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第3話 ぽんこつアンドロイドは小悪魔後輩とキスをするか?

「――なるほど。真白が部屋で課題と格闘している間に、そんなコトがあったんですね」

「そうなんだよ、ホント今日は色々あって疲れたぁ~」




 ジュリエットお嬢様とマジでキスする5秒前事件を乗り切った、その日の夜。


 時刻はヤリマクリスマスなら性の6時間に突入しているである午後10時少し過ぎ。


 俺は『とある』用件を手伝ってもらうために、ある少女を自室へと招き入れていた。


 そうっ! この桜屋敷において唯一『安堂ロミオ』を知っている存在にして、我が愛しの後輩でもある小悪魔ガール、『ましろん』こと白雪真白たんだ。


 色素の薄い髪に、抱きしめたら柔らかそうなダイナマイトボディー。そして日本有数の華族【白雪家】の御令嬢と、コッチもコッチでかなりのチートスペックを持ったレディなのだ!




「なるほど、なるほど。つまりセンパイは本来の仕事を放棄してジュリエットさんとイチャコラしていただけなのに疲れたと、そういう事なんですね?」

「……何か言葉にトゲがない?」

「べっつにぃ~? ただ自分に告白してきた好意全開の女の子を前に、よくもまぁ別の女の子の話題を口に出来るなぁ~っと思って、感心していただけですよ。ほんとセンパイのメンタルは日本代表ですね?」

「…………」

「ねぇセンパイ、どんな気分なんです? 自分に好意を向けている女の子の前で、別の女の子の惚気話をする気分は?」




 俺のベッドの脇に腰を下ろしているプチデビル後輩が心底楽しそうにクスクス笑う。


 ……のだが、『くぱぁっ!』と瞳孔は完全に開き切っていて、超怖い。


 勝手に呼んでおいてアレだが、もう帰ってほしいくらいだ。


 どことなく責めるような後輩の視線に、お腹がキリキリと痛くなる。生理かな?




「というかセンパイ、ちょっとジュリエットさんと仲良すぎじゃないですか?」

「そ、そりゃ一応俺、ジュリエット様の恋人『役』だし……」

「それにしても仲が良すぎますよ。センパイ、ジュリエットさんに人間であることを隠しているんですよね? だったらもう少し節度をもった付き合い方をするべきだと真白は思います。そもそもセンパイは女の子に対してガードが緩いです!」

「そ、そうか? 別に普通だろ?」

「普通じゃありません、ユルユルです。エロ漫画界の人妻の貞操観念よりユルユルです。いいですか? 日本男児たるもの――」




 ヤッベ。


 変なスイッチが入っちゃったのか、ましろんの奴、お説教モードに突入していやがる。


 しょうがないので、彼女が満足するまで1人で喋らせながら、俺は暇つぶしがてら我が愛すべき後輩の現在のお姿を観察することにした。


 お風呂上りなのか、頭にタオルを巻きつつ、シルクのパジャマを着こんだましろんの肌がほんのり赤くなっていて、妙に色っぽい。


 寝る前とは言え、さすがに男の部屋に無防備で来るというコトも無く、しっかりとブラを装着していた。


 が、彼女は気づいていないのだ。


 シルクのパジャマというものは、下着のラインがくっきりハッキリ現れてしまうということに!


 ほんの少し視線を彼女のお尻の方へ向ければ、魅惑のパンティーラインが俺に手招きしているようではないか。


 まったく、ヘタに下着姿で居るよりもエレガントかつエロティックじゃないか。


 おいおい?『歩くニトログリセリン』と言われている童貞の部屋に下着のラインがくっきりハッキリ浮かび上がるシルクのパジャマでやってくるなんて、地雷原でサッカーをするくらい危険だぜ、ましろん?


 これで襲われても文句は言えないぞ?


 いやまぁ、襲わないけどさ。……今はまだ、ね?




「――だからセンパイはもっとキッチリ女の子との距離間を……センパイ? 真白の話、ちゃんと聞いてます?」

「ッ!? 聞いてた、聞いてた! もうましろんの話しか聞いてなかったわ俺! というかもうましろんの姿しか見えないわ俺!」

「む、ぐぅ……。そ、そういう口説き文句はもっと場の雰囲気を大切にしてから言ってほしいです……」




 怒りのせいか、ほんのり頬を紅潮させながら湿った瞳でジトッと俺を睨んでくる我が後輩。


 なんでこう美人に睨まれると背筋がゾクゾクするのだろうか? 


 まるで中学時代、金次狼の部屋でエロ本パーティーを開催した時のようにドキドキッ!? と胸が高鳴る。


 そんな俺からぷぃっ! とそっぽを向いてしまったプチデビル後輩が、何でもない風にその苺のようなプルプルの唇を動かした。




「それで? こんな時間に真白を呼んで、何か用ですか? ……まさか『ただ惚気話を聞かせたいだけだったんだ♪』とか言いませんよね?」

「ち、違う違うっ!? そんなプレイをするために呼んだワケじゃない! 俺はただ、ましろんにお願いしたいコトがあっただけなんだ! さっきの話はそのお願いをするための前フリみたいなモノなんだっ!」

「ふぅ~ん。まぁその戯言ざれごとを信じてあげますよ……今は。って、真白にお願いですか?」




 スッ! と目を細めていたプチデビル後輩の瞳からけんがとれる。


 俺はその一瞬の隙を縫うように、彼女に言葉を重ねていった。




「そうそうっ。さっきも言ったけどさ、ウチのパパンのせいで女の子をキュンキュン♪ させられる『ベテラン恋人モード』なんていうワケの分からん機能を追加させられたワケじゃん? でも俺、女の子をキュンキュン♪ させる言動っていうか、仕草っていうか……そういう方法を全然知らないワケなのよね、コレが」

「あぁ~、確かに。センパイって狙って女の子をキュンキュンさせるのは下手クソですもんね? 真白に告白してきた時も『今夜はベッドの上で俺と一緒に季節外れの白い花火を打ち上げないかい?』とか『俺専用の雌豚07ホールになってくださいっ!』とか1回どころか5回は殺してやろうか? って本気で悩んじゃうくらい意味の分からない口説き文句を口にしてきますし」

「う、うん。まぁ色々言いたいことはあるが……とりあえず本題を進めるね?」




 何故か恨みがましい視線を送ってくる後輩を無視して、司会進行を続ける。




「だからさ? ましろんには女の子代表として、俺が女の子をキュンキュン♪ させることが出来る言動を教えてほしいワケですよ」

「そういうコトですか」




 ましろんは少しの間だけ顎に手をやり考えるような仕草をとったあと、




「――いいですよ。女の子がキュンキュンする言動を真白が教えてあげますね」




 と、こころよく了承してくれた。




「ありがとう、ましろんっ! もうましろんだけが頼みの綱だったんだよ!」

「いえいえ、困っているセンパイを助けるのは後輩の務めですから」




 なんとまぁ殊勝なコトを……っ!


 俺は先輩想いの素晴らしい後輩を持てて嬉しい――あれ?


 今一瞬、ましろんが凄く悪い顔をしていたような……目の錯覚かな?




「まずはそうですね、ジャブ的な意味をこめて女の子の手をそっと優しく握ってみましょうか」

「そ、そんなっ!? と、年頃の乙女の柔肌を触るだなんて……不潔よ」

「ナニをカマトトをぶってんですか?」




 いいからはよしろ、と自分の隣をポンポン叩きながら目で訴えてくるプチデビル後輩。


 どうやらソコへ座れ、とのことらしい。


 俺は大人しくましろんの隣に腰を下ろすと、彼女の火照った肌から石鹸の匂いが鼻先をくすぐった。


 途端に、普段は感じない『女』を後輩から感じてしまい、心臓が搾乳機さくにゅうきにかけられたように激しく脈打ち始める。




「こ、この程度で赤くならないでくださいよセンパイッ!」

「ば、バカッ! あ、赤くなってねぇし! これはその……あ、アレだよアレ!」

「どれですか!? あぁもうっ! いいから早く手を握ってください!」




 何故か頬の赤いましろんが、やけっぱちな声をあげる。


 そうかすんじゃありませんっ! 童貞の歩みは亀よりも遅いんだから、温かく見守っていてくれよな! お兄さんとの約束だぞ☆


 そんな適当なことを内心つぶやきながら、俺は初めてのエロフィギュアに触る男子中学生のように。そっとプチデビル後輩の手を握りしめた。


 途端にビクッ! とお股に仕込んだローターが突然ONになったように肩を震わせるましろん。




「ちょっ、変なリアクションすんなよ……。は、恥ずかしいだろうが……」

「う、うるさいです……。い、いいから次いきますよ、次っ!」




 お互い耳を澄ませば心臓の鼓動が聞こえそうなほど近い距離で、ギュッ! と手を握る。


 や、ヤバいッ! 


 俺、手汗大丈夫かな?


 気持ち悪いって思われてないかな?


 死んだ方がいいかな?




「そ、それじゃセンパイ。次は真白の耳元にそっと唇を寄せて『今日も可愛いぜ、俺の子猫ちゃん?』ってイケメンボイスでお願いします」

「……なんか言葉ワードチョイス、ダサくない?」

「だ、ダサくないですっ! いいからホラッ、はいGOッ!」




 くし立てるようにましろんが俺をせっつく。


 うぅ……気乗りしないが、仕方ない。


 俺はましろんのお耳をはみはみ出来る距離まで唇を持っていき、




「――今日も可愛いぜ、俺の子猫ちゃん?」

「~~~~っっ!?!? そ、そしたら、そしたらっ! 真白の肩を力強く抱いて、お互い真っ直ぐ見つめ合います!」




 テンションが爆上がりしているプチデビル後輩の指示通り、彼女の華奢きゃしゃな肩をほんのり力をこめて抱いた。


 気のせいか、途端にましろんの瞳がとろんっ❤ としたような気がするが……気のせいだよね?


 俺は妙に熱っぽい視線を向けてくる我が後輩の次の指示を待ちながら、何とか意識を正常に正そうと深呼吸を繰り返す。


 そんな俺の目の前でましろんは『これでトドメだ!』と言わんばかりに、スッ! と目を閉じてこう言った。




「そのまま『愛してるぜ……真白(イケメンボイス)』と甘くささやき、優しく、かつ乱暴に真白の唇を奪うっ!」

「えっ、どっち? 優しいの? 乱暴なの? って、キスっ!?」




 優しくやらしいコトを要求してくる我が後輩に、「それはさすがに……」と尻込みしてしまう。


 モジモジと乙女のように恥らう俺を見て、ましろんはごうを煮やしたかのように唇を動かした。




「あぁもうっ! 普段はアレだけセクハラのジャイロボールを放り込んでくるクセに、どうしていつも肝心な所で『あばばばっ!?』しちゃうんですかセンパイッ!?」

「し、してねぇよ!? 『あばばばっ!?』なんかしてねぇよ! ただ先輩は紳士だからね? そういうコトはもっと段階を踏んでね? 夜景が綺麗なレストランとかでね?」

「このヘタレ! ようは女性経験が無いからガッツキ方が分からず紳士ぶってる童貞ってことでしょっ!? 据え膳喰わぬは男の恥ですよ!?」

「で、でも……恥ずかしい(ポッ)」

「いいから真白の唇を奪えやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」




 ウガーッ! と奇声をあげながら、俺をベッドへと押し倒す我が後輩。


「キャーッ!?」と恋する乙女のような悲鳴をあげる俺を無視して、獣のような危ない光を瞳に宿したましろんが覆いかぶさってくる。


 パサリッ! と彼女の頭を覆っていたタオルが解け、シトラスの爽やかな香りが肺一杯に広がった。




「えっ? あの、ちょっ? ま、ましろん?」

「センパイは黙ってて! ……あとは真白に身を委ねてればいいから」




 ヤダ、かっこいい……。


 俺が女の子なら今頃お股が大雨洪水警報である。


 まぁ残念ながら俺は男の子なの、お股は濡れないんだけどね! ……代わりにバベルの塔が建設しているけれども。


 いやもう……凄いぞ?


 お風呂上りの後輩ですよ?


 シルクパジャマの後輩ですよ?


 そんな彼女の温もりが間近どころか、熱々に火照った肌が俺の肌と吸い付くように密着して何とも気持ちいいし、それにどういうワケか俺に体重を預けているせいで、彼女のお胸のマスクメロンがダイレクトに俺の胸板を押しつぶしてもう……アレだ。


 俺、このあと死ぬんじゃねぇの? ってくらい幸せだ!




「センパイ……目を閉じて?」




 とろんっ❤ と湿った声音が耳に甘い。


 そこには俺の知らない後輩が居た。


『女』の本性を剥き出しにした後輩が居た。




「ま、ましろん……俺は」

「いいから。目、閉じて」




 有無を言わさぬその迫力に、つい素直に目を閉じてしまう。


 白雪家の御令嬢らしく、不思議と人を従わせてしまう力が遺憾なく発揮されていた。


 もはやまともな思考が出来ない。


 ギチギチと理性という名のダムが、本能を抑えきれず嫌な音を立て始める。


 ゆっくりと近づいてくるましろんの唇。


 それと同時に2人の思考回路が獣へと戻っていくのが分かる。


 きっとコレを受け入れてしまえば、後には戻れない。


 もう前の2人のような関係には戻れない。


 それは分かっている……でも。


 今の彼女を拒絶する術を、俺は持っていなかった。




「センパイ……」




 彼女の甘い声音が脳髄を駆け巡る。


 てっきり俺の初めては古き良き日本のSIKITARIシキタリに従って近所の爆乳グラマーなお姉さんに美味しく頂かれるんだとばかり思っていたが……まさか後輩相手といたしてしまうのか?


 そりゃ後輩って『交配』って書くとなんだかエロく見えるし、相手は気心の知れたましろんだ。


 嫌かそうじゃないかで言えば……もちろん嫌じゃない。


 嫌じゃないけど……本当にいいのか?




「それじゃ、いただきます」




 困惑する俺を置いて、ましろんの熱い吐息が肌をむんむんと濡らす。


 そしてプルプルと震える後輩の唇が俺の唇に触れる――



 コンコンッ、ガチャッ。



 ――よりも先に、自室の扉が開く音がした。


 ……ん? 『ガチャッ』?




「こ、こんばんはぁ~。ろ、ロミオくん、まだ起きてる? ちょっと眠れないから、少しだけお話し、よ……えっ?」

「「あっ」」




 俺とましろんが弾かれたように扉に視線を向けると、そこには緩めのホットパンツにTシャツ姿のラフな格好をした我が主、ジュリエット様がたたずんてコチラを見ていた。

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