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第15話 悪役令嬢は深淵を覗き見る夢を見るか?

 かかったな、バカめ!


 マリアはニッチャリと邪悪に頬を歪めながら、自分の手をとり頭を下げるロミオを満足気に見下ろした。


 頭を下げているから表情はうかがえないが、きっと今頃恥辱ちじょくに顔が歪んでいるに違いない。


 そんなロミオの表情を予想して、余計に気分がよくなるマリア。


 今まで小バカにしてきた小娘に足下をすくわれたのだ。一体どれだけの屈辱がロミオを襲っているのか……考えるだけで頬が緩む。


 だがまだだ。


 まだ足りない。


 自分がこの男に与えられた屈辱は、恥辱はこんなモンじゃない。




(ふふっ、教えてやるぞ愚物よ。どちらが『上』かをな!)




 姉が帰ってくるまでの6日間、必ずこのロミオゲリオンの……いや安堂ロミオの心を踏みにじりグチャグチャにしてやる!


 と、マリアの胸に暗い覚悟の炎が灯った。


 ついでにあの人間嫌いの姉が唯一心を許す存在のこの男を籠絡ろうらくしてみせるのも面白いかもしれない。


 イギリスから帰って来たとき、自分にゾッコンなロミオゲリオン――いや安堂ロミオを前にしたとき、あの人は一体どういう顔をするのだろうか?


 他人のお気に入りのオモチャを奪い取る無邪気な子どものように、マリアは1人ニンマリと笑みを深めた。


 ……だが彼女はまだ知らなかったのだ。




 ――深淵を覗くとき、深淵もまたコチラを覗いているということを。




 彼女がそのコトに気づくまで、残り6日間。


 果たして深淵ロミオを前に、彼女は最後まで『彼女』で居られるのか? それとも……。


 こうして彼女のあずかり知らぬ所で『マリア・フォン・モンタギュー』の『終わりの始まり』が始まったのであった。

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