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第26話 ロミオと制服とジュリエット

 人生というモノはままならないモノである。


 おねショタの魅力に気づいたときには時すでに遅く、もうショタとは呼べない年齢に達していることしかり。貧乳大好きフリスキーだったのに、嫁が妊娠と同時に巨乳化してしてしまうこと然り。


 人生とは常に理不尽の連続であり、失ってから気づく小さな不幸でもあるのだ。


 だが、そんなクソッたれな世の中だからこそ、小さな幸せが輝いて見えるというモノ。


 俺は今まさに、その事を身を持って実感していた。




「――ど、どうかなロミオくん? へ、変じゃない……かな?」




 そう言ってどこか照れたような、それでいてご主人さまに褒めてほしい子犬のような愛らしさで『わんこ』モードのジュリエット様が窺うように俺を見上げてくる。


 時刻は朝の6時少し過ぎ。


 窓の外を見やれば豪華絢爛と言わんばかりに桜の絨毯じゅうたんが広がる4月初頭。


 今日は待ちに待った私立セイント女学院の始業式だ。


 俺はいつもよりほんの少し気持ち早めにジュリエット様を起こすべく、彼女の部屋へと訪れ……そこで幸せを目撃した。




「ひ、久しぶりに学院の制服を着るからかな? ちょっとくすぐったいね?」




 そう言って俺にだけ見せてくれる微笑みを浮かべるジュリエット様。


 だが正直、今の俺はソレどころではなかった。


 ジュリエット様はいつものパンツスーツ……ではなく、女性モノの制服に身を包んでおられるのだ!


 小学生と見間違うほどの背丈のクセに、出るところは出て、引っ込む所は引っ込んでいるグラマラスボディのお嬢さま。


 そんなお嬢様が純白の制服に身を包むもんだから、さぁ大変!


 安産型のお尻が、エベレストを彷彿とさせるパイパイが、今にも制服を弾け飛ばさんばかりに盛り上がっており、不思議な背徳感と合わさってトンデモねぇエロスを生み出していた。


 な、なんだあのお嬢様の企画モノのAVみたいな格好は!?


 アレは本当に制服か!?


 扇情増強装備エロティカル・サブ・アイテムの間違いじゃないのか!?


 そこはかとなく犯罪臭が立ちこめ始めるジュリエットルーム。


 だが俺の目を一番よく惹いたのは、グラビアアイドルの魅力をぎゅ~っ! と閉じ込めたボディでも、洗い立ての太陽のような金色の髪でも、もう数年したら絶世の美少女になるであろう容姿でもない。


 俺の意識をこれでもかと惹きつけたのは、彼女が今何気なく履いている究極扇情増強装備アルティメット・エロティカル・サブ・アイテム――そうパンティ&ストッキング、パンストだ!


 まるで名刀の如く鮮やかに、そして蠱惑的に照り返す淡い光。その濃淡のグラデーションの先にある彼女の雪原のような白い肌。そして無駄をそぎ落とし、あしという魅力のみを抽出することに成功した生地。


 しかもパンストの厚さは俺の好みドストライクの60デニールときたもんだ。


 思わず心の中で「……完璧パーフェクトだ」とつぶやいてしまった程だ。


 さすがはモンタギュー家次期正統後継者、分かっていらっしゃる!


 くぅっ!? お、おかしい……俺はロリコンじゃないハズなのに。な、なんだこの胸の激しくノックする鮮やかなトキメキは!?


 俺がお嬢様の魅力に色んな意味でクラクラしていると、何故かジュリエット様の架空のイヌミミとシッポがシュンと垂れ下がってしまった。




「や、やっぱり変かな? そ、そうだよね……。ボク、同世代のみんなよりも幼児体型だし……ご、ゴメンね? 変なモノ見せちゃって?」

「そんなことありません。お嬢様はもっと自分の魅力を自覚するべきです」




「たはは……」と苦笑を浮かべる我が主を前に、気がつくと俺は食い気味で彼女の魅力を口にし始めていた。




「そのどこまでも澄んだ蒼い瞳。洗い立ての太陽のように眩い金色の髪。メイプルシロップで浸したかのようなプルプルの唇。小さな背に反してのアンバランスな爆乳。今にも折れてしまいそうなほっそりとしたウェスト。男を誘惑してならない安産型の大きなお尻。街中を歩けば100人が、いや1000人が1000人とも振り返るような美貌。それがお嬢様なんです。そんなお嬢様が上品な制服に身を包んでいるワケですから、似合わないワケがない――」

「わ、分かったから! も、もういいから! か、勘弁してください……」




 何故か恥ずかしそうに俺から視線を切り俯いてしまうジュリエット様。


 だが架空のシッポもイヌミミはピコピコと千切れんばかりに振りたくられている。


 どうやらいかに自分の容姿が優れているのか分かっていただけたらしい。


 ロミオ満足です☆




「あ、ありがとうロミオくん。……でもボク、お尻は大きくないからね?」

「いいえお嬢様。お嬢様のお尻は大きいんですよ?」

「お、大きくないよ!? ほ、ホントだよ? ほらっ! ほらっ!」




 スカートの裾をヒラヒラとはためかせながら、クルリッ! と俺に背をむけるジュリエット様。


 そのままドンッ! と形のいい大きなお尻を俺に見せつけるようにフリフリ♪ と左右に揺らしてみせた。




「ねっ? ボクのお尻、大きくないでしょ? ねっ、ねっ!?」




 やたらと必死に「大きくないもん!」と主張するジュリエット様。


 どうやら『お尻が大きい』というのはジュリエット様にとっては禁止ワードらしい。ちぃ、おぼえた!


 それにしても、う~ん……?


 どうしてこう、うら若き乙女が無防備にお尻をフリフリ♪ する姿は男心を激しくくすぐるのだろうか?


 フリフリとお嬢様のお尻が左右に揺れるたびに、彼女のパンストに包まれたふとももがチラッ♪ チラッ♪ と視界に入ってきて俺に健康的なエロスを提供してくれる。


 おいおい、マジかよ? 脱いでもいないのにこのエロさ……どうやらお嬢様はその見た目に反して、男心をくすぐる天才らしい。


 英国紳士も裸足で逃げ出す俺じゃなければ、今頃彼女に向かってルパンダイブをかましている所だ。


 まったく、ジュリエット様は将来どんな偉人になるというのか。


 ちょっと心配だ。




「大きなお尻のお嬢様も、とても魅力的で可愛いですよ?」

「み、魅力的で可愛いっ!? そ、そそ、そんなコトを言ってもボクは騙されないからね! ……えへへ」




 怒っているのか、笑っているのか分からない不思議な表情を浮かべながら、頬に両手を当て、架空のシッポとお尻をいまだにフリフリさせるジュリエット様。


 なっ? ウチのお嬢様、可愛いだろ?


 あれ、俺のご主人様なんだぜ?


 世の男どもに対しての優越感を味わっていると、




 ――コンコンッ。




 とジュリエット様の扉が控えめにノックされた。


 途端にピタリッ! と身体を停止させ、いつもの能面のような無表情へと切り替わるお嬢様。その背後には氷の華が散っているように見えるほどだ。


 あ、相変わらず見事な変わり身の早さだよなぁ……。


 ちょっと精神状態が心配になってくるレベルだ。




「どうぞ」




 一瞬で『わんこ』モードから『鉄仮面』モードへ切り替えたお嬢様の冷たい声音が部屋へと落ちる。


 それを合図に重たそうに扉がゆっくりと開かれ、この桜屋敷のもう1人の住人である我が後輩こと白雪真白がひょっこりと顏だけ扉の隙間から姿を現した。




「ちょっと今いいですかジュリエットさん? って……あっ! センパ――ロミオさんも居たんですね……」

「おはようございます白雪様。今日もお早いお目覚めですね。朝食はもう少し待っていただいてもいいでしょうか?」

「それは別に構わないんですが……むぅ~」




 ましろんはジュリエット様の隣に陣取る俺を視界に入れた瞬間、あからさまにムッ! とした表情になった。


 その瞳にはチロッと嫉妬の炎が見え隠れした気がしたが……藪蛇になりそうだったのであえてスルーしておこう。後が怖いし……。


 そんな湿った視線を俺に向けてくるプチデビル後輩の意識を自分に引っ張るように、ジュリエット様はその淡い唇を動かした。




「どうした白雪の姫よ? 何か困りことか?」

「う、うん。じゃなくて、はい。実は今、学院の制服に袖を通したんですが……ちゃんと着れているのかどうか不安で、それで……」

「なるほど。ボクに確認して欲しいワケか」

「ですです。……お願いできますか?」

「構わないぞ」




 お嬢様が表情の1つも崩すことなくそう口にするや否や、ましろんは「あ、ありがとうございます!」と顏を華やかせながら部屋へと入ってきた。





 その瞬間――俺の目の前に天使が姿を現した。





「ど、どうですかね? 真白の制服、変じゃないですかね? ちゃんと着れてますかね?」




 そう言って数分前のジュリエットお嬢様のように、不安気に自分の制服を見下ろすましろん。


 その姿はなんていうかもう……凄かった。


 俺の幾千万語いくせんまんごの語彙力を総動員させ、今の我が後輩の制服姿を表現するのであれば……凄い。ただそれだけ。


 世の中には『ハンバーガーにポテト』『落ちこぼれにハーレム』『おっさんにJK』『サイコパスに美少女』と適切な組み合わせが存在する。


 そして彼女の色素の薄い髪に女学院の制服は驚くほどマッチしており、その……なんだ?


 控えめに言って結婚したい。


 それがムリなら彼女の制服になりたい。




「こ、これは中々……」




 と、普段表情を崩さないジュリエット様でさえ、ましろんの姿に目を見張るくらいだ。


 昔から彼女を知る俺に襲った衝撃は計り知れないだろう。


 華奢な見た目に反して、制服の上からでもハッキリと分かるほどの巨乳。


 スッ! と通った鼻筋に、プルっ♪ と潤んだ唇。


 もしここに我が偉大なる従兄弟、大神金次狼が居たら『地上に舞い降りたエンジェル……』と一筋の涙を溢しながら、膝から崩れ落ちている所だろう。


 かくいう俺も思わずギー、いやギター片手に「天使に触れたよ☆」と世界に向けてシャウトする所だったわ。




「あぁ~……やっぱり変、ですかね? 真白も自分で着てみて『う~ん?』って首をひねっちゃいましたし……」

「い、いや……よく似合っているぞ白雪の姫よ。なぁロミオ?」

「結婚したい――いえ、お嬢様のおっしゃる通りかと。よくお似合いですよ白雪様」

「そ、そうですかぁ? ならよかった」




 ジュリエット様のお墨付きをいただいたおかげか『はにゃ』と笑みをほころばすましろん。


 このさとい後輩のことだ。俺の考えていることなど、まるっとお見通しなんだろうなぁ。


 ましろんが『どうだ!』と言わんばかりにニヒっ♪ と俺に笑みを向けてくるので、アイコンタクトで『可愛い、抱いて』と返答しておく。


 実際マジで可愛いのだ。


 目をらせば背中に天使の羽根が見えてきそうでなレベルで可愛い。


 あまりの可愛さに思わず「ランドセルのCMかな?」と錯覚しかけた位だ。……ちょっと混乱してるな俺。


 でも俺がこうなってしまうのもしょがない。


 なんせ今のましろんはマジで純粋無垢の権化のように清らかで愛らしいのだから。


 ちなみにどれくらい純粋無垢かと言えば、『頬ずり』は『パイズリ』の親戚だと信じて疑っていなかった幼少期の金次狼くらい純粋無垢だと言えば分かってもらえると思う。




「ロミオさん。真白、可愛いですか?」

「そうですね、控えめに言って『この豚ァッ!』と罵ってもらいたいレベルで可愛いですよ」

「そうですか可愛いですか。ふふんっ♪」

「……むっ」




 何故かジュリエット様に向けて得意げな笑みを送る我が後輩。


 そのどこか勝ち誇った笑みを前に、ジュリエット様の機嫌が悪くなったような気がするが、気のせいだよね?




「コホンッ。もう用は済んだか白雪の姫よ? だったらボクも早く学院に行く準備をしたいんだが?」

「あっ、そうですよね! ごめんなさい、お邪魔しちゃって。それじゃ真白、朝食を食べに行きますね? ロミオさん、お願いできますか?」

「かしこまりました。ではお部屋の方へ持って行かせてもらいます」

「う~ん、どうせなら一緒に行きません? 真白もちょっとキッチンの方に用事があるし」




 どう? とおねだりするような声をあげながら蠱惑的に笑う我が後輩。


 女の子にこんな声をかけられて断れる男が、この世界中に何人居るだろうか?


 俺はほぼ間髪入れずにコクンッ! と頷いていた。




「分かりました。それではキッチンへ参りましょうか」

「ヘヘッ、そうこなくっちゃ! いこいこ、ロミオくん!」

「はい白雪様。それではジュリエット様、自分は朝食の準備へと取りかからせて――」




 いただきます、と我が主の方へ振り返りながらそう口にしようとするが、それよりも早くジュリエット様の愛らしい唇が動いた。




「そ、そう言えばボクもキッチンに用事があったんだった。ど、どうせだし、3人でキッチンへ行くとするか?」




 そう言ってさっさと俺の横を陣取るなり、涼やかな笑みをましろんへと向けるジュリエット様。


 疑問形でありながら、その有無を言わさぬ迫力を前に、俺は借りてきたキャットよろしく「は、はい」と頷くことしかない。


 今日ほど自分が事なかれ主義の日本の民であることを自覚した日はないね!




「……そうですね。じゃあ3人で行きましょうか」




 そう言ってジュリエット様の笑みに微笑みを沿えて頷くましろん。


 だが気のせいだろうか?


 彼女のコメカミに怒りマークが浮いて見えるのは……?


 2人は「うふふ」「あはは」と微笑みをシンクロさせながら、自分の陣地テリトリーを主張する子猫ように俺の腕へと自分の腕を絡ませてきた。


 えっ? なにコレ?


 どういう状況?




「さて、行くぞロミオ」

「『れでぃ~』をエスコートするのも使用人の務めですよ、ロミオさん?」




 そううそぶきながらグイグイと俺を引っ張る御令嬢たち。


 本来ならここで彼女たちをキッチンではなくベッドの方へとエスコート、いやドSコートするのが『ロミオ・アンドウ』スタイルなのだが……なんかもうね? 2人が俺を挟んで張り合っているモノだから、肩身が狭くてそんなコト言ってる場合じゃないのね、コレ。


 だから俺を挟んでバチバチしないで?


 空間を歪ませないで?


 領域展開しないで? 


 特級呪霊か、おまえらは?


 もっと仲良くしてください!


 なんてコトを口に出来るまでもなく、俺は大人しく2人にエスコートされながらキッチンへと向かうのであった。

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