『――いや? いやいやいや? ナニちゃっかり女の子とデートしてるんですかセンパイ? ブチ殺しますよ?』
「ねぇましろん? 言葉のナイフが先輩を切り刻んでいるよ? もっと優しく扱ってね?」
マリアお嬢様とお外で遊んだその日の深夜1時。
俺は自室のベッドに腰をかけながら、爽やかにイギリスから殺害予告を口にしてくる愛しのキ●ガイ、白雪真白たんの声音に背中をゾクゾクさせていた。
『ハァ……。真白が居ないことをいいことに、アッチで腰をフリフリ♪ ソッチで腰をフリフリ♪ ……種づけに余念がないようでなによりですセンパイ』
「おっとぉ? 言葉に悪意を感じるぞぉ?」
いや、なんでおまえ俺の彼女
「というか俺と電話していていいの、ましろん? ソッチは夕方の4時くらいだろ? そろそろ学院主催の乱交パーティーが始まるじゃねぇの?」
『学院主催の乱交パーティーって何ですか……社交界パーティーですよ。真白はもう準備を終えていますし、問題ないです。あっ! よかったら真白のドレス姿、自撮りで送りましょうか?』
「おっ、マジで? 見る見るぅ!」
『――っと、思いましたが、やっぱり直接見せたいので止めときますね?』
「う~ん? 上げて落とすねぇ~」
俺のお股に住む息子が「おっ? 出番か?」とワクワクしていただけに、肩透かし感がハンパじゃねぇ。
先輩の心と股間をこうもかき乱すだなんて……ましろん、恐ろしい
「まぁ、今の所ましろんが無事で何よりだわ。遠足は帰るまでが遠足だからな? 気を抜くなよ?」
『だから心配し過ぎですよセンパイ』
「バッカおまえ!? ヤリチン大国イギリスを舐めるなよ? あいつら呼吸するようにすぐナンパするんだから! 鬼●隊より呼吸使ってから。ナンパの呼吸使ってっから。壱の型『種●け』を狙ってっから!」
『……センパイ、今度真白と一緒に旅行に行きましょう? センパイは1度日本を出て世界を見た方がいいですよ?』
何故か俺の脳裏に可哀そうな子を見るような目をした後輩の姿がピックアップされる。
なんだろう? 先輩としてごくごく当たり前の忠告をしただけなのに、なんで逆に俺の方が心配されているんだ?
そう言えば『世界』という単語で思い出したんだけど、我が中学時代の同級生にして好みの女性が「コーヒーのような肌をしたピッチピチのアメリカのモデルさん(35歳)」と十代前半にしてワールドカップへ進出を果たしていた難波くんは今頃ナニをしているのだろうか?
まぁ彼のコトは今はどうでもいいか。
今は我が愛しの後輩、ましろんについてだ!
「マジで気をつけろよ、ましろん? 遊び半分で着いて行ったら取り返しのつかないコトになるんだからな? 『キミ可愛いね!』とか言われてもホイホイついて行っちゃダメだからな? 基本的に男が女の子に『可愛い』って言うときは『1発ヤラせろや!』って言ってるようなモンだから、簡単に信じちゃダメだぞ! あと奴らが言う『イイ女』は頭に『都合の』がつくタイプの女だから、ソッチも簡単に信じちゃダメだぞ? あと――」
『だから大丈夫ですってば。……あっ! もしかしてセンパイ、今、
「ふぇっ!? あ、あのその……ぼ、ぼぼぼぼぼ、ボキはですね!?」
『い、いやそこで照れないでくださいよセンパイ。コッチも恥ずかしくなってくるじゃないですか……』
俺の動揺が後輩に伝わったのか、お互いらしくもなく
何とも甘酸っぱい空気が俺たちの間に流れると同時に、俺のスマホに別の着信が入ったことを知らせるキャッチが届いた。
「あっ、ワリィましろん。着信が入った。とりあえず今日はこの辺でお開きにしようぜ?」
『そ、そうですね。それじゃセンパイ、次はセンパイから連絡してくださいね?』
「おうっ。あっ、お土産期待してるわ」
任せてください! と元気のいい声音がスピーカーから流れると同時に、ブツリッ! と後輩からの電話が途切れる。
色々と名残惜しいが、どうせあと3日で帰ってくるのだ。
そのときにまた直接本人から土産話を聞けばいい。
と自分を無理やり納得させていると、再び俺のスマホに着信が入った。
どうやら着信者は先ほどの方と同じようで、間髪入れずに再び電話を寄越したらしい。
俺は着信者の名前を確認しながら、スマホをタップし、
「おはようございます、お嬢様」
『うん、おはようロミオくん。って、もう夕方なんだけどね』
最愛の我が主、ジュリエット・フォン・モンタギュー様の声音が優しく鼓膜を撫でる。
3日ぶりに聞くジュリエット様の声は酷く懐かしく、気がつくと口元に笑みが浮かんでいた。
おそらく今、近くに誰も居ないのだろう。
ジュリエット様の口調が至極リラックスした『わんこ』モードになっていた。
「こんな時間にお電話とは、どうかしましたか? 確か今日は学院主催のパーティーがありますよね?」
『え~と、ね? 実は今、ちょっとだけ時間を持て余していてね? よかったらボクの相手をしてくれると嬉しいなぁ、なんて思っちゃったりして……ダメかな?』
「いいえ、自分でよければいくらでもお付き合いしますよ」
俺の脳裏に上目使いで
お嬢様の『えへへ……ありがとう』と口にする声音が耳に甘い。
あぁ、見える。
俺には見える。
今頃彼女の架空のイヌミミとシッポがピコピコと左右に千切れんばかりに振り切れている光景が。
失礼にも子犬と化したジュリエット様の姿を想像してしまい、思わず苦笑してしまう。
俺はそんな笑みを噛み殺すように、ゆっくりと唇を動かして、
「ところでお嬢様、今の所お体は大丈夫ですか? 世界の命運をかけたラストバトルとかに巻き込まれていませんか? それから――」
『だ、だから大丈夫だってぇ。ロミオくんは心配性だなぁ……』
「当たり前です。自分にとってお嬢様が1番大切なのですから」
『あっ、うぅぅ……。あ、ありがとぅ……』
ジュリエット様の声音が尻すぼみになっていくのと同時に、モジモジと身体を捻る音がスピーカー越しから聞こえてくる。
一体向こうでは何が起きているのだろうか?
そんな事を考えていると、ジュリエット様は何かを思い出したかのように「あっ!」と声をあげ、
『そう言えば、今、
あっ、ヤッベ。
ジュリエット様にこの事を報告するの忘れてたわ!?
本来であればいの一番にお伝えするハズだったのだが、マリアお嬢様が俺の秘密を手に入れた衝撃の方がデカくて、つい忘れてしまっていた。
俺は慌ててその場に正座しながら、誠に申し訳ない雰囲気を全力全開で言葉に乗せてジュリエット様に謝罪した。
「も、申し訳ありません、お嬢様。ここ数日ゴタゴタが続いてしまい連絡が遅くなりました」
身内であろうと桜屋敷に人が入ることを極端に嫌うジュリエット様のコトだ、さぞご
と、お股にローターを仕込んだ女子校生のようにビクビクする俺だったが、予想外にも返って来たジュリエット様の声音は酷く優しいモノだった。
『あぁ、それはいいんだよ、別に。ただボクが心配しているのはロミオくんの方だよ』
「へっ? じ、自分……ですか?」
完全に予期していなかった台詞を前に、絶頂後の女の子のように頭が真っ白になる。
えっ? お、俺ですか?
まさか逆に自分が心配されてしまうとは……でも何で?
別に俺、危険なトコには行ったりしないよ?
自宅警備をしているだけだよ?
お嬢様の言っている意味が分からず、1人「はて?」と首を捻っていると、ジュリエット様が至極心配したような口調でこう言ってきた。
『ほらっ、マリアってあんな性格だからさ。ロミオくんにイジワルをしていないか心配なんだよ』
「あぁ、そういう……。大丈夫ですよ、お嬢様。マリアお嬢様にはよくしてもらっていますから」
むしろ俺の為を思ってキツく稽古をつけてもらっているくらいだ。
ほんと自分のコトもあるのに俺の面倒まで見てくれて……マリアお嬢様はお優しいよなぁ。
と俺が1人ほっこり♪ していると、ジュリエット様が信じられないとばかりに口を開いた。
『ほ、ほんとに? 無理はしてない?』
「無理なんてとんでもない。マリア様はとてもお優しい女の子ですから、一緒に居て楽しいですよ」
『や、優しい!? あ、あのマリアがっ!?』
ありえないっ!? とばかりにギョッ!? としたような反応をしてくるジュリエット様。
そのまま何故か俺を諭すような口調で、
『ロミオくん、今度キチンと安堂主任に頭のメインコンピューターをしっかりとメンテナンスしてもらおうね?』
酷い言いぐさだった。
「お嬢様、別に自分はバグったワケでも壊れたワケでもありませんよ?」
『いや、でもっ!?』
「そりゃ厳しい所もありますが、厳しさは自分に期待してくれているからですよ。ようは愛情の裏返しですね。そう考えたら、いじらしくて愛らしいと思いませんか?」
『う~ん? ただ純粋にロミオくんをイジめたいだけじゃないかなぁ……? あの子、もう心の根っこの部分でイジメっ子体質だし。……うん、騙されてるよロミオくん。はやく目を覚ました方がいいよ?』
う~ん? どうも俺の中のマリア様とお嬢様の中のマリア様とでは抱くイメージに
ジュリエット様は
だから俺は何度だってこう言ってやるのだ。
「ジュリエット様? そのようなコトを言ってはいけませんよ? マリアお嬢様はお優しくて素敵な女性なんですから」
――ガタンッ。
「ん?」
『どうかしたのロミオくん?』
「いえ、今廊下の方から物音がしたような……誰か居るんですか?」
俺はベッドから腰をあげ、スマホ片手に自室のドアの前へと移動した。
現在このお屋敷には俺とマリア様しか居ない。
そしてマリア様がこんな時間に俺の部屋に尋ねてくるなど、まずありえない。
とすれば……考えられるコトはただ1つ!
――俺の童貞という
俺には分かる。
きっと今頃俺のお股にぶら下がっているドラゴ●ボールで
チクショウ、股間にハチャメチャが押し寄せて来やがった!?
「ちょっと待っていてくださいお嬢様。少し確認してきますので」
『う、うん。き、気をつけてね!?』
ジュリエット様のお声を耳にしながら、ゆっくりとドアノブへと手の伸ばし、キキッ! と少しだけ扉を開け、真っ暗になって先が見えない廊下を確認する。
うん、やっぱり誰も無い。
気のせいだった……チクショウ。
と1人ちょっと残念な気分になっていると、スマホのスピーカーからジュリエット様の心配そうなお声が聞こえてきた。
『だ、大丈夫ロミオくん? 何かあった?』
「いえ、単なる自分の気のせいでした。心配をおかけしてしまい申し訳ありません」
『う、ううん。
俺はジュリエット様のお優しいお声を聞きながら、パタンッ! と自室の扉を閉めた。
……その扉の裏側に隠れていた【とあるお嬢様】の存在に気がつかないまま。