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第30話 『ファーハイトの宿屋での一夜』

 (え?ええっ!?ダ、ダブルベッド!?

  二人が寝れるベッドって、そういうこと?)


 マイカが、部屋の中に一つだけ置かれている大きなベッドを見て、大きく口を開けて驚いていると


「なあマイカ、やっぱり此処ここはよそう。他の宿屋をあたろう。」


と、ハンデルが言ってきた。


「他ったって、さんざん部屋が空いている宿を探して、ようやく此処が見つかったんじゃん。他に空いている所なんか無いよ。」


「じゃあ、俺は床に寝る。マイカはベッドで寝ろ。」


「いや、アンタがベッドに寝なよ、ハンデル。馬車を運転してきて疲れているでしょうに。」


「いいから、さっさと寝巻きに着替えてベッドで寝ろ!

 女の子を床に寝かせたなんて知れてみろ、末代までの恥だぜ!」


「他にバレる訳ないじゃん!そんなこと誰も言わないよ。

 それと、何だよ、さっきから女の子女の子って。私は元は男だよ、オッサンだよ。だから気をつかわなくていいって!」


「いーや、ダメだ!

 そうだ、これは雇用主としての命令だ。マイカ、お前がベッドで寝ろ!」


「この、ブラック雇用主!」


 結局押し切られ、マイカがベッドで、ハンデルが床で眠ることとなった。


「…ん…便所…」


 夜中にハンデルが目を覚ました。


 (…あれ…?灯りを消している筈なのに、なんか部屋が明るい。)


 身を起こしたハンデルが室内を見渡すと、マイカが眠っているベッドの方角が明るい。

 ハンデルがそぉっとベッドに近づくと、マイカ自身が光を放っていた。


 (な…?マイカ、マイカの身体が光ってる!?どういうことだ?)


 ハンデルはベッドに上がり、マイカの寝姿をマジマジと眺めた。


 (マイカの身体の…身体の何処が光っているのだろう?)


 ハンデルは掛け布団の端をまくり上げ、中を覗きこんだ。


 (何てこった。身体の何処が、ではなくて、マイカの身体全体が光ってやがる。

 よく見たら、髪すらも光っている…

 …しかし…この白い光を見ていたら、何だか心身の疲れが取れていく感じがする…

いやされるというか…ああ、力が抜けていく……)


「バタッ!」


 ハンデルは倒れるようにベッドに横たわり、そのまま眠ってしまった。


「チュンチュン、チュンチュン、チチチチ…」


 外から小鳥のさえずる声が聞こえ、カーテン越しに光が部屋の中に差し込んできた。


「うーん…朝か…」


 マイカが目を覚ますと、同じベッドの上で、こちらに顔を向けて眠っているハンデルの姿が目に入ってきた。


「え?えっ!?フォオオオオオオ!!」


 大声で叫んで、マイカはベッドから飛び降りた。


「…あ…あ、あのまま眠っちまったのか?俺…

 あっ、お早う、マイカ。」


「お、おおお、お早うじゃないよ!ハンデル!

 アンタ、まさか私が眠っていたのをいいことに…」


「…え?いや、いやいや、待て!違う!それは誤解だ!!」


「…信じていたのに…この、ド外道がぁーっ!!」


 マイカは大きな枕でハンデルをぶん殴り始めた。


「だ、だから違うって!いてっ、話を、話を聞けって!いてっ。」


 ハンデルの必死の説明で誤解は解けたが


「光っていた?私の身体が?」


「ああ、不思議な感じの白い光だった。

 その光を見ていたら、何だか心身が癒されたっていうか、全身の力が抜けていって急に眠くなっちまったんだ。本当だぜ!」


「ああ…もう判ったから、嘘ついてないの。」


「それで、そのままずっと眠っていた訳だが、本当に疲れが全部取れちまってる!全く疲れが残ってないぜ。」


「ふーん…でも、何で私の身体が光っていたんだろう?

 エルフって、身体が光るもんなの?」


「いいや、エルフは光るもんだなんて、そんな話は聞いたことがないな。

 もしかして、これはお前さんが持ち合わせている属性なんじゃないかな?」


「属性?…何なのそれ?」


「ああ、火の属性とか風の属性とか、土の属性とか。人は皆、それぞれ属性を持ち合わせているものらしいんだが、普通の人間は、それが弱いもんだから、中々、気付くことが出来ないのさ。

 でもまれに、その持ち合わせている属性が強い人がいて、そういう人は、その属性を生かした魔法が使えるようになるらしいんだ。」


「属性を生かした魔法…?」


「お前さんには、もしかして強い光の属性があるんじゃないか?光の魔法が使えるかもよ。」


「光の魔法…なあ、魔法って、どうやったら使えるようになるんだ?」


「そんなこと、魔法が使えない俺に聞くなよ。ってのは冗談で、一般的には、魔法を使えるようになるためには、魔法が使える人から教えを受けるとか、魔法の使い方を記した書物、魔導書ってのを読んで覚えるって話だけど。」


「ふーん…でも、それだと、初めに魔法を使えるようになった人は、どうやって魔法を覚えたんだろう?」


「うーん…」


 マイカとハンデルが精算を済ませようと、宿屋一階のフロントまで降りてきたところ


「いやぁ、ゆうべはお楽しみでしたね。

 そういえば、今朝も、何やら部屋が揺れている振動が伝わってきましたよ。

 随分とお励みになられましたなあ。」


と、とんでもない事を言ってきた。


「違います!!」

「違う!!」


 マイカとハンデルは大声で否定したが、宿屋の主人はニヤニヤとした顔を崩さず、どうやら二人の言葉を信じてはいないみたいだ。


「アンタのせいで変な誤解を受けたではないか!ハンデル!!」


「お前さんが枕を持って大暴れしたからだろうが!マイカ!!」


 馬車に戻ってきても、まだ言い争いを続けている二人を、ケルンとブラムが心配そうに見ていた。


               第30話(終)


※エルデカ捜査メモ㉚


 この世界において、魔法が存在するとの事実自体は大多数の人の知るところであるが、実際に使える者は非常に少ない。

 まず、持ち合わせている属性〈火の属性…風の属性…土の属性…光の属性…等々〉が非常に強くなくてはならず、また、強い属性を持ち合わせていたとしても、魔法使いとしての素質がなければ、魔法を使えるようにはならない。

 しかも、せっかく魔法を使えるようになったのに、その魔法が、全くモノの役に立たないようなものだったりもする。





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