(私の影の魔法でハイヤーエルフ様の影に
ララは他人の影の中に
皇宮の一室で床に映ったリーセロットの影から現れたのも、その〈影の魔法〉によるものだった。
ララは影の魔法以外にも、完全に気配を消すことが出来る。
マイカに気付かれないまま、後ろに付き、地に映るマイカの影に
夏の日中であり、マイカの身体が光ったことに気付いた者は、ララの他にはいなかった。
(私に気付いた訳ではないのに、突然、身体が光りだして私が影に潜めないようにした…
この方は光の属性をお持ちか?
くっ、影は光には勝てぬ…仕方ない、影に潜むのは諦めて、このまま気配を消して後を
「何か御用ですか?お嬢さん。」
ハンデルが振り返り、やや後ろにいたララに向かって言った。
(な、何!?完全に気配を消していたのに、何故判った!?…偶然か?いや、完全に気付いて振り返りやがった!)
「あ…いえ、あの…す、素敵な方だな…と思いまして…」
(こ、こいつ一体何者だ!?)
「え?ハハハハッ、そんな、照れるなあ。
お嬢さんこそ素敵ですよ。」
「ムッ」とした表情をしたマイカにハンデルが目配せをした。顔は笑っているのに目は笑っていない。
「え、と、ターバンに姿に、そのお見かけ、もしかしてクラウデン国から来られた?
帝国見物ですか?それともお仕事の関係?」
「あ、観光です…かねてから帝国には旅行に行きたいな、と…」
「帝都には行かれましたか?」
「いえ、これからです。」
「俺達も街道の封鎖が解けたら帝都に行くつもりです。
馬車がありますので、良ければ御一緒に?」
「いえ、結構です。お気持ちだけで。」
何気ない会話を続けるハンデルとララであったが、二人とも全身に冷や汗を
(…この男、相当な達人だ。わざと隙だらけにして、こちらの出方を
(この
しかも、今はどう見ても普通の女性な感じだ。何の凄味も感じない。
その切り換えが、
「いや、ゴメンお嬢さん、いきなり声を掛けて。迷惑かけたね。」
「いえ、私の方こそ後を
「それじゃ!」
「では…」
ハンデルとララの二人は会話を止め、振り返って歩き出した。
ララは、元来た方向へ戻っていく。
「何だったんだ、ハンデル?あの、いかにもアンタ好みのクール系巨乳美人は?」
ハンデルが謎の美女との会話中、こちらに送ってきた目配せに
「いつ、お前さんに好みのタイプを話したよ?
いや、さっきの
「全く気配が無かったのに、よく気付いたね?どうして気が付いた?」
「ああ、こんな都会の人通りが多い場所では、常に多くの人の気配が四方八方にあるもんだが、俺達の後ろに全く気配が無い空間が出来たことに違和感を覚えてな…
振り返ったら、あの
「な…!?」
(ハンデル…こいつ、オレが思っていたよりも、遥かに凄いヤツなんじゃ?)
「だから、人混みの中だからこそ気付けたが、周りに誰もいないような場所だったら、気付けなかっただろう。」
「後を
「さあな、でも、敵意や害意みたいなもんは、全く感じなかった。だから、襲うとかではなかったようだ。
チラっと、お前さんを見る視線が熱かった。俺ではなくて、お前さんを
「え?オ、いや、私!?
ハンデル、どうすれば良いと思う?」
「まあ、危害を加えられる訳ではないみたいだから、そのままで良いんじゃないか?
また後を
「そんな気楽な!」
マイカとハンデルはその後、街を一通り散策し、武具屋に寄って稽古用の木剣や革製の訓練用
どうやらララは、もう
尾行していた事をハンデルに気付かれたララは、その後二人を追うことはせず
(どうせ街道は封鎖されているのだから、このインハングの街からは出られないし、まずは情報を集めよう。
レックルのお店でも客達が噂話をしていたくらいだから、街中の評判になっている筈…)
と思い、街で情報収集することにした。
街の人々の噂話に耳を傾けたり、聞き込みをした結果、男はハンデルという名の行商人で、このインハングにも、よく店を出すという。
ハンデルは闘商としても名高く、相当な剣の達人らしい。
(やはりあの男、只者ではなかったか…)
また、連れていた少女は、エルフに間違いないようで、昨日、クラームの
名はマイカと言うそうだ。
(マ…イカ…様…伝説の
ハンデルとやらの商人仲間に聞き込みをした結果、二人が帝都に行くことは間違いないらしい。
ならば帝都に先に戻り、リセに報告するとしよう…)
ララの姿は、この日のうちにインハングの街から消えた。
第28話(終)
※エルデカ捜査メモ㉘
ララが使う影の魔法には
・人や物の影の中に潜むことが出来る
・自らの姿を影に変化させる
・元から存在する影の濃淡を変化させる
ことが出来る
・何も無い所でも、影を発生させられる
・影を発生させて闇を造り、人の視界を
などがあり、この影の魔法は、彼女が任務(探索、諜報、暗殺)を遂行する上で非常に有利である。
また、ララは気配を完全に消すことが出来るが、これは、影の魔法の効果ではなく、彼女に備わった特殊
この世界において魔法を使える者は、ごく少数であり、また、特殊
従って、ララのように魔法が使え、更に特殊