「あっ、ロミオく――ロミオ。こんな所に居たのか、探したぞ」
無事に執事服を取り戻すことに成功した俺がましろんと共にジュリエット様の居る教室へと続く廊下を歩いていると、曲がり角からジュリエットお嬢様がやってくる姿が目に入った。
いつも通り無表情だが、心なしかどこかホッとしているように見えるのは俺の願望のせいだろう。
ジュリエット様は駆け足で俺のもとまで近づいて来るなり、
「まったく、こんな時間までどこをほっつき歩いていたんだ?」
「申し訳ありません、お嬢様。少々道に迷ってまして」
「まぁ確かに、人としての道に迷ってましたよねセンパ――ロミオさん」
ちょっと?
そんな事を考えていると、ジュリエット様の瞳がようやく我が愛しのプチデビル後輩を捉えた。
「むっ? 何故白雪の姫がここに居る? 君は確かお腹が痛いから保健室に行ったハズじゃなかったか?」
「あぁ、アレは嘘ですよ、嘘。真白もロミオさんが心配でナイショで授業を抜け出して探してたんですよ。ね、ロミオさん?」
「肯定です。白雪様にはここまで道案内をしてもらいました」
「……そうか」
そう言ってどこか
ん? 急に機嫌が悪くなったような……気のせいか?
「別に君の行動をとやかく言うつもりはないが、今は校内に変質者が出没している状況だ。あまりに1人でうろつくのは賢い選択とは言えないな」
「でもジュリエットさんも1人で歩いていたじゃないですか?」
「ぼ、ボクは変質者ごとき返り討ちに出来るからいいんだ!」
「いやぁ、それは多分無理なんじゃないですかねぇ……実力的に」
「むっ? 言っておくが白雪の姫よ。ボクは柔道、空手、柔術、剣道の全てにおいて段位を持っているんだぞ? 変質者程度に遅れはとらんさ」
そう言って胸を張ってみせるジュリエット様。
途端にその豊かな胸が制服を押し上げ……ほほぅ? これは見事なエベレストですなぁ♪
思わず拝みそうになる身体を必死に抑えつけている間に、ましろんはジュリエット様に向かって肩を
「まぁ『普通』の変質者なら遅れはとらないでしょうね。『普通』の変質者なら」
「……なんだその回りくどい言い方は? まるでその変質者が普通じゃないみたいな言い方をして……」
「まぁ相手は『人外』ですからね」
「『人外』? ま、まさかエイリアンでも来ているのか!?」
キラッ! と一瞬だけ期待にお目目を光らせるジュリエット様。
こういうSFチックな話、大好きですもんねお嬢様。
自転車に乗って空飛ぶお話とかすっごい好きですもんね、ETC。……あっ、ソレは高速道路か。
というかましろん? 『人外』って言いながら俺の方を見ないでくんない? すごく不愉快ですわよ?
「それよりも早く教室に戻りませんかジュリエットさん?」
「むぅ……そうだな。そろそろ担任が『海外演習』の話をし始める時間だし、戻った方がいいか」
エイリアンに心惹かれているのか、若干名残惜しそうに踵を返すジュリエット様……って、うん?
あれ? 今なんかスゲェことをサラッと言われたような……?
そう思ったのはどうやら俺だけではないらしく、ましろんも「あの?」とお嬢様に声をかけていた。
「ジュリエットさん? 『海外演習』って何の話ですか?」
「ん? あぁそうか、白雪の姫は転入してきたばかりだから知らないのか」
そう言ってお嬢様は無知なる俺と我が後輩の方へと振り返りながら、
「学校行事の一環だよ。私立セイント女学院イギリス支部へ行って、そこで海外の生徒達と交流し、今の内にパイプを作っておこうっていうイベントさ」
「それはつまり海外……イギリスに行くってことですか?」
そうだ、とジュリエット様は小さく頷いた。
「1年生は秋のシルバーウィークに、3年生は年末年始に。そして2年生はゴールデンウィーク中に海外演習に行く」
「ゴールデンウィークと言いますと……大体1週間後くらいですね」
「そういうワケだから白雪の姫もそのつもりで覚悟しておくことだな」
ほほぅ、海外か……さすがはセレブが集う私立セイント女学院。
もはや旅行でもスケールが違うわ。
それにしても若い女子校生(=発情期)が泊りがけで海外旅行か……おいおいっ!? 大人の階段をホップステップどころかジャンプで一気に上りきる気満々やでぇコイツらぁ!
もちろんそこに若い男なんてアンドロイドの俺しか居ないワケで……ふふっ、参ったなぁ! 俺の身体
よし、今日は帰ったら急いで旅行の準備をしないとね!
何を持って行こうかな!
やっぱりエチケット的にゴムは鉄板だよね!
3ダースくらい持って行こうかな?
「かしこまりましたお嬢様。では自分もイギリスへ行く準備を整えておきますね」
「あっ、いやロミオ」
そう言って今後の予定を高速で組み立てていた俺に、ジュリエットお嬢様は申し訳なさそうにこう言った。
「悪いんだが、ロミオはお留守番だ」
「……はい?」
瞬間、頭の中が白濁液のように真っ白になった。