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第25話 『足止め』

「ふぃーっ、快酔、快酔!」


 マイカとケルンは行商人組合ギルドインハング支部の建物内の一室でベッドに横たわっていた。組合員ならば自由に寝泊り出来るらしい。

 ハンデルは支部長サブマスターと別室で何やら話しているようだ。


 (しかし、気分の良い連中だったな…あの連中が仲間だということだけでも、ハンデルの人となりが判るようだ…

 やっぱり、信じて正解だったようだな。)


 朝起きて仕度したくが済み次第、帝都へ向けて出発する予定のマイカ達だったが、一時的に帝都への街道筋が通行止めになるという。

 帝都から南方へ派遣されていた近衛騎士団の通過待ちをするためで、朝早く、このインハングの街に通達があり、近衛騎士団の一隊がインハングを通過するまで、あと2日ほどかかるらしく、その間、通過待ちをしなければならない。


「2日間足止めか…しゃーない。帝都に伝令を飛ばして、その旨を伝えないと。」


 ハンデルは、報せを受けた当初は不機嫌そうにしていたが、今はもう吹っ切れたみたいで、サバサバとした感じでそう言った。


「帝都に誰か待ってるの?」


 マイカがハンデル尋ねたところ


「ああ、ウチの商会の仕入れ担当が既に帝都に着いている筈で、帝都に着いたならば直ぐにそいつが仕入れた品物で、また一儲けする筈だったんだが…」


 ハンデルはマイカの質問に答えながら細長い紙に文字をしたためている。覗いて見ると、それは到着が遅れる旨が書かれた手紙だった。

 ハンデルは既に鳥籠を用意していた。中には、昨日ハンデルが「ブラム」と呼んでいた大きな鳥が入っている。


「聞こうと思っていたんだけれど、この鳥は何て鳥?」


「ああ、スネル鳥って言うんだ。まあ、普通の鳥じゃなくてモンスターなんだけども頭が良くてな、古くから人間が飼い慣らすのに成功してるんだ。」


「ふーん…伝書鳩がわり?」


「ああ、そうさ。しかし、鳩と違うところは、こいつは何といってもモンスターだから、他の鳥に襲われることが無い。タカワシよりも強いからな。」


「でも、同じような鳥型のモンスターには?例のモンホル鳥とか。アレ、この子よりも随分大きいし。」


「それも心配ないのさ。何故かっていうと、こいつは飛ぶ速度が凄く速い。ハヤブサよりも、いや、空を飛ぶどんな生き物よりも速く飛べる。」


「ほおほお。それに頭も良いって?」


「ああ、鸚鵡オウムよりも賢いぜ。鸚鵡オウムなんかは教えた言葉をそのまましか話せないが、このスネル鳥は、ある程度の言葉ならば意味まで理解出来る。

 なあ、ブラム?」


「ソウダ!はんでる!

 ヨロシクナ!まいか!」


 ブラムは既にマイカの名も憶えており、予期せず名を呼ばれたマイカは少し驚いた表情となった。


「確かに、長所だらけなんだね、この子。」


「そうさ凄いだろ?人間が最も古い時代から益獣化させたモンスターの一種さ。」


「益獣モンスターって他にもいるの?…あ!ケルベロスは?ケルン頭いいよ。人の言葉を理解出来ているみたいだし。」


「うーん、益獣モンスターはいくつもいるが、ケルベロスは違うな。昨晩、酒場で誰かが言っていたように、不毛の地の入口で人を襲うからな。」


「それを聞いて思ったんだけれど、何か理由があるのかな?人を襲う理由が。

 だって、不毛の地に入ろうとした場合だけ向かってくるんだろう?」


「確かに。不毛の地から引き返せば、ケルベロスは追ってこないとも言うな。

 それに、ケルベロスが人を喰うなんてことも聞いたことが無い。」


「やっぱり何か理由があるんだよ。それが判れば、ケルベロスと人も仲良くなれるかもしれないよ。」


「そうかもな。でも今のままじゃ、やっぱりケルベロスは人を襲う害獣モンスターだと思われるままだろうな。」


 ハンデルはブラムを鳥籠から出し、その足に手紙をくくりつけた。


「帝都のヘルト商会本部まで頼む。」


「オウ!オレノイエダナ!」


「フフフッ、お前の家じゃねえよ。俺のだよ。」


 そのハンデルの言葉を待たず、ブラムは開け放たれた窓から飛び立った。

 なるほど速い!あっという間に姿が見えなくなった。


 朝に出発したブラムは、夕刻に入る前にハンデルの元へ帰ってきた。

 帝都からインハングに至るまでは、通常、馬車で2日ほどかかるらしく、ならばブラムは一体、時速何㎞で飛べるのだろう?


 ブラムの足には、ハンデルがくくりつけたのは違う、また別の手紙がくくりつけられており、開いて読んでみると、ハンデルからの申し伝えに「了解」の旨と、また、南方へ派遣されていたという近衛騎士団についても書かれていた。


 近衛騎士団が派遣されたのはコロネル男爵領だという。 

 ヘルト商会のハンデルの仲間が皇宮に仕える者から聞いたところによると、何やらコロネル男爵を急遽召還することとなり、男爵を迎えに行くために派遣されたのだという。

 「しかし」と、その手紙は続く。近衛騎士団が帝都を発したのは5日前であるが、その陣容たるや、近衛騎士団長が直率じきそつする完全武装の数百騎という物々ものものしいもので「迎えに行く、というより、討伐に向かう。」という方が相応ふさわしい雰囲気であったという。

 近衛騎士団達はウェイデン侯爵領を通過する最短ルートでコロネル男爵領に向かったため、小領主領群を迂回していたマイカとハンデル達とは遭遇しなかったのだろう。


 (コロネル男爵領に、そんな大部隊が…

 クライン村の事件と、何か関係があるのかな?良くない事で無ければ良いのだけれど…)


 マイカは胸騒ぎがしてきた。


               第25話(終)


※エルデカ捜査メモ㉕


 帝国近衛騎士団は近衛このえの名の通り、皇族護衛の任に当たる騎士達の部隊で、帝国最強部隊の一つである。

 部隊編成としては、1番隊から16番隊まであり、各隊それぞれ700~800騎ほどで構成され、総勢一万数千騎である。

 近衛騎士は世襲ではなく、厳しい選抜を勝ち抜いた者のみが任命される。

 現騎士団長は前任者の息子であるが、これも、単に他の騎士達よりも最も優れているためで、血筋やコネ等は一切介入していない。

 近衛騎士団が身に付ける装束は、武装、平服共に純白色で統一されている。

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