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第2話 『異世界転生』

村を焼く炎の勢いは収まる様子を見せない。

 人の焼ける匂いも濃厚さを増していくようだった。


 (あの村にいたのだろうか…?オレは…?

 あの村に背を向けて倒れていたのだから、その可能性はある

 逃げようとでもしていたのだろうか?

 あの村に、すぐにでも行きたいが…)


 アキラは、薄手の服しかまとっていない、さらに裸足である自分の姿を見て


 (これでは火災現場には行けん…

 救助活動や調査なんて不可能だ…)


 (ああ、オレはなんて無力なんだ!)


 そう憂いていると、アキラは突然、深い睡魔に襲われた。


 (な、何で…?さっきまで気を失っていた筈なのに…

 だ、駄目だ…あらがえない…、うぅ……)


 アキラは膝から崩れ落ちてしまい、そのまま木の幹にもたれ掛かるようにして深く眠ってしまった。


 「ドオォーンッ!ダアァーンッ!」


 どれくらい眠っていたのだろう。アキラは一帯に響き渡る轟音で目を覚ました。

 目を開けると丁度、稲光いなびかりが目に入った。

遅れて雷鳴が鳴る。既に天をひっくり返したような激しく強い雨が降っている。

 アキラは葉のたくさん茂った木の元にいるため、幸いにも雨に濡れずに済んでいる。


 「あっ…」


 村を焼く炎が雨のせいで、眠ってしまう前よりもはるかに小さくなっていた。


 景色が白んできた。

 夜が明けはじめてきたが、降雨の勢いは変わらず、村の火が消えていく。

 夜が完全に明けたころ雨が止み、村を焼いていた火も完全に消えた。


(これなら村に行ける)


 アキラは村(の焼け跡)に向かって小走りに駆けて行った。


 (現場を調べる際は、まず外周から)


 アキラは、いきなり村の中には入らず、炎によって焼かれた部分と、焼かれていない境の辺りを時計回りに時計回りに、視線を内に向けて注視しながら歩きだした。


 村は広くなかった。感覚的に10分ほどで一周できた。

 外周から見て焼け崩れた建物、または建物があったであろう跡は合わせて30ほどしかない。ごくごく小さな集落のようだ。


 アキラは、村の外周を一回りして、一点、不可思議な点に気付いた。


 (外からこの村に入る、この村から外に出る、道が無い…

 普通、人里なら外部への道が無いのは考えにくいのだが…どういうことだろうか?)


 アキラは村の中に入った。

 今度は右へ真っ直ぐ進み、村の端までたどり着くと、左へ折り返して、左右へジグザグ進んだ。

 そして最初に目に入った、焼け崩れた建物の奥に、アキラは何かを見つけた。


 それは、地に倒れ伏していた。

 全身焼け焦げている、焼死体だった。

 しかし、何かが違っていた。

 身体の大きさや、二本の腕、二本の足、という形状からは人のように見える。足には、焼け焦げているが、靴のようなものを履いている。

 だが、頭部は前後に長く、口が顔いっぱいに裂けているように大きい。

 さらに、決定的にアキラが認識する人の形と大きく異なっていたのは、長い尻尾が生えていることだった。足の長さと同じくらいの長さだ。

 頭部や尻尾の様子は

  (オオトカゲのようだ)

とアキラの目には映った。


 (こ、これは…?靴を履いているから…人…なのか?)


 アキラは躊躇ためらいつつ靴を脱がしてみた。

 靴を履いていた部分は焼け焦げていない。そこには、アキラ同様、五本指が揃った足があった。


 (人だ!人の足だ!)


 アキラは慌てて自分の尻を触った。


 (オレには尻尾は付いてない…)

 (とにかく、もっと村の中を調べてみよう)


と、アキラは脱がせたその人(?)の靴を手に取り


 (表面は焦げているが履けそうだ

 このまま裸足のままで村内をうろつくのは危ないな

 焼け崩れた建物の釘やら何やら落ちているかもしれないし…)


 アキラは、その焼死体に手を合わせ


 「すいません。何処のどなたか存じませんが、拝借します!」


と言って、その靴を履いた。

 アキラの現在いまの足には、やや大きかった。


 アキラは村の中をくまなく捜してみたが、誰もいる気配はなく、さっき発見した謎の焼死体以外には、人も動物も発見できなかった。


 (妙だな…あの時流れてきた、あの匂いからすると一人や二人ではなさそうだったけど…

 オレが眠っている間に何かあったのか?)


 「ギィャアァーッ!ギィャアァーッ!」


 アキラの頭上から、いくつもの奇声が聞こえてきた。

 アキラが頭上を見上げると、赤い鳥(?)の群れがいた。かなりの数だ、50羽ほどもいるだろうか。

 しかし、鳥というには大きすぎる、まるで翼竜と見まがうほどの大きさだ。

 しかも、くちばしの中に、尖った歯がたくさん生えているのが見えた。


 「鳥?いや、あんなに大きな鳥いるか!?

 4、5メートルはあるぞ!

 歯も生えてるし…

 あれは鳥じゃない!モンスターか!?」


 アキラは、その鳥型の、モンスターの群れが、いずれも自分の方を見ながら空を周回しているの事に気が付いた。


 (…もしかして…オレ、狙われている?)


 その赤い鳥型のモンスターが周回を止め、アキラに向かってくる様子を見せた。


 (ヤ、ヤバい!!)


 アキラはその場から全力で走って逃げた。

 村から出ると、すぐに森があったので、その森の中に入り、全力疾走で逃げた。


 アキラは、森の中にある湖のほとりに逃げ着いた。

 静かで綺麗な湖だ。

 もう鳥型のモンスターは全く見えなかった。


 (どうやらいたようだ…)


 フーッと一息ついたアキラは、湖の水を手ですくって飲んだ。

 その時、湖面に写った自分の姿を見た。

 そこには

    年齢16~18歳くらい

    白金色の長い髪

    緑色の瞳

    先の尖った耳

の巨乳の美少女の姿があった。


 「あ!!」

 「エ、エルフやん!?ガチでエルフやん!!」

 「しかも…メチャクチャ可愛いんですけど!!

 こんなキレイな、可愛い女の子、初めて見た…」


 アキラは湖面に写る自分の姿に暫く見惚みとれていたが、顔にすすが付いていたので湖の水で顔を洗った。

 洗った顔を拭くものを持っていないので、着ているワンピースの裾を膝元から顔までまくり上げて拭いた。

 何か、下半身が異様にスースーする。

 アキラは、ワンピースの裾を持ち上げたまま、下を覗き込んだ。


 (!!!)


 アキラは慌てて裾を膝元まで下ろした。


 「パ、パパ、パパパパ、パンツ履いてないやん!?」


 驚きのあまり、そう叫び、次に続けてワンピースの胸元を開けて覗き込んだ。

 アキラ自身判っていないが、アキラの顔は真っ赤になっている。


 「下着付けてないやん!な、何で!?

 これって寝巻きなんか?」


 アキラは、暫し自身の姿に戸惑っていたが、落ち着きを取り戻して


 (このエルフの姿に、さっきの空飛ぶモンスター、村のオオトカゲみたいな、人みたいな死体…)

 (ここは、オレが今までいた世界とは違うようだ)

 (どうやらこれって、異世界転生ってヤツか…?)

 (やっぱりオレ、あの時コージに刺されて死んだんだな…)


とこれまでの出来事を分析していた。


 その時、アキラのお腹が「グーッ」と大きくなった。


 (ああ、お腹すいたなあ、あれだけ走り回ったし

 でも、オレ、何も持ってないしな…

 この薄手の衣だけで、下着すら付けてないし…)

 「せっかく生まれ変わっても、このまま飢え死にするしかないのかな…?」


 そう口に出したアキラの頭上から、何やら甘い香りがただよってきた


 (あれ、あの木の実って…イチジク、イチジクかな?イチジクの実がなってるのかな?)


 高さ3mほどの木に、円錐形の赤紫色をした木の実がいくつもなっている。


 「子供の頃、木登りは得意だったぞ!この程度の高さなんて。」


 アキラは木に登って、成っている実を持てるだけ採った。


 (近くで見ると、やっぱりイチジクっぽいな、匂いもイチジクの匂いだ。)


 アーンと、アキラは口を開けて、採った木の実を食べようとしたが


 (待てよ、毒とか、大丈夫かな?これが本当にイチジクなんか判らんし)


 アキラは暫く考えたが


 (ま、餓えて死ぬのも、毒で死ぬのも、死ぬことには変わりないか)


 アキラは再びアーンと、口を開けたが


 「あ、いけない。」


と言い、実の皮をむいて一口食べた。

 アキラの口いっぱいに甘い香りが拡がった。


 (ああ、イチジクだ…これは紛れもなくイチジクだ…)

 (この独特の香りと食感が苦手だったけど…美味い!美味いなあ…)


 アキラは、全身に栄養が行き渡っている感じがした。

 知らず知らず、アキラはイチジクを頬張ほおばりながら涙を流していた。


 「生きてる。オレ、生きてるんだなあ。」


 アキラは、感動の言葉を口にしていた。


 「生きてるのって、尊いなあ。」


 空を見上げると、雲一つない晴天が広がっていた。


         第2話(終)


※エルデカ捜査メモ②

アキラが遭遇した鳥型のモンスターは

 「モンホル鳥」

と言い、翼を拡げると4~5メートルにもなる。

 全身朱色の羽毛で覆われ、翼の先が、ややオレンジ色っぽい色をしている。

 プテラノドンのような長いくちばしの中にサメのような尖った歯が生えている。

 肉食で色んな動物を狩って食べ、牧場の牛や羊をよく襲い、人間も襲う。

 翼に穴が開くと(小さな穴でも)墜落するため、人々は弓矢や、村や町などの集落や、牧場、畑などにも設置されている固定式のいしゆみなどで対抗している。







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