、ブラック雇用主!」
結局押し切られ、マイカがベッドで、ハンデルが床で眠ることとなった。
「…ん…便所…」
夜中にハンデルが目を覚ました。
(…あれ…?灯りを消している筈なのに、なんか部屋が明るい。)
身を起こしたハンデルが室内を見渡すと、マイカが眠っているベッドの方角が明るい。
ハンデルがそぉっとベッドに近づくと、マイカ自身が光を放っていた。
(な…?マイカ、マイカの身体が光ってる!?どういうことだ?)
ハンデルはベッドに上がり、マイカの寝姿をマジマジと眺めた。
(マイカの身体の…身体の何処が光っているのだろう?)
ハンデルは掛け布団の端を
(何てこった。身体の何処が、ではなくて、マイカの身体全体が光ってやがる。
よく見たら、髪すらも光っている…
…しかし…この白い光を見ていたら、何だか心身の疲れが取れていく感じがする…
「バタッ!」
ハンデルは倒れるようにベッドに横たわり、そのまま眠ってしまった。
「チュンチュン、チュンチュン、チチチチ…」
外から小鳥の
「うーん…朝か…」
マイカが目を覚ますと、同じベッドの上で、こちらに顔を向けて眠っているハンデルの姿が目に入ってきた。
「え?えっ!?フォオオオオオオ!!」
大声で叫んで、マイカはベッドから飛び降りた。
「…あ…あ、あのまま眠っちまったのか?俺…
あっ、お早う、マイカ。」
「お、おおお、お早うじゃないよ!ハンデル!
アンタ、まさか私が眠っていたのをいいことに…」
「…え?いや、いやいや、待て!違う!それは誤解だ!!」
「…信じていたのに…この、ド外道がぁーっ!!」
マイカは大きな枕でハンデルをぶん殴り始めた。
「だ、だから違うって!
ハンデルの必死の説明で誤解は解けたが
「光っていた?私の身体が?」
「ああ、不思議な感じの白い光だった。
その光を見ていたら、何だか心身が癒されたっていうか、全身の力が抜けていって急に眠くなっちまったんだ。本当だぜ!」
「ああ…もう判ったから、嘘ついてないの。」
「それで、そのままずっと眠っていた訳だが、本当に疲れが全部取れちまってる!全く疲れが残ってないぜ。」
「ふーん…でも、何で私の身体が光っていたんだろう?
エルフって、身体が光るもんなの?」
「いいや、エルフは光るもんだなんて、そんな話は聞いたことがないな。
もしかして、これはお前さんが持ち合わせている属性なんじゃないかな?」
「属性?…何なのそれ?」
「ああ、火の属性とか風の属性とか、土の属性とか。人は皆、それぞれ属性を持ち合わせているものらしいんだが、普通の人間は、それが弱いもんだから、中々、気付くことが出来ないのさ。
でも
「属性を生かした魔法…?」
「お前さんには、もしかして強い光の属性があるんじゃないか?光の魔法が使えるかもよ。」
「光の魔法…なあ、魔法って、どうやったら使えるようになるんだ?」
「そんなこと、魔法が使えない俺に聞くなよ。ってのは冗談で、一般的には、魔法を使えるようになるためには、魔法が使える人から教えを受けるとか、魔法の使い方を記した書物、魔導書ってのを読んで覚えるって話だけど。」
「ふーん…でも、それだと、初めに魔法を使えるようになった人は、どうやって魔法を覚えたんだろう?」
「うーん…」
マイカとハンデルが精算を済ませようと、宿屋一階のフロントまで降りてきたところ
「いやぁ、ゆうべはお楽しみでしたね。
そういえば、今朝も、何やら部屋が揺れている振動が伝わってきましたよ。
随分とお励みになられましたなあ。」
と、とんでもない事を言ってきた。
「違います!!」
「違う!!」
マイカとハンデルは大声で否定したが、宿屋の主人はニヤニヤとした顔を崩さず、どうやら二人の言葉を信じてはいないみたいだ。
「アンタのせいで変な誤解を受けたではないか!ハンデル!!」
「お前さんが枕を持って大暴れしたからだろうが!マイカ!!」
馬車に戻ってきても、まだ言い争いを続けている二人を、ケルンとブラムが心配そうに見ていた。
第30話(終)
※エルデカ捜査メモ㉚
この世界において、魔法が存在するとの事実自体は大多数の人の知るところであるが、実際に使える者は非常に少ない。
まず、持ち合わせている属性〈火の属性…風の属性…土の属性…光の属性…等々〉が非常に強くなくてはならず、また、強い属性を持ち合わせていたとしても、魔法使いとしての素質がなければ、魔法を使えるようにはならない。
しかも、せっかく魔法を使えるようになったのに、その魔法が、全くモノの役に立たないようなものだったりもする。