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第6話 ぽんこつアンドロイドはガチムチ警備員に掘られる夢を見るか?

 私立セイント女学院――変態の国ジャパンに住んでいる人間なら、誰しも1回は耳にしたことはあるだろう。


 選ばれたごく一部の富裕ふゆう層の御令嬢しか入学を許されていない、日本有数の、いや世界有数の超お嬢様学校だ。


 私立セイント女学院はここ【おとぎばな市】にある海と隣接しており、街から隔絶された場所にあるため、通学は基本的に自家用車、もしくは自家用ジェット機、もしくは自家用瞬間移動装置でやってこなければまず辿りつけない。


 外界から遮断されたその箱庭は、言ってしまえばお嬢様たちの……いや男たちにとっての楽園だ。


 文字通りここに通うお嬢様たちは純粋培養に育てられており、男というモノをパパ上しか知らない。


 そんな穢れを知らないお嬢様たちを守るためにも、学園側のセキュリティは世界最高峰でなければならない。





 さて、少し話は変わるがこの世の中には『夢のような時間』という比喩ひゆがある。





 実は今現在、俺はその『夢のような時間』という言葉がピッタリな状況に置かれている。


 そりゃ俺のようなカリスマが服を着て歩いているような人間の『夢のような時間』と言えば、可愛い女の子とベッドの上で生まれたままの姿で夜明けのコーヒーをいただくシチュエーション以外ありえないのだが……残念ながら今回は違う。


 そう、夢は夢でも、今俺が置かれている状況は『悪夢』そのモノなのだから。





「――悪いのぅ兄ちゃん。服、脱いでもろぉて?」





 俺はゆっくりと目蓋まぶたを開けた。


 まず目に飛び込んできたのは、ヤリチンパンツことボクサーパンツ一丁のまま冷たいパイプ椅子に座る自分の下半身。


 そしてそんな俺と向かい合うように金属の机を挟んで座っている……ゴリマッチョのオッチャンだ。


 もう今にも気合1つで服が弾け飛びそうなほどパツパツなオッチャンの巨木のような腕には『警備員』と書かれた腕章が巻かれていた。


 一体何をどこでどう間違えたのか、俺はジュリエット様たちと私立セイント女学院に足を踏み入れるなり、どこからともなく現れたこのオッチャンに半ば無理やりこの小屋へと連行させられていた。




「ふむぅ……とりあえず怪しいモノは無い、な。悪いのぅ兄ちゃん。最近はこぉ~んな小っこいクセに高性能なカメラやら折り畳み式のナイフやらがあるさかい、こういうチェックは仕方がないんや」




 兄ちゃんも分かってくれるやろ?


 と、そう俺に微笑みかけながら、筋骨隆々な腕で俺の執事服を弄り回す警備員のオッチャン。


 だからと言って脱衣を求めるのはどうかと思う。


 そういえば脱衣で思い出したんだが、昔、金次郎が小学1年生のとき、我が叔父、大神士狼さんが上半身裸に乳首を両手で隠した『手ブラ』スタイルで授業参観にやってきたことがあったけなぁ……。


 実の息子の学校生活を崩壊させかねない中々のテロリズムを前に、幼き日の俺は他人のフリを決め込むことしか出来なかったっけ。


 あのあと金次狼が『確かに「何もいらない、手ぶらでいい」って言ったけども! ソレがどうやったら半裸で「来ちゃった♪」になるんだよクソがっ!?』と叫んでいたのはイイ思い出だ。


『もう学校に行けねぇよ!? というか町を歩けねぇよ!?』とか頭を抱えて旅立ちの決意を固めだす金次狼が本当に面白くて……学校どころかもはや町の人気者としての貫録が立ちのぼっている有様だった。


 本当にあの時の金次狼の勇姿は、今思い出しても胸が熱くなってくるなぁ。


 と、俺が我が従兄弟からほんの少し勇気をもらっている間に、オッチャンが俺の執事服を机の上に放り投げた。




「さて兄ちゃん、そろそろお互い腹を割って話そうや?」




 そう言って満面の笑みを浮かべるオッチャン。


 だがその視線は伝説のアメリカ最強のスナイパー【ホワイト・フェザー】ことカルロス・ハスコックの現役時代を彷彿とさせる凄まじいモノだった。


 オッチャンの視線に耐えきれず、俺は部屋を見渡すように顔をそむけた。


 今現在俺がパンイチで囚われている場所は、パイプ椅子とデスク、それ以外には何も見当たらない無骨なお部屋だ。


 一応窓があるにはあるが、セイント女学院の校舎がギリギリ見えるか見えないかの瀬戸際で、お世辞にも開放的とは言えない。


 というか、ぶっちゃけほぼ刑事ドラマとかで見る取調室のまんまだ。


 今なら自由を勝ち取るべく心臓を捧げてもいい心持ちだ。




「で、ですから自分は本日よりジュリエット・フォン・モンタギュー様と白雪真白様の付き人として学校に通うことになった高性能アンドロイドのロミオゲリオンですっ!」

「あぁ、はいはい。そんな分かりきった嘘はいらんさかい、はよ本当のことをゲロった方が身のためやで兄ちゃん? 兄ちゃんかて、こんな狭い部屋に居るのは嫌やろ? 大丈夫、悪いようにはせぇへんから」




 まったくもって聞く耳をもってくれないオッチャン。


 こうなったら無理やりにでもここを脱出してみるか?


 俺は背後にあるであろう扉に意識をきながら、今後について思考を巡らす。


 ここに入れられる際、軽く外観を見たが、この小屋は校舎から独立した位置に建設されていた。


 当然、警備室がこんなに狭い小屋1室だけというワケはないだろう。


 おそらくキチンとした警備室は他にあり、そこにはオッチャンと同じくゴリッゴリに仕上がったマッチョ達がひしめき合っているに違いない。


 そんなマッチョたちとパンツ一丁のままランデブーするのはあまりにリスキー過ぎる。


 無理やりの脱出は諦めた方がいいだろう。


 となると、やっぱりこのオッチャンを説得する以外に道はないワケだが……




「ほ、本当ですっ! 自分はジュリエット様の付き人として今日から通うことになっていたアンドロイドなんですっ! 学校側にも申請が通っているハズなので、確認してもらっても構いませんっ!」

「……確かに学校側からはそんな報告は受けとる」

「な、ならっ!」

「せやけどな? 自分、アンドロイドちゃうやろ? どう見ても人間やん? おかしいやん?」

「で、ですから!? 何度も言うように、自分は最新鋭のアンドロイドで見た目も人間そっくりに造られ――」

「嘘はもうええねん。オッチャン、もう分かっとるさかい。兄ちゃん、アレやろ? 白雪真白ちゃんを狙っとる変態さんやろ? そんな格好しとるくらいやしのぅ」

「脱がせたのはアナタですよね?」




 理不尽極めてんのか、このオッサン?


 オッチャンは何故か机の引き出しをゴソゴソ弄りはじめる。




「正直に言うてみぃ、兄ちゃん、あの子を狙うストーカーなんやろ? いや、気持ちは分かるでぇ。あの子は昨今さっこん、中々見ないメチャクチャいい子や。あんなにごっつ可愛いのに偉ぶらんし、家柄も自慢せんし、人を警戒するようなコトもあらへん。毎日こんなオッチャンに気さくに声をかけてくれる、明るくて最高にええ子や。他の生徒は『気持ち悪い』『下心が透けて見える』『野獣のような目をしてる』とかビビって声すらかけてくれへん。いや、それはええねん。ワシは警備員や、人がビビるくらいが丁度ええ。ワシが居ることで、みんなビビってトラブルが起きん、そうれでええ思うとった。せやけど、あの子は違……う、あぁ」




 急に目元を押さえ男泣きを始めるオッチャン。


 こ、怖い。


 色んな意味で怖いんですけど、このマッチョ?




「せやからワシは決めたんや。きっといつかあの子の優しさを勘違いしたバカが現れるに違いないさかい、そのときは全力であの子の力になってやろうって決めとんねん。……そしたら兄ちゃん、アンタの登場や」




 オッチャンは机の引き出しから、スッ! と棒状の何かを取り出した。


 一瞬「ライトセイバーかな?」と思ったが、違う。


 それはライトセイバーにしたら妙に小さく、全身がピンク色の棒状の何かだった。


 さらに言えば先端が妙に膨らんでいて、若干のしなりがあり、ウィンウィン♪ と機械音を発しながら左右に激しく動いていた。


 俺はこれを知っている。


 欲求不満のお姉さまの強い味方にして、大人のサブティカル・エロアイテム。




 ――バイブだった。




 ライトセイバーっていうか、ライト性棒セイバ―だったわ。


 えっ? なんでこのタイミングでそんなモノを取り出すの、このオッサン?


 なんかスゲェ嫌な予感がするんですけど……?


 そんな俺を無視して、オッチャンは自分語りを続ける。




「なんやウチの学院に男が、しかも真白ちゃんに腕までピッタリとくっつかれたまま校庭を闊歩かっぽするクソ野郎がるやんけ。オッチャンな、すぐピンッ! とキタで。『あぁ、コイツは危ない奴や』って。真白ちゃんの優しい心につけこむゲス野郎やってな」

「だ、だからソレは勘違いで……自分は白雪様の付き人――」

「その嘘はもうええねん。兄ちゃんはあの子のストーカー、それでええんや」




 オッチャンはやけに血走った瞳でゆっくりと立ち上がる。


 途端に全身の細胞が一瞬で鳥肌を立て、警戒レベルを最大限マックスまで引き上げる。




「ここは私有地やし、速攻で追い返してもよかったんやが、そうすると学院の敷地外……ワシの目の届かんところで真白ちゃんにちょっかいをかけるかもしれへん。そうなったら大変や。そこでコイツの出番や」




 そう言ってオッチャンはウィンウィン♪ と卑猥な動きをするバイブを軽く振り上げた。


 あぁ……聞きたくないけど、聞かざるを得ない。


 俺は縦横無尽に動き回る大人のサブティカル・エロアイテムを視界に納めながら、オッチャンにおそるおそるというように声をかけた。




「そ、それで一体ナニを……?」

「なぁに、ちょっとあの子に近づくとどれだけ危険かを叩きこむ……いや『ねじ込もう』かと思うてな――その身体に」

「脱出ッ!」




 すかさず俺は弾け飛ぶように出入り口の扉へと駆け出す……が。




「あ、開かねぇっ!? なんで!?」

「ふふふっ……その扉は一度閉まると勝手にロックが掛かるようになっとるんや。扉を開けるにはワシが持っとる鍵が必要不可欠。つまり……逃げられんでぇ?」

「ちょっ、待った待った!? 話し合おう? 1回話し合おう!?」

「あぁ、話し合うで……兄ちゃんの身体となっ!」

「いやぁぁぁぁぁっ!? 犯されるぅぅぅぅぅっ!?!?」

「さぁ尻を出せ兄ちゃんっ!」




 ガチャガチャガチャガチャッ!? と狂ったようにドアを引っ張る。


 が、やはり一向に開く気配がしないぜチクショウッ!


 オッチャンはスッ! と俺のホワイトハウス並みのセキュリティを誇る入れる専用出口めがけて牙突がとつ体勢に突入。


 アカン本気マジだ!? 


 マジでぶち込む気だ、このオッサン!?


『穴・即・斬』のもと、俺のセキュリティホールをガバガバにする気だ!


 やめて、やめて!? 


 牙突はやめて!


 零式はやめて!?




「ふふっ、コレをきっかけにワシは真白たんとより親密な関係になんねん。そして彼女の卒業式の日、ワシの童貞も一緒に卒業――ゲフンゲフンっ! まぁこれはええねん。さぁて兄ちゃん、そんじゃさっそく……開発工事、始めよか?」

「お、おかしいっ! こんなのおかしいよ!? だ、だって俺はちゃんと全部説明したし、持ち物だって言われるがままに……犯罪だ! こんなの犯罪もいい所だ! 警察に訴えてやる!」

「ワシは別に構わんが、兄ちゃんはソレでええんか? ケツにライト性棒セイバ―がぶっ刺さったまま警察に駆け込めるんか? そんな醜態しゅうたいを晒す覚悟が兄ちゃんにはあるか?」




 な、なんという策略! 


 緻密な計算を重ねに重ねた、天才のごとき所業。


 この男に隙はないのか!?


 もはやアンドロイドの仮面を脱ぎ捨て、死にもの狂いでドアを引っ張る俺。


 そんな俺の背後でカツカツと足音を立てながらゆっくりと終わりが近づいてくる。




「ほら兄ちゃん、さっさとパンツを脱いでケツを出しぃや。……なんやその反抗的な目は? 言っとくが兄ちゃんが悪いんやで? ワシに言われた通り正直に全部言って反省せんから、こんなコトになったんやで?」

「……ちなみに俺がオッチャンの予想通りの事を口にして反省していたら、どうなってた?」

「ハハハッ! そりゃもちろん……ケツにライト性棒セイバ―の刑に決まっとるやんけ!」




 何を選んでも、運命みらいは変わらなかった……。


 これがシュタイ●ズ・ゲートの選択なの?


 青い顔を浮かべる俺のパンツに、オッチャンの魔の手が忍び寄る。


 もう迷っている時間はないっ!


 一か八か、勝負するしかない!




「あっ! 白雪真白ちゃんが全裸でラジオ体操してる!」

「なんやと!?」




 オッチャンの視線が食い入るように窓の方へと固定される。


 その隙を縫うように、俺もまっすぐ窓を目指す。


 開けているヒマはない。


 もう突っ込むしかない!


 男の子が突っ込んでいいのは女の子のお股だけとか言っている場合じゃない。


 事は緊急を要するのだ!


 多少パンツが千切れ切れるかもしれないが仕方がない。


 肛門括約筋が切れるよりは万倍マシだ! 


 行くぞ――




「エンダァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!」




 俺はショーシャ●クの空ばりに雄叫びをあげながら窓へと突っ込んだ。


 パリィィィィンッ! と砕け散る窓ガラス。


 ビリビリビリッ! と嫌な音を立て千切れるボクサーパンツ。


 生まれたままの姿で地面に転がる俺。


 そして襲い来る圧倒的なまでの開放感と、『自由』という名の二文字。


 しかしその『自由』も長くは続かなかった。


 ある種限界まで解放されている俺の背後で「待てやクソガキぃぃぃぃっ!」とオッチャンの怒声が肌をビリビリさせる。




 ――止まるな、走れ!




「ガイアが俺に逃げろとささやいている!」




 俺はガイアの声に背中を押されるように、霹靂一閃へきれきいっせんとばかりに大地を蹴り上げた。


 背中から感じるオッチャンの怒気から逃げるように……己のセキュリティホールを守るために!


 俺は自らの未来あすを勝ち取るべく、私立セイント女学院を全裸で全力疾走するのであった。

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