――女子校生は全身『卑猥』の塊である。
これは当時6歳だった俺と我が従兄弟、大神金次郎に我が偉大なる叔父、大神士狼さんが語ってくれた数少ない金言の1つだ。
当時の俺たちは叔父の言っていることを理解出来ず、首を捻りながら大神家が誇るビックボスにして金次狼の偉大なるママンこと大神芽衣さんに士狼さんがSMプレイ――もといお仕置きをさせられている光景を震えながら見守っていたが……今なら彼の言いたいことが痛いほど分かる。
女子校生は全身『卑猥』の塊である。
これはどうしようもない世界の真理だと。
そして俺はその真理をより探究するべく、天蓋付きベッドの上でスヤスヤと眠る卑猥の塊、もといマリア・フォン・モンタギュー様へと意識を集中させた。
時刻は午前8時少し過ぎ。
我が
世間一般的に言えば【岡山うらじゃ祭り】並みにハジけにハジけまくっているゴールデンウィーク2日目。
俺は昨日よりこの桜屋敷に期間限定で住みついているマリアお嬢様を起こすべく、彼女が使われている外来客用の個室へと足を運び……そこで奇跡を目撃していた。
「うぅん……」
と、その薔薇の花びらのような唇の端から艶めいた吐息をこぼすマリア様。
そんな彼女のお腹には掛け布団がちょこんと乗っかっているだけであり、マリア様の緩めのホットパンツから伸びる真っ白なしなやかな両足が俺の意識を釘づけにしてやまなかった。
もう、何ていうか……凄いぞ?
今までは諸事情によりジックリ観察することが出来なかったが……コレは俺の想定をはるかに上回る脚線美だ。
胎児のように身体を丸めつつ、俺に背中を向けるような形で気持ち良さそうに眠るマリア様。
そんな彼女の足下には、カーテンの隙間から差し込んだ朝日が御来光のごとく太ももを照り返し、思わずルパンダイブしそうになった。
マリア様はいつもニーソを愛用しているせいか、彼女のソレは雪原のように白く、
しかし何より素晴らしいのは、その腰から太ももにかけてのラインだろう。
先ほども言ったように、彼女は今現在緩めのホットパンツを愛用している。
そのホットパンツが寝ている間にずり上がってしまったらしく……俺の目の前には素敵なワンダーランドが広がっていた。
そうホットパンツがずり上がったせいで、彼女のパステルブルーのパンテェーと太ももの膨らみとはまた違う、別のふわっ♪ とした膨らみが少し顔を覗かせて……ふふっ。
誰が言っていたか忘れたが、太ももとお尻の境界線は曖昧である。
だが今っ! ハッキリとっ! これだけは言えるっ!
おそらく俺は今、境界線上へと立っている! ホライゾォォォォンッ!
「おっとぉ、流石にそろそろ起こさないとマズイか」
かれこれ2時間くらい鑑賞していただろうか?
大きく背伸びをすると身体中からポキポキッ、ボキンッ! と心地よいラップ音が鳴り響いた。
正直、あともう4時間くらいは彼女のおみ足を見守っていたい所だが、そろそろ職務に戻らないと怒られてしまう。
俺は名残惜しさを感じつつも、マリア様を起こすべくゆっくりと、その上向きのぷりぷりヒップへと手を伸ばした。
「左手は……
「ひゃぁぁぁぁぁッッッ!?!?」
シュートのコツを呟きながらマリア様のお尻に指先が触れた。
途端にハリがある癖に柔らかい彼女のお尻に俺の指先が沈み、幸せの感触が指先から脳天直撃セ●サターン。
と、同時に何故か可愛らしい悲鳴をあげながらマリア様がガバッ! と勢いよく身体を跳ね起こした。
「なっ、なっ、なっ、なぁぁ~ッッ!?!?」
掛け布団を胸元で抱きしめながら、瞳を潤ませ口をパクパクさせる彼女に、俺は
「おはようございます、マリアお嬢様。今日もいい朝ですね?」
「なにをするだぁぁぁっ!?!?」
「キャラが変わっていますよ、お嬢様?」
キャラチェンかな?
お嬢様のハートをアンロックかな?
ヤダ、スッゲェしゅごしゅごのキャラキャラじゃん!
と、俺が萌え萌えしていることなぞ「知らん!」と言いたげに、マリア様は威嚇する子犬のようにキャンキャンと声を荒げて見せた。
「今っ! お尻っ! 触った! お前っ!」
「申し訳ありませんマリア様。ムラムラしてやりました、今では
「反省しろバカタレ! あっコラ!? 思い返すでないわ!? 手をニギニギするな!?」
キッ! と俺をキツく睨みつけながら自分の指先をお尻へと這わせるマリアお嬢様。
どうやら朝から絶好調らしい。
俺はすっかり冷たくなってしまった濡れタオルを荒ぶる彼女に渡しながら、ゆったりした動作で頭を下げた。
「それでは自分は朝食の準備に取り
「くぅぅぅぅ~っ!? お、覚えておれよキサマぁ~っ!」
涙目で俺を睨みあげるマリア様をお部屋に残し、俺はさっさとキッチンの方へと移動した。
朝のうちに作っておいたプレーンオムレツに燻製ベーコンを乗せたお皿をレンジで軽くチンっ! しながら、お鍋に入ったコーンポタージュを温め直す。
「止まるんじゃねぇぞ。俺は止まらねぇからよぉ……この台車が止まらねぇ限り!」
某団長のような台詞を残しながら台車を押してキッチンを後にする。
カラカラと車輪の回る音が廊下へと木霊する中、再びマリアお嬢様が滞在しているお部屋への前へとやってくるナイスガイ、俺。
そのまま3度ドアを軽く叩くと、部屋の中から『入れ』と声が聞こえてきた。
短いながらも人に命令を下すことに慣れた王者の口調だった。
俺はやや緊張気味に「失礼します」と声をかけながら、ゆっくりと扉を開いた。
そこには寝巻き姿のままドッシリとソファに身を沈め、コチラを睨みつけているマリアお嬢様のお姿があった。
ふぇぇぇ……視線だけで
「遅いぞっ! モンタギュー家の使用人たるもの、5分以上
「も、申し訳ありません。以後気をつけ――」
「『以後』ではない。今から気をつけるのじゃ!」
「は、はいっ! かしこまりました!」
う~ん、やっぱりジュリエット様の妹だな。
物言いに血を感じてやまないね!
天然バイブモード運転手、田中ちゃん(独身、彼氏ナシ、最近サボテンを育て始めたらしい)の気持ちが痛いほど分かった瞬間だった。
「ほれっ、
「は、はいっ! ただいま!」
慌てて台車から料理が乗ったお皿をマリア様の前に移動させようとして、
「そんな慌てたように動くでないわ。モンタギュー家の使用人たるもの常に優雅であれ!」
「か、かしこまりました!」
「食器を出す時は音を立てるでない! 無音で食事に集中できる環境を作るのも使用人の務めじゃぞ」
「は、はいっ!」
「むっ? おい、皿がぬるいぞ? 料理を盛る際は皿を温めよ、これは使用人としての常識じゃぞ!」
「イエス、ボス!」
「誰がボスじゃ!?」
マリア様は宣言通り、俺に使用人としてのイロハを叩きこむべく、我が一挙手一投足をつぶさに観察し、
その熱の入れようと言ったらもう、キャバ嬢に入れ込む独身男性並みだ。
もはや老害、もしくは
まったく、ここまで俺のために頑張ってくれるだなんて……マリアお嬢様はお優し過ぎるぜ。
俺も彼女の熱意に負けないように、頑張って成長しないとな!
彼女の厳しくも優しい心根に胸を震わせながら、改めて気合を入れ直していた所、俺が料理を覆っている銀の蓋ことクロッシュを持ち上げた瞬間、マリア様が「ん?」とあからさまに眉をしかめた。
「下郎、なんじゃコレは?」
「プレーンオムレツに燻製ベーコン、コーンポタージュにサラダでございます」
「……下郎よ。主がその日ナニを食べたいか察するのも使用人の務めじゃぞ?」
「も、申し訳ありません! すぐ作り直しますね!?」
俺は慌てて持って来ていたケチャップを握り締め、マリア様の前にあるオムレツへとロックオン・ストラトス。
そのままブリュッ! と下品な音を立てながらオムレツの上にケチャップでSDイラストと化したマリアお嬢様を
「よしっ、出来た! それじゃ行きますよマリア様?」
「「美味しくなぁ~れ♪ 美味しくなぁ~れ♪ 萌え☆ 萌え☆ きゅ~ん♪」」
「――って、やかましいわ!?」
「うわっ、ビックリした!?」
俺と一緒に萌え萌えビームをオムレツに向かって放っていたマリア様がウガーッ!? といきなり声を荒げたので、思わずローターをB地区にセットアップされたJKのように身体が震えてしまう。
「ど、どうかしましたかマリア様? あの日ですか?」
「ブチ殺すぞキサマ!?」
特に意味のない殺意が俺を襲う!
「妾はオムレツなんぞ食べる気分じゃないから作り直せと伝えたんじゃ!」
「あっ、そういう……。てっきり【萌え萌えビーム】が足りないんだとばかり思ってました、自分」
「貴様の頭は年中無休でメイド喫茶か!?」
「むっ? お言葉ですがマリアお嬢様、メイド喫茶をバカにしてはいけませんよ? 『女体盛り』『ノーパンしゃぶしゃぶ』に並ぶ日本が生み出した珠玉のエンターテインメント・レストラン、それが『メイド喫茶』です!」
「聞いとらん! そんな説明聞いとらんわ!」
「いいですか? メイド喫茶というモノはですね、メイドさんが股間にオレンジジュースを
「無駄ぁっ!? この時間が丸々無駄ぁっ!?」
いいからさっさと作り直せこの凡作がぁっ! と一際大きい怒声をマリア様にぶつけられ、とりあえずメイド喫茶談義は一旦中止する。
しかし作り直せと言っても、一体何を作ればいいのやら……。
あっ、そういえばさっきマリア様が『主がその日ナニを食べたいか察するのも使用人の務め』とか何とか言ってたっけ?
ということは、つまりマリアお嬢様の表情から今日食べたいモノを当てろっていうコトなのかな?
おいおい? メチャクチャ難題じゃん。
付き合って5年目の彼女に『なんで私が怒っているのか分かる?』って聞かれるくらい難題じゃん。
だがマリアお嬢様も俺のためを思って心を鬼にしてやってくれているのだ。
こんな所で弱音を吐くワケにはいかない。
やってやろうじゃねぇか!
俺は「ふんっ!」と鼻を鳴らしてふんぞり返っているマリアお嬢様のお顔を凝視した。
声音、態度、瞳の潤み方から頬の紅潮、はては仕草といった様子から高度のプロファイリングを開始し――俺は全てを悟った。
なるほど、そういうことか。
「マリア様、すぐにご用意いたしますので少々お待ちください」
「5分以内に持ってくるんじゃぞ? ……まぁ無理じゃろうけどなぁ、ひひっ」
マリアお嬢様が今ナニを食べたいのか瞬時に悟った俺は、何故か粘着質に『にっ……ちゃり♪』とほくそ笑む彼女に一礼して、台車と共に部屋を後にする。
そのまま俺の部屋とキッチンを往復し、3分以内に料理の準備を完了させ再びマリアお嬢様のお部屋へと舞い戻る。
「失礼しますマリア様。朝食の準備が整いました」
「むっ? 思ったより早かったのぅ。最初に言っておくが、ロクでもない料理は妾は食さんぞ?」
そう言ってご機嫌な様子で笑みをこぼすマリア様。
その姿はまるでイジメっ子のようで……おかしいな?
こんなにお優しいマリアお嬢様にそんな印象を受けるだなんて、俺の目は節穴か?
自分自身の感性に驚きつつも、俺はポーカーフェイスのまま台車ごとマリア様の方へと近づいて行く。
そのまま彼女の前にクロッシュで覆われたお皿を用意し準備完了。
「はてさて、どんな料理が出てくることやら」
俺は何故か悪代官のような微笑みを浮かべるマリアお嬢様の目の前で、ゆっくりとクロッシュを取り外した。
そして中から現れたのは、真っ赤なフォルムが目に眩しい長方形の――
「お待たせしました。こちら『オカモトさん家の近藤くん』です」
「いやこれ
マリア様はベテランの二塁間のように日本が世界に誇るオカモトさん家の避妊具(0.01ミリ箱入りサイズ)を盛大に床に叩きつけた。
流れるような床に叩きつけられる近藤くん。
肩で息をするマリア様。
服を脱ぎ始めていた俺。
何とも言えない空気が俺たちの間に流れた。
「
「大事なコトなので2回言ったんですか?」
「せからしかっ!」
「マリア様、キャラが崩壊しておりますよ?」
「誰のせいじゃと思って……っ!?」
マリアお嬢様は今にも俺に襲い掛からんばかりにドM大歓喜の瞳で俺を睨みつけてくる。
あっ!? 『襲い掛かる』って言っても性的な意味の方だからね? ちゃんと勘違いしてよね!
マリア様は淑女らしからぬ大声をあげながら、半分脱げかかっている俺の執事服に視線を寄越し、
「えぇい!? いいからまずは服を着ろ! 覚悟を決めた目をするんじゃない!」
「あれ? 自分を美味しく頂かないのですか?」
「頂かんわ! というか何故食卓に避妊具を出してくる!? 意味が分からんわ!」
「いえ……マリアお嬢様が『主がその日ナニを食べたいか察するのも使用人の務め』とおっしゃったので、自分なりの本日のマリアお嬢様のご様子を観察して適切な食材をお出ししたつもりなんですが……」
「なんでそこで『えっ? 俺ナニかやっちゃいました?』って顔が出来るんじゃ、お前は? いや、いい! 何も言うな! 余計な事は何も口にせず、まずは説明せよ。何故妾の様子を観察した結果、食卓に避妊具が並ぶハメになるんじゃ?」
『説明しろカス』とマリアお嬢様が言外に語ってきたので、俺はしぶしぶ自分のプロファイリング結果を彼女にお伝えした。
「プロファイリングの結果、マリアお嬢様は今、心身ともに『女』を持て余していると判断し、
「どうしたらそういう思考回路になるんじゃ!? ヤバい薬でもキメとるんかキサマは!?」
「で、ですが」
「そもそも避妊具は食材ではないわ!」
「ッ!?」
「『あっ、確かに!』って顔をするな! こんなモノは常識じゃ! あぁ、もうよい! こんな言い争いをした所で時間の無駄じゃ! 大人しくキサマの出した料理を食べてやるわ!」
「かしこまりました。では――」
「服を脱ぐな! 男体盛りの方ではないわ! オムレツの方じゃ!」
マリア様は眉根を吊り上げ、気炎をあげながら乱暴にスプーンを握り締めるなり、俺の用意したプレーンオムレツを「こなくそっ!」と悪態を吐きながら頬張った。
その瞬間、マリアお嬢様の眉根に寄っていた皺が驚きに満ちたモノへと変わった。
「あっ、美味しい……」
「お口に合ったようでなによりです」
「ッ!?」
思わずと言った様子で口を開いたマリア様が、すぐさまハッ!? とした表情へと戻った。
彼女が俺の視線から逃れるようにプレーンオムレツを凝視しながら、また1口頬張って……「むぅ」と小さく唸った。
「ま、まずまずといった所じゃな。とりあえず及第点は出してやろう」
「ありがとうございます、お優しいマリア様」
「……嫌味か、キサマ?」
普通に感謝の意を伝えただけなのに、何故か凄い勢いでマリアお嬢様に
俺がドMなら今頃感謝の言葉を口にしながら膝から崩れ落ちている所だ。
そんなコトを考えている間にもマリア様は、夢中に俺の用意した朝食を
ジュリエットお嬢様のお気に入りの味付けにしたのがよかったのかな?
さすがは姉妹、味覚が似通っていて助かるわ。
「おい下僕よ」
「どうかしましたか、マリア様?」
気がつくとマリア様が何ともバツが悪そうな、苦虫を噛み殺したかのような顔をして俺を見上げていた。
どうしたんだろうか?
愛の告白でもするのだろうか、俺に?
ハッ!? さては食欲が満たされたことで次は性欲を満たそうとっ!?
い、イケませんマリア様!
使用人と主で、そんな昼ドラなんて!?
「……おかわりじゃ」
「はい?」
「だ、だからっ! お、おかわりを持って来いと言っとるんじゃ!」
その頬はこれでもかという位赤く蒸気していて……はっは~ん?
さては惚れたな? 俺(の料理)に!
ふふふっ♪ まったく、好きモノだなぁマリアお嬢様も。
いいぜ? 俺(の料理)ナシでは生きられない身体にしてやるわ!
と内心一人ほくそ笑みながら、笑顔を顔に張りつけ頭を下げた。
「かしこまりました。すぐお持ちしますね」
マリア様はソッポを向きつつも、小さく頷いた。
なんだこの人?
可愛さの擬人化かよ?
こういうあどけない仕草は姉とソックリだな。
俺は思わずほっこりしながら、新しいオムレツを作るべくキッチンへと引き返していくのであった。