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第14話 『野盗アソゥ団』

「ほう!本当にエルフのお嬢ちゃんじゃねえか!

 ん、一人か?あいつら、何かヘマ打ちやがったかな?」


 集団の中でも極めて大柄な、ボサボサ頭でヒゲ面の男が言った。

 その男は、両手いっぱいに指輪をめ、多数の宝石が散りばめられた首飾りをしていた。素肌の上に着ているベストのような上着も、たくさんの派手な色の鳥の羽根で飾られている。

 その大柄な男が言った言葉の内容から、このならず者の集団が、先程アキラが打ち倒した6人の仲間であるらしいことは明白だった。


「初めまして、お嬢ちゃん。俺達は、アソゥ団と言う気のいい連中の集まりさ。

 俺は団をまとめるルォーってんだ。よろしくな。」


 (何が、気のいい連中だ。)


 そのルォーと名乗った男以外にも、ボサボサの髪や、手入れをしていないヒゲ面の者が多く、その身なりの割には、分不相応ぶんふそうおうとも言える、宝飾品や豪華な武具などを身に付けている者が幾人も見受けられた。


 (そろいもそろって、こいつら皆、血の匂いをプンプンさせていやがる。)


と、アキラは感じ取り


 (どうせ、こいつら薄汚い野盗集団かなんかだろう。)


と判断した。


「さあ、お嬢ちゃんよ、これから俺達が良い所に連れて行ってあげるから、大人しくしているんだよ。」


 ルォーと名乗った、野盗集団の頭目らしい男がアキラに向かって言い、更に


「貴族様か、大富豪の人達の所だよ。ずーっと、食べる物や寝る所に困らなくてすむよ。

 まあ、その人達に気に入られ続けていれば、の話だけどね。

 でも、エルフは本当に珍しいし、君みたいに美しかったら、多分一生大丈夫だと思うよ。」


 ルォーは遠回しな表現を用いていたが、その意図するところは


 (どうやら、オレを捕まえて資産家に売り飛ばすつもりのようだな…

 この見た目だ、性奴隷か、良くてめかけかなんかにされるだろう。)


「は!?ゴメンだね、そんなの。

 うまい事を言って、単にオレを売り飛ばしたいだけだろうが!」


 アキラがルォーに向かって、そう言うと


「まあ…その通りだ。賢いねぇ、お嬢ちゃん。

 真性のエルフを、しかも、お嬢ちゃんのような可愛いエルフをお金持ちに紹介すれば、たんまりと御礼が頂けるからね。

 それこそ、俺達全員が生きていくのに困らなくなるほどのね。」


「ほざけ!クソがっ!!」


「言葉が汚いねぇ、お嬢ちゃん。

 やっぱり、お金持ちの人達に紹介する前に、俺達できちんとしつけてあげないといけないみたいだね。

 ま、正直に言うと、それが一番の目的かな。」


 頭目のルォーがそう言うと、アソゥ団の連中は一斉に笑い声を上げて


「そうそう、ホントたまんねぇよ、ネエちゃん!」


「そのデカい乳と尻を存分に味合わせてくれよ!」


「みんな、エルフとヤルのなんて初めてなんだ!」


「エルフの女は、どんな具合なのかな?」


などと卑猥な言葉を次々と投げ掛けてきた。


 (こんな下衆ゲスな男達に凌辱されてたまるものか!

 大体、オレは心は男のままだぞ!)


「みんな!かかれーっ!!」


 ルォーが号令を上げると、アソゥ団の連中は一斉にアキラの方に迫ってきた。


 (くそっ、やるしかない!こいつらを全員倒すしか!!)


 アソゥ団の連中は皆、先程の森の中での6人と同じく、アキラの事を傷つけまいと、素手、もしくは片手に短い棍棒のような物を持っているだけで、刃物は抜かずに襲い掛かってきた。


 アキラは杖の棒を振るい、前世でつちかった剣道七段(練士)の腕前を存分に生かして、次々と迫ってくるアソゥ団員達を打ち倒していった。


 (こいつら、大した腕前じゃない!

 これならイケる!一対一を何十回か繰り返せばいいだけだ!)


「ガウッ!ガウッ!ガウッ!」


と、ケルンの吠える声がし、続けて


いてぇーーーっ!」


という男の叫び声がした。

 アキラが声のした方を見ると、ケルンが一人のアソゥ団員の足に噛みついていた。


「ケルン!ここはいいから、キミは森の中に逃げて!!」


 アキラが迫りくるアソゥ団員達を打ち倒しながらケルンに向かって言ったが、ケルンは逃げず、また別のアソゥ団員の顔を目掛けて、その中央の顔の口から火を吹いた。

 その火は以前、魚を焼く際に見せた、チョロチョロとした弱い火ではなく、口から一直線に男の顔まで届く強さの炎で、顔を火傷した男が叫び声を上げて地面に倒れ伏した。


「この、クソ犬めがーーっ!」


 別のアソゥ団員の一人がケルンの後方から駆け寄り、ケルンの腹部を思い切り蹴り上げた。

 力一杯蹴り上げられたケルンの体が宙を飛び、地面に落下して動かなくなった。

 地に倒れたケルン目掛けて、4、5人のアソゥ団員が駆け寄り


「こいつめーっ!」


「死ね!コラッ!!」


「このクソモンスターめが!」


と、罵声を吐きながら、次々とケルンを力任せに踏みつけていった。


「ケルン!!」


と、アキラの注意がケルンに向けられ、隙ができた。

 その隙を狙って、アソゥ団員の一人が、後方から棍棒でアキラの足を払った。


 (しまった!!)


 地面に尻餅をついてしまったアキラが、また直ぐに立ち上がろうとしたところに、アソゥ団員達が一斉に迫ってきて、瞬く間に両腕を持たれ、仰向けに押さえ込まれてしまった。

 アソゥ団員達は更にアキラの足を押さえようとしてきたが、アキラは、そうはさせまいと足をバタつかせて抵抗した。

 アキラのころもの裾がまくれ上がり、下着の無い大切な箇所があらわとなってしまった。


「うっひょー!エルフちゃん、ノーパンじゃないの!?」


「おんやあ?剃ってるの?それとも元から?」


「何時でも何処でも受け入れ態勢万全ってことかい?」


「なら、抵抗することないじゃん!」


 (クソッ、好き勝手なこと言いやがって!

 こんな奴らに大事な所を…秘密を…)


 アキラは大切な箇所が丸見えになってしまったことなど気にしておれず、次々と足を取ろうと迫ってくるアソゥ団員達の股間や下腹部を蹴り続けて抵抗した。


「いい加減にしねぇか!このガキッ!!」


 アキラは左側頭部に強い衝撃を感じた。

 目の中に星が散った。

 左側頭部に温かい液体が流れるのを感じた。出血したらしい。

 アキラのバタつかせていた足の動きが止まった。

 足どころか、全身の力が抜けていった。


「お、お頭、それはマズイんじゃあ?」


「フンッ。これくらいは大丈夫だろ。こんなケガも直ぐに治るわい!」


 頭目のルォーがアキラの左側頭部に棍棒で一撃を喰らわせたのだった。


 遠のいていく意識の中で、アキラは何者かによって自分の両足が大きく開かれたのが判ったが、力が入らず、ほんの少しも足を動かすことが出来なかった。


「へへへへッ。じゃあ、頂きまーす。」


 薄れゆく意識の中で、アキラはルォーが下卑た笑いを浮かべながら迫ってくるのを見た。


 (あぁ…駄目だ……られる………)


 アキラは完全に意識を失った。


         第14話(終)


※エルデカ捜査メモ⑭


 先帝ヨゼフィーネが崩御ほうぎょしてから、アソゥ団のみならず、他にも盗賊や犯罪集団の連中が帝国に入り込むようになってきた。

 新たに即位した幼帝と、補佐する若い女性摂政に対して不安と不満を持つ領主達が、いざ、事が起きた場合に備え、兵力温存のため、たとえ治安維持のためとはいえ、兵を動かすことをいとい、帝国内各地の治安が悪化したためである。

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