「ところで、お前さんは誰なんだい?名前は?何処から来た?
エルフってのは、見りゃあ判るけど。」
ハンデルは、座ったままでいるアキラの前で自身も
「私…私は……」
(どうしよう…この男に、オレは異世界から来たということを話してみようか…
旅の行商人ということなら、広く知識がありそうだし…もしかしたら他の転生人を知っているかも…)
(そうだ!ウェイデン領の衛兵達は、オレの言うことは信じられると言った。
ノーラ達には、信じて貰えるかな?って、オレ自身が疑問に思っていたから信じて貰えなかったんじゃなかろうか?
もし知らないとしても、真剣に話せばオレの言うことを信じて貰えるのでは?)
「実は、私、この世界の人間ではなくて…」
「………はい?」
「別の世界から来たんだ。ここではない、
「…???」
「この世界のこと、何も知らない。何も判らない。
いや、これまで会った何人かの人から、少しは聞いたけれど…」
「…うーん…
(ダメか…!?)
「しかし、何だろうな。お前さんの言うこと、嘘とか妄想とかと片付けるには、顔が真剣すぎる。目に真実味が
「あ…!そうなんだ!決して嘘はついてない。一番訳が判らないのは、私自身なんだ。」
「………」
「………」
「うーん…それで、お前さんが居た
(は!信じて貰えた?)
「ええっと、まず、文明がずっと進んでいる。
自動で動く車があったり、空を飛ぶ乗り物があったり、色んな物を機械でたくさん作ったり…建物も、すごく高い建物もある。そう、中には雲に届くくらい高い建物…」
「ほう…」
「それと、モンスターは居ない。
人間も、エルフとか、半分動物みたいなのとか、そういう人は居ない。人間は皆、あなたと同じ感じの人しか居ない。」
「ほうほう…じゃあ魔法は?魔法はあるみたいだな?
自動で動く車とか、空飛ぶ乗り物とか、たくさん物を作る機械とかは、魔法で動かすんだろ?」
「違う。燃料、エネルギーで動かすんだ。油とか、ガスとか、電気とか、魔法はない…
いや、逆に聞くけど、こちらの世界には魔法が存在するんですか?」
「ああ、魔法を使える者は、ごく僅かだけどな。
お前さん、エルフだから使えるんじゃないか?エルフには魔法が得意な者が多いと聞くぞ。」
(魔法か…こちらに来てから全く意識してなかったけれど…)
「お前さんの話、実に興味深いな。もっと聞きたいよ。
で、お前さんの名前は?元の世界での。」
「
「マイハラアキラ?何だよそれ、へんちくりんな名前だな。」
「へんちくりん、って何だよ!男だったんだよ。元の世界では。
オッサンだったんだ。だから男の名前なんだよ!」
「男…?お前さんが?しかも、オッサンて…
ハハ、ハハハハ、ギャハハハハ!」
「何だよ!何で笑うんだよ!?嘘や冗談は言ってないぞ!!」
「ハハハハ、いや…ハハハ、その身体に…オッサンの顔が付いてるの想像しちまって…ハハ、ギャハハハハ!」
「いや、悪かった悪かった。しかし、マイハラ アキラってのは、男性名にしても妙なんだって、こちらでは。
大体、どんな意味の名だ?名の由来とかは?」
「
「名字だって!?お前さん、元に居た所じゃあ貴族だったのか?」
「違うよ。只の庶民だよ。」
「へえ…庶民が名字ねえ、こちらでは名字を名乗るなんて、貴族のお偉いさんくらいなんだぜ。」
(なるほど、日本も明治に入るまでは、庶民には名字が無かったからな…)
「いや、どっちにしろ、マイハラアキラってのは、こちらでは奇妙すぎて、
元の所から死んで、こっちに来たんだろ?
なら、心機一転、新しい名前を名乗ってみてはどうだい?」
「うん、たしかに。女性名を考えようかと思っていたところだ。」
「そっか。なら、マ イ ハ ラ ア キ ラ…
マ…イ……
お!マイカって、どうだい?マ イ カ 」
「マイカ…?」
「そう、マイカ!こちらでは割りと一般的な女性名で、〈美しい〉とか〈見た目の良い〉とかいう意味があるのさ。
(マイカ…か…何となく日本名的な響きもあるな。)
「マイカ、か。良い名だね。
うん。これから、マイカと名乗ることにするよ!」
知らず知らずのうち、ハンデルの話す口調は
第17話(終)
※エルデカ捜査メモ⑰
この異世界では、ハンデルが言ったとおり、庶民は名字を持たず、貴族階級にある者でも、下級貴族では、名字を持たない者もいる。
帝国の貴族の位は、位の高い方から順に
公爵
侯爵
伯爵
子爵
男爵
上騎士
騎士
準騎士
勲士
となっているが、この内、勲士は名字を持たず、準騎士でも、名字を持たない者の方が多い。
なので、日本の江戸時代よりも、名字を持たない者の割合は、ずっと多い。