「セン……パイ? えっ? センパイ!? な、なんでセンパイがここに!? というか、何で執事のコスプレをしているんですか!?」
――ザ・ワールド。
我が残念な叔父、大神士狼さんがこういうとき、いつも小声でそう呟いていたっけなぁ。
なんてことを止まりかけた頭の隅で思いつつ、俺はコレ以上ましろんに余計なコトを喋らせないように食い気味で口をひらいた。
「お待ちしておりました白雪様。自分はこの桜屋敷の使用人兼、ご当主様より白雪様の身の周りのお世話を
「へっ? あ、アンドロイド……ロミオゲリオン? いや、センパイですよね? 安堂ロミオセンパイですよね?」
「違います。自分は『汎用ヒト型決戦執事』人造人間ロミオゲリオンです。人間風に紹介するのであれば『汎用ヒト型決戦執事』が名字で、『人造人間』がミドルネーム、そして『ロミオゲリオン』が名前になります」
「そのバカげた言動、絶対にセンパイですよね?」
ましろんが空気も読まずに「なんでここにセンパイが!?」と俺の名前を連呼し続ける。
バカおまえ!?
ジュリエット様に聞かれたらどうすんだ!?
早くその口を閉じろメスブタ!
おっぱい揉むぞ?
そんな俺の不安が的中したのか「アンドウロミオ?」と眉をしかめながらひょっこりと俺の背後からジュリエット様が姿を現した。
「ロミオゲリオンはロミオゲリオンだ。それよりも誰なんだ、その『アンドウロミオ』とか言う人間は?」
「安堂ロミオセンパイは真白の前の学校の先輩で……ってぇ!? うわぁ……だ、誰このお人形さんみたいに可愛い小さなロリっ子は?」
「誰がロリだ、誰が」
「白雪様、この方が桜屋敷の主にしてモンタギュー家の正統後継者であるジュリエット・フォン・モンタギュー様です」
「えっ? ……えっ!? こ、このロリっ子がですか!?」
「ボクはロリじゃない」
今度は別の意味で驚く我が後輩に、食い気味でツッコミを入れるジュリエット様。
いつものように無表情だが、若干不満気に金色の髪をザワザワさせていたジュリエット様に、ましろんは慌てて謝罪の言葉を
「ご、ごめんなさい、つい! えっと……今日からこのお屋敷でお世話になる七海真白――じゃなくて白雪真白です。学年はジュリエットちゃん? さん? と同じで今年から私立セイント女学院の2年生です。よろしくお願いします」
「……ジュリエット・フォン・モンタギューだ。母から話は聞いている――がっ! 同じ屋敷で生活するからと言って、あまり馴れ馴れしくしないでくれたまえ。ボクは君みたいな非常識な人間が大っ嫌いなんだ」
「うぐぅっ!? ほ、本当にごめんなさい……気をつけます」
いつもの日本刀を思わせる鋭い目つきで我が後輩を睨みつけるジュリエット様。
その小さな身体にライオンを彷彿とさせる迫力を前に、さすがのプチデビル後輩もたじたじである。
何とも険悪の雰囲気が屋敷に充満していく中、俺は助け舟を出すべく2人に向かって口を開く――
「それよりも」
よりも早く、ジュリエット様がましろんに対して声をかけた。
「さっき君がロミオゲリオンと間違えて口にした『アンドウロミオ』とは一体誰なんだ?」
「あっ、安堂ロミオセンパイは真白の前の学校の先輩でして――あっ、そうだ! ちょっと待ってくださいね? 今、写真を引っ張り出しますから。え~と……ほらっ、この人です」
「……この男が『アンドウロミオ』? 確かにロミオゲリオンと似ているな」
「似ているというか、本人じゃないんですか?」
ましろんはスマホに映し出した俺の写真(アヘ顔ダブルピース)をジュリエット様に見せつけながら、俺を検分するような瞳で見据えてくる。
一方でジュリエット様は俺とスマホの中の俺を見比べながら、だんだんと眉根を寄せ始める。
あ、アカンッ!?
ただでさえ俺のことを『人間なんじゃないか?』と疑っている彼女に、この写真は決定的な証拠になってしまう!?
ど、どうすればいい!?
どうすればいい、俺!?
と、我が脳内CPUが唸りをあげ――まるで天啓を得たかのようなアイディアが思い浮かぶ。
こ、コレなら何とか誤魔化せるか!?
そう確信すると同時に、ジュリエット様の「ロミオ」という冷たい声音が俺の肌を刺した。
「これは、どういうコトだ? 説明しなさい」
「ピピッ、アカシックレコードに接続――回答
「ロミオのモデル……この男が?」
「肯定。自分は安堂ロミオ様をモデルに作られた最新鋭のアンドロイドです」
「……なるほど、そういうコトか」
ホッとしたような、それでいてどこか残念そうな微笑みを一瞬浮かべるジュリエット様。
たまに思うのだが、俺はもしかしたら演技の天才なのかもしれない。
まったく、自分の才能が恐ろしいぜ。
次回の月9の主演は俺で決まりか?
「センパイのモデルぅ~?」
「どうかしたか白雪の姫君? そんな不可解そうな声を出して? 淑女らしくないぞ?」
「いえ……本当にこの人、アンドロイドなのかなぁ? って思いまして」
納得してくれたジュリエット様とは反対に、未だ疑惑的な視線を投げかけてくる我が後輩、ましろん。
チッ、コレ以上余計な詮索をするんじゃねぇよ!
そのメープルシロップに漬けたようなプルプルの唇を俺の唇で
もちろんディープの方で。
「まぁこんなに精巧に作られたロボットを前にしたら疑うのも無理はないか。ならロミオがいかに高性能なロボであるかを証明してみせよう――ロミオ? 『白雪真白』で検索しなさい」
「かしこまりました」
「はっ? 検索?」
ムカつく表情を浮かべるましろんに向かって、俺はピロートークを展開するナイスガイのように唇を動かした。
「ピピッ、アカシックレコードに接続――情報取得。『白雪真白』、旧姓『七海真白』。知的でクールなナイスガイ『安堂ロミオ』を性的な意味で愛しているムッツリスケベ。上からバスト83、ウェスト54、ヒップ81のEカップ」
「どうだ? ロミオにかかれば君の個人情報なぞ丸裸も同然だぞ?」
「いや、センパイは普通に真白のスリーサイズを知っていますし……これだけじゃ何とも」
「ぎゃ、逆になんでその男は君のスリーサイズを知っているんだ? へ、変態なのか?」
「むっ! センパイは変態ではありません。センパイはド変態なんです! ……というか、やっぱりこのアンドロイド、センパイなんじゃ――」
「ピピッ、追加情報。『白雪真白』様の好物はバニラアイス。お気に入りの入浴剤は『パブめろん苺』、お気に入りの下着の柄はライトグリーン。身長160センチ、体重ろくじゅう――」
「ぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!?!? し、信じるッ! 信じるから! だからソレ以上は口を開くなキサマァァァァァァッッ!?」
「――本日着用している下着はネオンパーブルのローライズである」
「誰が口を開いていいと言った!? というかなんで知ってるの!? なんで知ってるの、ソレ!?」
「ふふんっ。どうだ? ロミオは高性能だろう?」
ジュリエット様が自慢気に鼻を鳴らすが、ましろんには届いていない。
我が後輩は自分の身体を抱きしめるようにして、一気に俺との距離を作り、警戒態勢へと突入した。
うん? なんで後輩の本日の下着の色を知ってるかって?
そりゃもう、ましろんとは1年近い付き合いになるし、こういう勝負の場には必ずネオンパープルの下着で現れるって学生の頃から知ってるのよね、俺。
だからほぼカマをかけるようにして言ったワケだが……どうやら大正解らしい。
まぁあまりにも簡単すぎる問題だったし、スーパーひ●しくん人形をベッドするまでもなかったかな!
「さて、ロミオがアンドロイドであると信じて貰えた所で、さっそく部屋と屋敷の中を案内しよう。ロミオ、彼女の荷物を持って差し上げなさい?」
「かしこまりました」
「…………」
無言で俺を睨み続けるましろんから黒のバックを受け取りつつ、スッ! とジュリエット様の背後に控える。
今日は長い1日になりそうだ……。
そんなことを漠然と頭の隅で考えながら、俺とましろんは桜屋敷の奥へと消えて行くジュリエット様の背中を追いかけるのであった。