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第7話 ぽんこつアンドロイドは走れメ●スの夢を見るか?

『緊急放送、緊急放送。ただいま学院の敷地内に変質者が出没しております。生徒のみなさんは教室で待機し、先生の指示に従って行動してください。繰り返します、ただいま――』




 バカ広い私立セイント女学院の敷地内を飛ぶように疾走していた俺の鼓膜に、そんな放送が響き渡った。


 が、俺はそんなの関係ねぇ! と言わんばかりに太宰治だざいおさむ先生作『走れメロス』の主人公、メロスのように持てる全てをの力を出しきり、学院敷地内を走る。走る。とにかく走る!


 風を切る肩が寒い。


 ――全裸だからだ!


 心が寒い。


 ――全裸だからだ!


 懐が寒い。


 ――全裸だからだ!


 俺の股間の超電磁砲レールガンが左右に激しく揺れている。


 ――全裸だからだ!


 今日も空が青い。


 ――平和だからだ!




「居たぞ、変態だ!」




 走ることが全てと言わんばかりのマラソンランナーと化していた俺の前に、コピー&ペーストしたような黒服にサングラスの細マッチョ3人が現れる。


 細マッチョの1人が「そこの変態、止まりなさい!」と叫んだ。


 が、俺は変態ではないのでもちろん止まらない。


 グングンと加速していく俺を前に、細マッチョの1人が「チッ」と舌打ちをしながら、突進してくる俺に向かって拳を振り上げた。


 どうやら迎撃げいげきするつもりらしい。上等だ!


 俺も右拳を軽く握り締めながら、前へ躍り出た細マッチョへと狙いを定める。




「止まれ変態!」

「俺は変態じゃない!」




 細マッチョの右拳が何ら躊躇ためらいなく俺の顔面へ繰り出される。


 それに合わせて迫りくる細マッチョの拳めがけて自分の右拳を放った。


 空気を裂く2人の拳。


 ソレがお互いの眼前で衝突する。


 瞬間、小規模なソニックウェーブが生まれ、細マッチョの前髪を、そして俺の股間の暴れん坊を小さく揺らした。




「な、なんだと!?」

「押し通るッ!」




 驚愕に目を見開く細マッチョを渾身の力を込めて吹き飛ばす。


 途端に細マッチョの身体がフワッ! と浮き上がり、後ろに控えていた2人のマッチョのもとへとゴロゴロ転がって行った。


 が、さすがは要人警護のプロと言うべきか、すぐさま立ち上がり、俺の一挙手一投足を全力で警戒していた。




「だ、大丈夫ですか隊長っ!?」

「野郎ぅ~、調子に乗りやがって!」

「待て、勝手に動くな! アイツはタダの変態じゃない……場慣れした変態だ! 迂闊うかつに手を出せばコッチがヤられるぞ!」




 俺の前に躍り出ようとしていたマッチョを先ほどの細マッチョが制止する。


 どうやらさっきの奴がリーダー格らしい。


 隊長マッチョが鋭い目で全裸の俺を射抜きながら、ジリジリと距離を詰めてくる。


 それに合わせて、2人の細マッチョも俺の左右へと展開していった。




「1、2、3人か……。おいおい、さてはおまえら卑怯者だな? こんな幼気いたいけな美少年をよってたかってイジメようだなんて……田舎のお母ちゃんが泣いているぜ?」

「ふっ、なんとでも言うがいい。おまえという邪悪をお嬢様たちの……いや世に解き放つくらいなら、今ここで確実に息の根を止める!」

「悪いね変態。これも仕事なんでね……死んでもらうわ」

「というかコイツ、チ●ポでけぇな!? なんだありゃ棍棒か!? あんなの物理的に挿入はいらねぇだろ!?」

「だから童貞なんだ。よく見ろ、奴の息子を。使い込まれた形跡が一切見当たらねぇ」

「あっ、ほんとだ。新品だ、ピカピカの新品だ! 暴れん坊だがさくらん坊だアイツ!」




 俺の左右の黒服が我がコンプレックスポイントである2代目Jソウルブラザーズを視界に納め、驚愕の声、もとい嘲笑ちょうしょうの声あげていた。



 ――よし、まずはアイツらからろう。



 グッ! と地面を蹴り上げ、右隣の失礼の極みである黒服Cへと急接近する。


 弾丸のように低空姿勢のまま突っ込んでくる俺に黒服Cはギョッ!? とした顔を浮かべるが、すぐさま打ち下ろすように拳を叩きこもうとしてくる。


 俺はそのまま勢いを殺すことなく紙一重で黒服Cの拳を躱しながら、奴の顎めがけてアッパーカットもといロケットパンチを繰り出した。




「こ、コイヅゥゥゥ~~~~~~ッッッ!?!?」




 汚い怨嗟えんさの声を切り裂くように、俺のロケットパンチが黒服Cの顎に炸裂。


 瞬間、黒服Cの身体が浮き上がり、文字通りロケット発射のように綺麗な弧を描き空中を滑空していく。




「ッ! 調子に乗るなよ、この変態がぁ!」




 途端に背後から黒服Bの怒声がビリビリと肌を震わせた。


 振り返るなり、黒服Bの右足が俺の側頭部へと伸びていた。


 黒服Bの「った!」という笑みが網膜に焼き付く。


 もはや避けるヒマもない。


 ならば……迎え撃つまで!


 俺はあえて回避行動を取らず、黒服Bの右足めがけて、思いっきりヘッドバッドを打ち付けていた。




「んなっ!? おまえマジか!?」

「この程度の蹴り……あのオッサンの蹴りに比べたら赤子も同然なんだよぉぉぉぉぉっ!」




 いやマジであのオッサン士狼さんの蹴りは人外だから。


 それを幼少期の頃より喰らっていた俺にとって、黒服Bの放つこんな蹴りなんぞ……稚児ちごにも等しいわ!


 驚愕する黒服Bの足を掴み、思いっきり引いてやる。


 体勢を崩した黒服Bはそのまま後頭部から地面に落ち、俺の目の前で無防備に寝転がった。


 その顔面めがけて右の拳を思いっきり打ち下ろす。


 メキョッ! という嫌な音と共に、肉と骨を切り裂く感触が指先から脳天へと駆け巡る。


 黒服Bは悲鳴すらあげることなく、鼻から血を吹き静かに地面に沈んだ。




「これで邪魔者は静かになった」

「な、なんて拳をしているんだ、お前は……っ!? 変態じゃなくて化け物か!?」

「残るはアンタだけだぜ? 覚悟しろよ? さぁ、タイマンの時間だ」

「……確かにお前は強い、認めよう。だがっ! 勝ったのは私たちだ!」




 そう言って俺から距離を取り不敵に微笑む黒服隊長。


 今さら凄んだって無駄だ、と口を開くよりも早く、俺のロミオイヤーが数人分の足音を捉えた。




『コッチだ! コッチから叫び声が聞こえたぞ!』

『居たぞ、全裸マンだ! 南校舎脇の通路に全裸マンが居るぞ!』

『お、おい佐藤と武藤がヤられてるぞ!?』

『な、なんだと!? あの腕っぷしだけの脳筋2人が!? あの全裸マンがやったのか!?』




 前方から黒服の男たちがコチラに向かって駆け寄ってくる姿が目に入った。


 が、それよりも俺の意識を引いたのは、背後から忍び寄ってくる謎の駆動音だった。


 ウィンウィンウィンウィンッ♪ とまるで機動戦士のような音を立てながら近づいてくる謎の存在。


 気がつくと俺は弾かれたように背後に振り返っていた。


 そこには。




『待てやクソガキぃぃぃぃっ! ワシの菊一文字を忘れとるでぇぇぇぇぇっ!』




 ――そこには野太い怒声を張り上げながら、ライト性棒セイバー―片手に1人だけ警備服に身を包んだゴリマッチョが居た。


 そう、例の警備員のオッチャンだ!


 オッチャンは「忘れ物やぞぉぉぉぉっ!」と男性ホルモンたっぷりの声をあげながら、俺の尻めがけてライト性棒セイバ―の切っ先を向ける。


 しまった!? 


 黒服たちに時間を取られ過ぎたか!?


 こ、このままじゃ不適切な穴で卒業式を迎えてしまう!




「覚悟するのはおまえの方だったな変態」

「くぅっ!?」




 黒服隊長が勝ち誇った笑みを浮かべる。


 前方の細マッチョ、後方のゴリマッチョ。


 捕まれば卒業式。


 もはや迷っている時間はなかった。俺の貞操的に。




「諦めろ変態。おまえはもう、詰んでいる」

「……悪いが俺の辞書に『あきらめる』という文字と『ピーマン』という文字はねぇ」




 瞬間、俺は弾かれたように真横にドンッ! と立っている校舎の壁めがけて駆け出した。


「どこへ行っている? 気でも狂ったか?」と嘲笑する黒服隊長を無視して、私立セイント女学院の3階のとある1室に目をつけた。


 今のこの位置的にあの教室がベストだな。


 俺はすぐさま3階教室の真下へと移動し、




「アイ・キャン……フラァ~イ・ハァァァァァァイッ!」




 と力強く叫びながら――んだ。




「んなっ!? こ、コイツ壁をよじ登って!?」

「待てやクソガキぃぃぃぃぃっっっ!?!?」




 驚愕の声をあげる黒服隊長と、ゴリマッチョの警備員の怒声に背中を押され、蜘蛛のように私立セイント女学院の壁を這い上がって行く。


 そしてそのまま「こんにちはぁぁぁぁぁぁっ!」と声を張りあげながら、全裸で窓ガラスに突貫。




 ガッシャァァァァァァン――パリィィィンッ! 




 と本日2度目となる窓ガラス☆クラッシュだった。 


 粉々に割れた窓ガラスの縁に足をかけ、真下を確認し、警備員のオッチャンたちが追いかけてこないことを確認して、ようやく長い長い吐息を吐いた。




「ふぅぅぅ~……危なかったぁ。どうやらギリギリ不適切な方の穴での卒業式はまぬがれたっぽいな」




 とは言っても、グダグダしてはいられない。


 きっと今頃黒服たちがこの3階教室めがけて走ってきているに違いない。


 あの警備員のオッチャンが来ないうちに、さっさとズラからなければ。


 と、行動方針を決めた俺が前へと視線を切ると、そこには。




「はっ? へっ? げ、下郎げろう……?」




 3階教室の中、そこには――パステルブルーの下着に身を包み、ほうけた顔を浮かべるジュリエット様の妹、マリア・フォン・モンタギュー様が居た。

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