出発の時間となり、部屋を出て階段で1階ロビーまで降りると、大勢の人達が待ち構えていた。
この宿屋の従業員一同と、それ以外にも、宿泊客と思われる男女もいた。高級店の客らしく、皆、上品な身なり
マイカが姿を現すと
「ワァーーーッ!!」
というような大きな歓声が沸き起こった。
「本当にエルフだ!」
「まあ、なんて可愛らしいのかしら。」
「本当、お人形さんみたい。」
「エルフと同じ宿に泊まったなんて、
宿泊客達が次々と感想を述べる中、ハンデルが大きな声で
「さあさあ皆さん!手前は行商を営んでいるハンデルと申します。
本日の
こちらのエルフのマイカ嬢も共に参りますので、お時間がおありの方は、どうぞいらして下さい!」
と宿泊客達に向かって言った。
「おおーっ!行く!行くとも!!」
「まあ、それは素敵。アナタ、共に参りましょう。」
「ところでハンデルさんとやら、あなたのお店では、どんな品物を取り扱っておられるのかね?」
「はい。主に女性のお召し物や装飾品…、男性用の物もありますよ。身の回りの小物類や武具なども各種取り揃えております。
なお、女性用の物については、こちらのマイカ嬢が実際に身に付けて、皆さんに御覧頂こうと思います。
是非、御購入の参考にして下さいませ。」
「おおーーーっ!!」
宿泊客達は、一斉に大歓声を上げ
「行こう!皆で行こう!」
「こんなの黙ってられない!街中の人達に知らせるぞ!」
「ええ、こんな機会ないですもの!」
と、次々に興奮した口調で話し合っていた。
目の前で起こっていることの、あまりの展開に、マイカは目を白黒とさせていた。
(何だったんだろう?さっきのは。)
ハンデルと馬車に乗り、通りを進みながら、マイカは先程の
また、例の大きな麦わら帽子を被って耳を隠し、一目ではエルフと判らないようにしている。
「どうしたマイカ、面食らったか?
あれがエルフに対する一般的な反応だよ、知らなかったかい?」
「いや、今まで会った人達も、私に驚きはしたけれど、何て言うか、あんなスターみたいな扱いは…」
「スター?スターって何だい?」
「あ、そうか、判らないか。
うーん…そうだなあ、有名な舞台の看板女優みたいな、って言えば判るかな?」
「ああ、なるほど、確かにそんな感じだったな。」
「クライン村の人とかは、あんなんじゃなかった。」
「クライン村の人達は、圧政に
「うーん…」
「その点、このインハングや帝都の人達は違う、豊かで毎日、人生を
そういった人達にとっては、お前さんは、とっておきの娯楽のタネなのさ。」
「本当に、エルフって珍しい存在なんだね、この世界では。」
「ああ、一生見ることがないって人が大半だからな。」
マイカとハンデル、そしてケルンを乗せた馬車は、白い壁の三階建ての建物の前で止まった。
泊まっていた宿屋の
しかし、この街の建物は白い壁のものが多い。
「ここが行商人
盗賊団退治の依頼金の後金を受け取るのと、預けているウチの伝令を引き取るのさ。」
ケルンを荷車の中に残してマイカとハンデルは馬車を下り、建物の中に入った。
ハンデルは何故か、例の大きな鳥籠を手に持っている。
「いらっしゃいハンデルさん。
入口を入って直ぐのカウンター越しにいた受付の女性に言われ、二人はカウンター前の椅子に座った。
「やあ、ハンデル。この度はご苦労だったな。」
年齢40歳ほどに見える、黒髪を綺麗に七三分けに整え、口ひげを生やした男性が奥から出てきた。
紳士
「やあ
ハンデルが
その鳥は、全身の色や模様はよくいる鳩とそっくりだが、
大きさは、大型のオウムくらいだ。
「はんでる!はんでる!」
(わっ!この鳥、喋るんだ。)
マイカが驚いていると
「やあブラム、伝令ご苦労さん。」
と、ハンデルがその鳥の名を呼び、ハンデルと
「ハンデル、報酬の後金の受け取りはどうする?金貨か?それとも銀貨でか?」
「銀貨で頼みます、
「銀貨で、となると枚数が多くなるから少し時間がかかるな…ちょっと待ってくれ。
そうだ、酒でも飲んで待つか?用意するぞ。」
「いえ、これから店を開けるつもりなので、今は遠慮しときます。また夜にでも。」
「そうか、じゃあ今から店を押さえておくぜ。
…ところで、隣の美しいお嬢さんはどなただい?またお前の新しい彼女か?」
(…また?って、やっぱりハンデルの野郎、モテやがるのかコンチキショー。
確かに見た目も良いし、
ん?いや、いやいやいや!オレは心は男だからな、ホレるわきゃないぞ!…でも、確かにあの優しさには助けられた…)
「いえいえ、彼女はウチの従業員ですよ。新しく雇ったんです。
ん?どうした?」
ハンデルがマイカの方を見て、そう言った。
マイカが自身から自己紹介すると思っていたのに、何か考え事をしている様子で黙っていたためだ。
「あ!失礼しました。」
物思いに
「御挨拶が遅れて申し訳ございません、マイカと申します。どうぞよろしくお願い致します。」
「あっ!!」
カウンター越しの受付の女性も、マイカを見て、目を丸くして固まっている。
(やっぱり、エルフを見たらそういう反応になるのね…)
マイカは額に汗が流れるのを感じた。
「エ、エルフ、エルフだな?おい、本物のエルフだな?
行商人達の話には何回か出てきたが、実際に会うのは初めてだ。」
(何回か話に出てきた?行商人の中には、他のエルフを知ってる人がいるのか?)
「ハンデル、エルフのお嬢さんを使ってどんな商売をするつもりだい?」
「ええ、俺が取り扱っている商品を、このマイカ嬢に身に付けて貰ってですね、大勢の人にお
「それはいい!大儲け間違いなしだ!
ハンデル、その新しい商法、特許登録するかい?」
「いいえ必要ありません。他にもやりたい人がいれば、好きにやって貰えば。
もっとも、ウチのマイカ嬢ほどの逸材は中々見つからないでしょうがね。」
「ハッハッハ、違いない!では、この商法を考案したのは、ハンデル、君だということは全
他に特許の横取りをするヤツが出ないようにな。」
「はい。それはお願いします。」
「ところでハンデル、この商法の名前は?何て名付けた?」
「名前ねえ…そういえば考えてませんでしたな。何か適当に…」
と、ハンデルが考え始めた横で
「ファッションモデル…」
と、マイカがボソッと
「ファッション…モデル…?」
「ファッション…モデル…?」
ハンデルと
「
いい!それはいい!!この商法の名はファッションモデル式だ!
マイカさん、あなたはファッションモデル第1号だ!」
と、
(あ…
と、マイカの心はやや複雑だった。
第22話(終)
※エルデカ捜査メモ㉒
行商人
インハングの街自体は、帝国本領第3の都市であるが、帝国各地への街道が伸び、帝国の入口とも言える街の性格から、行商人