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第9話 ぽんこつアンドロイドは頼れる後輩の夢を見るか?

『――居たぞ、全裸マンだ!』

『逃がすな、追え! 校内の、いや世界の平和は俺たちの肩にかかっていると思え!』

『佐藤と山田は北側へ迎え、挟み打ちにして確実に仕留めるぞ!』

『『了解!』』




 健闘を祈る! と拳を突き合わせ駆けだして行く2人の黒服の細マッチョたち。


 きっと今の光景を金次狼の妹にして、大神家が誇る発酵の美少女、大神玉藻ちゃんが見たら『ほほぅ?』と邪悪なる笑みをニッチャリ♪ と浮かべ、あの2人に俺のお尻の穴が蹂躙じゅうりんされる様を喜々として想像していたことだろう。


 それどころか『お兄ちゃ~んっ! とうとうロミオ君がお兄ちゃんの子どもを妊娠したよぉ~♪』とワケの分からないことをのたまいながら俺と金次狼の筆跡をいつわって婚姻届を役所に提出しかねない。


 ほんと俺は何度あの腐り姫の脳内で不適切な穴での妊娠、出産を繰り返したのだろうか?


 本当に俺は何度あの腐り姫に『ロミオ君は後ろからお兄ちゃん挿入れて貰わないとイケないトコロテン製造機だもんね!』と笑顔で言われ続けたのだろうか?


 そして何故俺は今、こんなコトを思い返しているのだろうか?


 もしかしてこれが走馬灯というヤツなのだろうか?


 だとしたらあんまりだ!


 もっとマシな走馬灯なかったの? 


 やり直しを要求する!


 と、自分で自分にビックリしながら、背後に忍びよってくる黒服たちから必死に逃げ続けるナイスガイ、俺!




『そこまでだ全裸マン! 諦めて投降しろ!』

「くっそぅ! しつけぇ!? 渋谷のナンパ野郎並みにしつけぇ!」




 校内にしげっている木々の間を縫うように走りながら、なんとか黒服たちを撒こうとするのだが……アイツら全然引き離せないんだよね!


 というか地の利が向こうにある分、徐々に距離を詰められている始末だし……あぁ、もうヤバいヤバい! マジヤバい!?


 そんな慌てる俺にトドメを刺すかの如く前方の方から複数の足音が聞こえてくる。




「あっ、終わった。終わったわ俺」

「――センパイ、こっち!」

「うぉっ!?」




 目の前でマイワイフが親友に寝取られた気分を味わっていると、突然茂みからにゅっ! と小さなお手々が出てきて俺の手首を掴んできた。


 そのままグイッ! と引っ張られ、茂みの方へとルパンダイブ。


 気がつくと俺は何者かに全裸のまま押し倒されていた。




「な、なになにっ!? 逆ハイエース!?」

「シッ、静かに!」

「ッ! ま、ましろ――モガモガッ!?」




 俺の口元を無理やり押さえたのは、そう何を隠そう我が愛しの後輩にして私立セイント女学院2年生、白雪真白たんだった。


 ましろんは瞳だけで『ここは任せてください』と俺にアイコンタクトを飛ばすなり、さっさと自分だけ茂みの外へと出ていってしまう。


 そのタイミングを見計らったかのように、左右から黒服たちの足音が近づいてきた。




『クソッ!? 見失った……どこへ行ったあの全裸マン?』

「どうかしましたか、お兄さん?」

『ッ!? し、白雪様!? 何故ここに!? ここは危険ですから早く教室にお戻りください!』

「すみません、まだ転入して間もなくて道がよく分からなくて……」

『い、いえっ! そ、そうですよね! で、でしたら自分が教室までエスコートしましょうか?』

『た、隊長っ! ここは自分がエスコートしますので、隊長は早くあの全裸マンを!』

『いやいや副隊長、ここは下っ端である僕がっ!』




 自分が自分がっ! 僕が僕がっ! と我先にとましろんをエスコートする権利を主張する黒服たち。


 完全に学院のアイドルとして男達の心を鷲掴みにしていた。


 そう言えばあの警備員のオッチャンもましろんがどうたらとか言っていたし……なんなのあの? 


 まだ編入して2週間ちょっとよ? 


 もう学院をほとんど支配しているじゃないのさ!


 怖い、後輩が怖い! 


 あと怖い、超怖い。


 ガクガクッ!? と震える俺を尻目に、デレデレと鼻の下を伸ばす黒服たち。


 そんな黒服たちを前にプチデビル後輩は微笑みを浮かべたまま、




「ありがとうございます。でも、真白のことは気にしなくていいですよ? もう大体道も分かったので、あとは1人で帰れます。あっ、そう言えばさっきスッポンポンの男性が向こうの方へ走って行きましたが……追わなくていいんですか?」

『で、ですが……』




 と、自分の職務を忘れてなおも食い下がろうとする黒服たち。


 気持ちは分かる。


 ましろんは明後日の方角へ指先を向けながら、黒服たちにニッコリと微笑み、その桜色の唇をゆっくりと動かした。




「真白、お仕事を頑張る大人な男性って素敵だと思うなぁ」

『全裸マンはコッチだ! ついて来い、おまえら!』

『お嬢様の安全はこの藤木タカシが守ってみせる!』

『3度の飯よりお仕事大好き! 小林一郎、いっきまぁぁぁぁすっ!』




 まさに鶴の一声と言わんばかりに、明後日の方向へ走り出す黒服たち。


 何故だろう……今ならあの人たちと親友マブダチになれる気がする。


 そんなコトを考えていると、米粒のように小さくなっていく黒服たちの背をニコニコ見送っていたましろんが「ふぅ……」と脱力したようにため息をこぼした。




「もう大丈夫ですよセンパイ、出て来ても」

「た、助かった。ありがとう、ましろん……いやマジで」

「もうっ! なんでセンパイはいつもいつもトラブルの中心に居るんですか!? 真白が居なかったらホントに危なかったですよ、今の!」




 プンプンッ! と擬音が聞こえてきそうなくらい可愛らしく憤慨ふんがいしてみせる我が後輩。


 本気で怒っている感じではないが、ここはあえて場の空気を和ませるべく、俺も士狼さんにならってこの世における最底辺のギャグをり出すべきか?


 なんてコトを考えていたのが分かったのだろう。ましろんはジロッ! と俺を睨みつけながら、責めるように口を開いた。




「ちゃんと聞いていますか、センパイ?」

「聞いてる、聞いてる! でも今回ばっかりは俺のせいじゃないしなぁ。というか、なんでましろんがココに居るの? 授業は?」

「なんだか嫌な予感がしたんで、授業を抜け出して外に出てみたんですよ。……そしたら案の定でしたよ」




 感謝してくださいよね、とため息混じりにこたえる我が後輩。


 うん、いい塩梅のツンデレだ。


 思わず俺のロミオジュニアもムクムクと……あっ。




「っと、いつ護衛の人たちが戻ってくるか分からないですし、さっさとこの場を移動しましょうかセンパ――ちょっ!? どこ大きくさせてるんですかセンパイ!? というか何で大きくなっているんですかセンパイ!?」

「スマン、どうやら生命のバトンを後世へ受け継がせなければならんという卑猥な強迫観念が我がムスコを突き動かしたらしい」

「いや意味分かりませんよ!? い、いいから早くソレを隠してください!」

「悪いな、ましろん。俺の息子がヤンチャボーイで」

「親が親なら子も子ですねっ!」




 パンパンに膨れ上がった我が息子を前に、ましろんが慌てて目を逸らす。


 もうここまで来たら隠すのもバカらしいので、俺はあえて開き直って堂々と胸を張っていた。


 う~ん、そよ風が気持ちよか♪




「というか、いつまでスッポンポンなんですか!? 早く服を着てください!」

「いやぁ、実は執事服を警備室に置いて来てて……」

「警備室っていうと……」

「校舎の離れにある、ゴリマッチョの棲家すみかのアレだ」

「あぁっ、警備員のごうさんがよく使っているあの場所ですか。分かりました。ならまずはソコへ行って服を回収しましょう」




 真白に着いて来てください、と周りを警戒しながら例の取調室、もとい警備室へと歩き出す我が後輩。


 ほんと頼りになる後輩だぜ!


 俺が女なら今頃お股がビショビショになっている所だ。


 それにしても、あのゴリマッチョな警備員、剛田って言うのか……これからは心の中でジャイアンとでも呼んでおこう。


 我が心の友にそう名付けつつ、俺とましろんはスネークもビックリの隠密おんみつ行動を開始。


 ちなみに安堂家の人間は隠密行動が得意だったりする。


 なんせ我が家のネトゲ中毒者ジャンキーこと安堂あんどう千和ちわママ上が家でゲームをしている際は、



 ① ママンに干渉してはならない。

 ② 自室の近くでは静かに。

 ③ 扉越しで聞こえるような音は立てない。

 ④ 扉が開いている際は隠密行動を基本とし、その存在の全てを秘匿ひとくとせよ。



 という新撰組もビックリの鉄の掟が存在しているおかげが、物音立てずに移動するすべは6歳の頃に獲得えとくしている。


 何ら問題ない。問題なのはウチの家庭だけだ。


 ホントこの話をしたときの士狼さんの同情的な眼差まなざしは今でも忘れられない。


 そんな事を考えている間に、俺の執事服が監禁されているジャイアンの館こと警備室へと到着した。




(行きますよ、センパイ。覚悟はいいですか?)

(問題ない。40秒で支度してやる)




 お互い目だけで会話をしながら、上等! と笑みを浮かべる。


 そして一気に扉を開け――




「イタタ、まったく酷い目にあったわい。でも……ムフフ♪ ええものを見せて貰ぉたなぁ! やっぱりマリアちゃんの身体も実にワシ好み――な、なんや!? 敵襲かっ!? ハッ! 貴様はあの変態こぞ、うっ!?」




 ――部屋の中央でドンッ! と椅子に腰を下ろしていたジャイアンに素早く近づき、顎に1発右フックをお見舞いした。


 そのまま目を見開き、流れるように椅子から崩れ落ちて行くジャイアン。


 完全に意識を飛ばしたのを確認し終え、俺は素早く机の上に置いてあった我が執事服を着直していく。


 パンツは……ビリビリに破けているし、しょうがないノーパンだな。




「うわぁ……。相変わらず腕っぷしだけは強いですね、センパイ。ゴメンね剛田さん? まさか居るとは思わなかったんです。というか躊躇ためらい無さ過ぎでしょセンパイ?」

「ふぅ、やっぱり衣服は最高だよなぁ。人類の進化を感じるぜ!」




 ジャイアンの横で手を合わせるプチデビル後輩を無視してさっさと執事服に着替え終えるナイスタフガイ、俺。


 若干ズボンの下が暴れん坊将軍でチンポジショニングが悪いが、そこは我慢しよう。




「さて、これでパーフェクト・ロミオゲリオンに変身完了したワケだし、そろそろジュリエットお嬢様のもとに戻ろうか。案内ヨロピク、ましろん♪」

「あぁ、結局自分が案内するんですね……。まぁ真白もそろそろ教室に戻らなきゃいけない頃だし、別にいいですけど」




 そう言ってため息をこぼすプチデビル後輩の足元には、ピンク色の謎の棒状の何かが落ちていた。




「それじゃ行きましょうかセンパイ」

「ちょっと待った。忘れ物があったから、先に外に出て待っていてくんない? すぐ終わるから」

「? 別にいいですけど……忘れ物?」




 可愛らしく小首を傾げる我が後輩の背中を押しながら、少し無理やり気味に外へと追いやる。


 いやぁ、さすがにここから先の光景は女の子には見せるワケにはいかないからね!


 ましろんを外へと追いやり、パタンッ! と閉まっていく警備室の扉。


 俺は「ふぅ……」と小さく吐息を溢しながら、必殺的な仕事人の顔へと切り替え、気を失っているジャイアンのもとへときびすを返した。


 そして彼の足下に転がっている例のアレ……我がセキュリティホールを牙突(零式)で開発しようとしたライト性棒セイバ―を拾い上げた。




「一応、念には念を挿入れておかないとな」




 そう独り呟きながら俺は――ジャイアンのセキュリティホールめがけて牙突体勢に突入するのであった。

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