「それで、エルフのマイカさんは何処へ行くつもりだったんだい?」
「帝都へ、帝都へ行くつもり。」
「帝都かい?で、何処からここまで来たんだい?」
「クライン村ってとこ、コロネル男爵領の。」
「コロネル男爵領?なら、どうしてウェイデン侯爵領を突っ切ってこなかった?
そっちの方が全然旅がし
ここでマイカはハンデルにクライン村でのことを話し、コロネル男爵が、マイカがウェイデン侯爵領を通過するのを妨害したことを話した。
「重税に圧政か…本当なら許せんな、コロネル男爵のヤツ。」
「そうだろ?だから帝都へ行って、偉い人に訴えようかと思って…」
「でもさ、当代のコロネル男爵って、貴族間での評判は
「実際にコロネル男爵に会ったけど、あんな品がない男の、どこが評判が良いの?」
「何でも、豪華な贈り届け物で自分より
コロネル男爵の豪華な買い物のおかげで儲けた商人も大勢いて、商人
…そうか…その大盤振る舞いの財源が領民からの重税という訳か…」
「豪華な贈り届け物か…自分を良く見せるためなら、大勢の人達を苦しめても構わないって、そんなヤツなんだよ、コロネル男爵って。」
「しかし、証拠が無いんじゃ話にならないぜ。いくらお前さんが真剣に話しても。
それに、偉い人に話すって、誰ぞ上級貴族に知り合いでもいるのかい?」
「そんなのいないよ。大体、こちらの世界に来てから、そんなに時が経ってないんだ。
知り合いといえば、クライン村の村人か、あと、ウェイデン侯爵領の4人の衛兵さん達くらいだよ。」
「あ…そういや、そうだったな。それじゃ昔馴染みなんている筈ないわな。」
「あっ!そうだ、いま気付いたけど、ウェイ…」
「ウェイデン侯爵なら無理だよ。コロネル男爵からの贈り物を一番多く受け取っているのは、男爵の上司に当たるウェイデン侯爵の筈だからね。
第一、一都市の衛兵程度じゃ、頼る
「う……」
「まあ、俺なら
「本当?じゃあ…」
「ああ、力になってやれないこともない。ただし条件がある。」
(あ!きた……やっぱり商人が
暴漢から助けてくれたことに対する謝礼や、高価な薬の代金とかを、いらないなんて、おかしいと思ったよ…
金銭の代わりに、オレに言うことをきかせるつもりだったか…)
「ま、まさかアンタも私の、か、か、身体とかが目的か!?」
マイカは、キィッと強い眼でハンデルを
「はあ?ハ、ハハハハ。そんな訳ないだろ。何を早とちりしてるんだよ!?
そんなことが目的なら、お前さんが気絶している間とかに、とっくに手を出してるぜ。」
「ならば、あのアソゥ団の連中は、私を金持ちとかに売ると言っていた。アンタもそうか?
エルフは高く売れるらしいな!?」
「違う!!」
先程までニヤけた表情だったハンデルが急に真顔になった。眼に怒気をはらんでいる。
「で…でも、信用出来ないよ。商人なのに謝礼や報酬を要らないなんて言っておきながら、後から条件を付け足そうとするなんて、どう考えてもおかしいもん。
「違う、違うよ…俺が人を売買するなんて絶対に無い。絶対にそんな事しない。信じてくれ。」
ハンデルは相変わらず真顔のままだが怒気は消えている。話す口調も穏やかになっていた。
お互い、
「…俺は、この帝国の最も北のアルム村って所の出身でな、
母親は、俺の
……で、とうとう、このままだと家族みんな飢え死にしてしまうってところまできて…
…ところまできて…妹が奴隷商人に売られちまったんだ……」
「えっ…?」
「妹はまだ6歳で、俺もたった14のガキだったから、どうにも出来なかった…
だから、だから!俺は絶対に人を売るなんてマネはしないんだ、絶対に!」
「…そうか…判った。すまない。
で、妹さんは?今?」
「それきりさ。今だにもって消息や居場所は
俺が行商人になったのも、行商人は広く、色んな場所へ行くから、いつか何処かで妹の事を見つけられるんじゃないかと思ってさ。」
「早く見つかるといいな、妹さん。」
「ああ、必ず生きていると信じている。
そして…、たとえどんな姿になっていても、必ず連れ戻す。」
重々しい口調で話すハンデルが、特に「たとえどんな姿に…」と口にした時、最も
奴隷として身を売られた者の、特に女の生きていく道が、どのようなものであるか想像出来た。
「……」
「……」
「なら、私に対する条件って何なの?」
「ああ、俺の商売の手伝いをして貰おうと思ってさ…おっと、闘商じゃないぜ。行商のほうさ、通常のな。」
「行商の手伝いって、どんな事をするの?私は商売の経験は無いよ。」
「なに、簡単さ。まず、エルフってのは、この世界では本当に珍しい存在なんだ。数がメチャクチャ少ないからな。
だから、まずエルフを連れてるってだけで人がたくさん集まる。んで、俺が取り扱う商品は、女物の服や
(なるほど、客寄せパンダ兼ファッションモデルという訳か…)
「ちなみに、服や
つい先日、俺が思いついたんだ。それで、どこかに適材はいないかって思っていたところさ。」
(…ということは、オレがこの世界におけるファッションモデル第1号という事になるのかな?)
マイカは、舞台上をモデル歩きでウォーキングしている自身の姿を想像した。
「どうだ、やってくれるか?
「…うん。やる。頑張ります。」
マイカは自分の想像に照れて、真っ赤になりながら答えた。
(ん…?これだと、エルフモデルって事にならないか?違う物語に…)
「どうした、マイカ?」
「いや、何でもない。」
(何だったんだ?今のは。何だよ、違う物語って。)
「街道を少し進んだ所に馬車を停めてある。
さあ、行こう。」
ハンデルとアキラ改めマイカ、そしてケルンも共に街道を歩き始めた。
第18話(終)
※エルデカ捜査メモ⑱
帝国における奴隷売買には、きちんとした制度が定められており、勝手に行なうことは出来ない。
奴隷商人になるための必要な手続きと届け出は厳格で、更に認可された後も、年に一回、必ず更新の手続きが必要である。
更に、奴隷の売買の際にも事前事後の届け出がそれぞれ必要で、
これらの厳格な手続きは、先帝の女帝ヨゼフィーネが定めたものである。