「あ…あの私…大丈夫なんでしょうか?」
アキラは、まるでナンパされているような自分の状況が少し不安に感じられ、兵士達に尋ねた。
「ああ!ウェイデン侯爵家の兵たる誇りにかけて、
と、マティアスが迷いなく答えた。
他の3人も
「
と力強く答え
「ウェイデン侯の名に泥を塗るような行為は絶対しないから安心して!」
とレフィ
「女性は守るものだよ!」
とレクス
「でも、君の方から…なーんて、ねえ?」
とニールス
さすがに、そのニールスの言葉にはムッとして、アキラがニールスを
「冗談だよ、冗談!
だから、そんな恐い顔しないで…ゴメンて。」
と、ニールスは謝罪の言葉を口にした。
「許してくれ。俺も含めて、みんな、
と、マティアスが顔を赤らめながら言った。
「ともかく、明日の朝までの
とマティアスが真面目な面持ちとなって言ったところ、他の3人も、たちまち真剣な表情となって
(信用…してみるかな?
しかし、こいつら、軟派に見えても、ずっと辺りへの警戒を解かずにいる…なかなか優秀な衛兵達のようだな。)
アキラが4人の衛兵達と一緒に街道を進んでいくと、石造りの
塔と言っても、さほど高くはない。3階建てほどだが、辺り一面草原のため、かなり見晴らしがきくだろう。
アキラは、塔のすぐ横に建っている木造の小屋に案内された。
小屋に入ると、まず広間のような部屋があり、大きなテーブル1つと、椅子も10ほどあった。
そこでアキラが荷物を置くと、マティアスが
「失礼だが」
と言って荷物を調べた。元より不審な物は入っていない。
アキラは、ニールスが引いてくれた椅子に座り、4人の衛兵達もそれぞれ椅子に座って、各々、腰に付けていた袋からパンやチーズ、そしてソーセージを取り出してテーブルの上に置いた。
「すぐに街へ戻るつもりだったから、こんな程度の物しか持ってこなかったけれど、良ければ、どうぞ食べて下さい。」
と、マティアスが
「あ…美味しい…!」
パンは柔らかく、軽い口当たりで、元の世界の飽食に慣れたアキラの舌でも充分に
(美味い!)
と思えたし、更にチーズに至っては
(今まで食べた…と言っても、スーパーとかで手軽に買えるヤツばっかりだけど…今まで食べた、どのチーズよりも美味い!)
と思うほど、素晴らしく美味だった。
アキラの横でケルンも、貰ったソーセージを激しく尻尾を振りながら、美味しそうに食べている。
目を輝かせながら
「美味しい」
と言ったアキラに和して
「そうだろ!美味いだろう!」
「みんな、ウェイデン印の物だからな!」
と、レフィとレクスが嬉しそうに言った。
「ウェイデン印…?」
アキラが、そう問いかけると
「ああ、ここウェイデン侯爵領の食い物は、全部美味いんだぜ!」
「そうさ!帝国一なんだぜ!」
「
「牧畜が有名だから、特に肉類や乳製品が重宝がられて、みんな、ウェイデン印の肉、とか、ウェイデン印のチーズ、とか言って、特別な物としてるんだ。」
と、4人が次々と教えてくれた。
(へぇー…良質な食べ物に、正しい心根を持った人達、ウェイデン侯爵領って良い所みたいだな…)
アキラは4人の衛兵達の顔をそれぞれ見ながら、そう思った。
食事をしながら、4人が幼なじみであることや、4人がそれぞれ子供の頃にしたイタズラや失敗談、グレンスの街の自慢話などを楽しそうに話してくれ、談笑していたが、マティアスがふと
「そう言えば、先程、コロネル男爵が領民に圧政を敷いているって言ってたけれど、本当なのかい?」
と尋ねてきたため、アキラはクライン村での出来事を話した。
「税率8割だって!?それも、個人ごとに!?」
と、みな一様に驚きの声を上げ
「帝国の定めでは5割までは認められているが、それでも大体何処も4割程度にしている。
我がウェイデン侯爵領に至っては、3割2分ほどだ。」
「明らかに掟違反だ!」
「その、ボーってヤツも
「しかし、コロネル男爵、うちの領内にもしばしば訪れられるが、俺達のような下っ端にも優しく丁寧に接してくれるぞ。」
「はん!侯爵様が上役だから、家来の俺達にも丁寧なんだろうよ!
俺、一度、男爵が連れてきた男爵自身の家来を馬上鞭で何度も打ってるの見たことがあるぞ!」
「そうか…表裏がある人物ということか…
しかし、そのことを帝国政府に訴えても、証拠となるものが無ければ…」
「ああ、貴族を
「ああ、そうなれば重罪だ…」
と4人共、アキラの話に
「私の言うことを信じて下さり、ありがとうございます。」
アキラが4人に御礼を言うと
「だって、キミ可愛いもん❤️」
と、ニールス
「そう!
そうだ!そうだ!
可愛いは正義!」
と、レフィとレクス
「まあ、可愛いのは
と、マティアスが顔を赤らめ、更に
「
と言った。
他の3人も
「うん。そうそう。」
「キミの言うことは信じられる!」
「キミが嘘を付いていないのが、はっきりと判る。何でだろうね?」
と、アキラに向かって言った。
(…ノーラとその家族も、何処の馬の骨とも判らないオレのことを直ぐに信用してくれたし…
オレが、エルフってことだけでもなさそうだし…
今のオレ自身に備わっている才能とか…能力とか…なのかな?
うーん…考えすぎかな?)
食事が終わった後も
マティアスが小屋を出る際
「奥の部屋に10ほどベッドがある。常に清潔にしてあるから、どれでも好きなものを使うといい。
朝になったら迎えに来るから、中から戸締りして、ゆっくりお休みなされ。」
と言ってくれた。
アキラは念のため、ドアから一番遠いベッドで眠ることにした。
心なしか、ベッドから
翌朝、アキラは4人のグレンス衛兵達と共に、もと来た道を戻っていた。
当初、昨日に出会った場所までの見送りということだったが
「ギリギリまで送ってあげようよ、マティアス。」
と、ニールスが言うと
「そうだな、地領には入れないが、我が領内のギリギリ
ということとなり、西への細道の分岐点までついつきてくれた。
「このまま道なりに…女性の脚なら10日ほど行くと帝国本領に入れる。
途中、この道よりも細い道がいくつも左右に分かれているが、それぞれの小領主の領地に至る道だ。
小さい、と言っても、人里があり、商店や宿屋がある所もあるから、疲れたらお寄りなされ。」
と、マティアスが教えてくれた。
「いいえ、なるべく早く帝都に着きたいので、寄り道はしないでおこうと思います。」
と、アキラが返事すると、ニールスが騎馬に付けていた袋を1つアキラに渡した。袋には取っ手が付いていて、持ちやすくなっている。
「はい!キミが寝てる間に、街まで戻って持ってきたんだ。君が持ってる量じゃ、回り道をすると足りないと思って。」
中身は、昨晩ご馳走になったパンとチーズとソーセージだった。
「あと、これとこれ。」
と、ニールスから更に大きな麦わら帽子と木札のような物を貰った。
「もう真夏も近いから、日除け。それに、これだけ大きいと深く
それと、その木札は、正規の旅人であることを示すものだよ。その木札を持っている者への妨害は禁じられていて…まあ、絶対じゃないけど、魔除け代わりに。」
「皆さん…ありがとうございます。でも、私にこのようなことをして、後で
「心配御無用!我らは、
と、マティアス
「そうそう、大丈夫よん。
あ、そうだ!俺、今日から休暇取ろうかな?10日ほど。
一緒に帝都行くわ。」
と、ニールス
「余計な心配が増えるわ!」
「そうだ!そうだ!」
と、レフィとレクス
「それは命令違反というより、そもそもの規定違反だから無理だな。
そんなことが出来るのなら、俺が…」
と、マティアスがまたまた顔を赤らめながら言った。
「では、名残惜しいが、これにて。」
と、マティアスがここで別れる旨をアキラに申し伝えると、ニールスも
「元気でね。帝都に着いたら手紙頂戴よ、俺だけに。」
と、この場から先へは送れない旨を言った。
「次に来る時には、ウチの領内に入れるようになってたらいいね!」
「うん。いいね!」
と、レフィとレクスも別れの言葉を言った。
「皆さん、本当にありがとうございました。
是非、また訪れたいと思います。
…それでは。」
4人に背を向け、アキラは細い道を進み始めた。
細道の先は、薄暗くてよく見えない。また森の中に入っていくようだ。
グレンスの衛兵の4人は、アキラの後ろ姿が見えなくなるまで見送っていた。
「あああーーーっ!!」
と、突然ニールスが大声で叫んだ。
「そういや、俺達、あの
「…あっ!…」
と、他の3人も今更ながら気付いたようだ。
「どうか、道中ご無事で。」
マティアスが、もう見えなくなったアキラの背に向かって、祈るように言った。
第12話 (終)
※エルデカ捜査メモ⑫
ウェイデン侯爵領における見回りの衛兵は、通常12~3人で一個分隊を形成するが、グレンスの街の
マティアス
ニールス
レフィ
レクス
の4人は武技も堪能で、目端も良く利き、何と言っても、チームワークが凄く良いために、たった4人で一個分隊を形成している。
見張りの塔の休憩小屋にイスやベッドが10あまり有ったのは、通常の衛兵分隊の人数に合わせているためである。