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第4話 『クライン村① 村の少女との出会い』

森の中をてなく進むアキラとケルン


 (一昨日、村のあった方から日が昇った。


 そこから鳥のモンスターから逃げるのに森へ入ったけれど、今朝、来た方角から見て右手の方向から太陽が移動してきて、今は丁度ちょうど、上くらいにある。)


 (だから、この世界の東西南北や太陽の動きが元の世界と同じと仮定すれば、オレは、最初に西に進み、今は北を向いているということになる…)


(このまま北に進んだ方角の方が、左手方向の西の方角より明るい気がする…


 と、いうことは、このまま北に進めば森を抜けられるかも?)


 しばらくアキラとケルンが真っ直ぐ歩いて行くと、急に前の景色が広くなった。


「森を抜けられるぞ!

 あっ!見ろ!ケルン。

 道だ!道がある!!」


 森を抜けた場所から、ほんの数歩先に草むらから露出した土の一本筋が左右に延びていた。


「左右の道…ということは、東西?に通じているのか?

 どちらに行こう…

 東、南東の方角から来た訳だから、先に進むとなると、西だ!左の方だ!」


 アキラとケルンは道まで辿たどり着くと、左に曲がって進み始めた。


 日に照らされた土の道は、これまで歩いてきた森の草の上よりも若干熱く感じられた。


 アキラとケルンは道を歩き続けていた。

 そろそろ日が暮れようとしている。


 「行けども行けども、人っ子1人いないね、ケルン。

 町とか村とかも全然見えてこないし…」


 そうアキラがケルンに話しかけていると、左手の森から小さな影が飛び出してきた。


「ワァッ!」

「わあっ!」


 アキラと、その小さな影が同時に叫んだ。


 小さな影の正体は少女だった。

 年齢は10歳を超えたくらいだろうか?

 シンプルなデザインの、赤色無地のワンピースを着た、茶色い髪のオカッパ頭の、青い瞳の大きな目をしている、やや痩せた少女だ。


 (焼けた村の焼死体とは違う、オレがいた、元の世界の人間と同じ姿の女の子だ。)


 少女は立ち尽くしたように直立不動になり、目を見開いてアキラの顔を見つめている。

 手に持っていたカゴを落とした。

 中には、色んな色や形をした、種類の違うキノコがいっぱい詰まっていた。


「あの…こんにちは。」


 アキラは、その少女に挨拶あいさつしてみたが、少女は無言でアキラの顔を見つめ続けている。


「こん…にちは。」


 もう一度呼び掛けてみるも、少女は黙ったままだ。


 (言葉が通じないのかな?)


 そうアキラが思った瞬間


「ワァーーッ!ビックリした!!」


と少女は、アキラにもはっきりと判る言葉で叫んだ。


 逆にアキラが、突然少女が叫んだことに驚いていると、少女は続けて


「アタシ、こんな綺麗な女の人、初めて見る!」


と言って、少女はアキラの全身を、正面にとどまらず、横や後ろにも回って見回してきた。


「うわぁ、服が光ってる…」


 夕陽に照らされたアキラのころもが虹色に光っている。

 その光る様子を、少女が鼻をアキラの身体に付くほどに顔を近づけ、食い入るように見てくる。


「あ、あの、お嬢ちゃん…」


 アキラが困惑気味に少女に呼び掛けるも


「お姉ちゃん、何処の人?

 何処から来たの?

 今から何処に行くの?

 こんなところで何してたの?」


と、少女は矢継ぎ早に質問を投げ掛けてきた。


「あ…え、と、とりあえず人里に…村か町があれば、そこに行きたいんだけど…」


 アキラが、そう少女に言うと


「じゃあ、うちに来て!ここから近いから!」


と少女はアキラの手を引いて、やや強引に案内を始めた。


「ちなみに、今どっちの方角に進んでるの?」


「西よ!」


 (西…オレの思ってた方角と一致する…)


「ちなみに東は、太陽が昇る方?」


「そうよ!お姉ちゃん、そんな当たり前の事、何で聞くの?」


 少女に手を引かれるまま、近いと言いつつ30分程も歩くと、丸太の柵で組まれた門が見えてきた。

 門の上にある看板に何か書いてある。


「クライン…?」


アキラがそう呟くと


「そう!クライン村!アタシの村よ!」


と、少女が元気よく言った。


 (初めて見る文字だったのに、難なく読めてる…)


 村の中には、青々と生い茂った広大な畑が一面に広がり、その中に点々と、質素な造りの家が何軒もあるのが見えた。大きな風車もある。


 村の中を進んでいくと、他の家々とは違った、瀟洒しょうしゃな造りの館が目に入った。


 そのアキラの目線に気付いた少女が、顔を歪ゆがめ、明らかに嫌悪の表情を浮かべ


村長むらおさ様のお屋敷よ。」


と、やや吐き捨てるように言った。


 ようやく日が暮れた頃、他の家よりも幾分大きな一軒の家に着いた。


「ここがアタシのウチ!」


少女がドアを開け、アキラの手を引いて玄関口に招き入れた。


「みんな!お客さんだよ!」


 そう少女が叫ぶと、奥から父母らしき30歳前後の男女と、弟らしき、少女より少し年下くらいの男の子が出てきた。


 皆、アキラを見ると、あんぐりと口を開けて言葉を失ったかのように、ボーッと立っている。


「えー、と…」


 アキラが言葉に困っていると、奥からもう一人、祖母らしき60歳くらいの年輩の女性がでてきて


「あんれまあ!エルフでねぇか!?」


と、驚きの声を上げた。


 「エルフ…?」


 少女が祖母らしき女性の方に振り返って、そう尋ねた。


「そうだよ。エルフさんだよ。

 私も子供の頃、一度だけ街で見たきりの、凄く数の少ない、珍しい人達だよ。」


 祖母らしき女性が、少女にそう答えると


「この方が噂に聞くエルフさんか?」


「私、生まれて初めて見た。なんとも可愛らしい人だねぇ。」


と、少女の父母らしき男女が感嘆の声を上げた。


「本当に、美しくあられるねい。」


 父親らしき男性の視線が、アキラの顔から胸元に下がり、胸の谷間を凝視ぎょうししている。


「コラッ!」


 母親らしき女性が気付き、男性を注意した。右手を上げて拳固げんこを握っている。


「そろそろ夕食の準備が出来るから、どうぞ食べていって下さいな。」


 祖母らしき女性がそう言うと、他の家族達もみな手招きして、アキラを屋内に招き入れようとした。


「あ…あの…?

 この子もいいですか?」


 アキラが後ろに隠れていたケルンを前に出した。


「モンスター!!」


皆、一斉に驚きの声を上げたが、少女が


「大丈夫よ。ここに来るまで、ずっと尻尾を振りながらついてきたんだから。

 凄く慣れてるみたい。何にも悪さしないよ。」


と言うと


「よく見ると可愛いかも。」


 と母親らしき女性が言い、弟らしき男の子が近づき、ケルンの頭をで始めた。


 ケルンは嬉しそうに尻尾を激しく振って喜んでいる。


「そのモンスターの子供も、どうぞ連れて中に入って下さい。」


と父親らしき男性が言ってくれ、アキラとケルンは家の中に入った。


 テーブルの上に、1人2皿ずつ、それぞれ皿が置かれ、床に伏せているケルンの前にも同様に皿が置かれた。


 1つの皿にはパンとチーズ、もう1つは、豆が入ったスープだ。


 配膳が終わり、食事を始めようとした時、アキラが、ふと気付いた。


 (他の皆の皿にはパンが1つなのに、オレの皿の上には2つ乗っている。

 豆のスープも他より多いようだ。)


 その、自分達より量が多いアキラの皿を、少女と男の子がじぃっと見ていた。


「あ…私には、少し、多いかもなので。」


 アキラは1つのパンを割って半分こずつ少女と男の子の皿に置き、スプーンですくって、豆のスープも分けてあげた。


 その様子を他の家族が微笑みながら見守っている。


 パンは固く、チーズも味気なく、スープも薄い塩味がついただけのものだったが、この世界に来て初めて摂る人間の食事は、アキラにとって涙が出るほど有り難かった。


 食事をしながら少女が


「そういや、自己紹介まだだったね。

 アタシはノーラ。10歳だよ。」


と言い、家族1人1人を指さしながら


「お父さん、お母さん、弟のハルム、そしておばあちゃん。」


と紹介すると


 父親は「ルトヘル」


 母親は「ミルテ」


 祖母は「サマンタ」


と、それぞれ名乗った。


「エルフのお姉ちゃんは?お名前?

 あと、何処から来たの?」


とノーラがアキラに問いかけてきた。


 アキラが少し間を置いて、やや言いづらそうに


「あ、あの…私…実は、どうしてこの世界に来たのか判らなくて…

 違う世界に居てた筈なのに、気が付いたら、こっちの世界に来ていて…

 何でこの姿なのかも判らないし、名前とかも…

 どう説明すればいいのだろう…?」


と言ったところ、皆、首をかしげたり、口をポカーンと開けたりして、何を言っているのか理解出来ない、という様子だった。


「…エルフさんは、どうやら記憶を失っているみたいね。」


 ノーラの祖母サマンタがそう言い、続けて


「あなたが何者で、何処から来たのかとか判らなくてもいいわ。

 あなたが良い人だってことは、子供達に食事を分けて下さったことでよく判ったから。

 あなたが良ければ、しばらくうちに居なさいな。

 その内、記憶が戻るかもしれないし、焦らずゆっくりしていきなさい。」


とアキラに向かって言ってくれた。


         第4話(終)




※エルデカ捜査メモ④


 アキラが転生当初から着ている、半袖で背中と胸元が大きく開いたデザインの薄手の白色ワンピースは、光の当たり具合で虹色に光る。


 エルフのころもと、この世界で呼ばれるもので、非常に軽く、絹よりもなめらかな、良い肌触りで、透けない、とても丈夫な素材で作られている(普通の刃物では切れないほど)


 エルフしか、材料、製法を知らず、売れば極めて高価。 

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