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第5話 ロミオと『わんこ』なジュリエット!

 ――ジュリエット・フォン・モンタギュー。


 今日から俺、ロミオゲリオンこと安堂ロミオのご主人様にして、裏で世界を操っているとさせ言われているモンタギュー家の御令嬢である。


 親父の話では幼少期の頃から毒殺・暗殺・誘拐・監禁とピーチな姫も真っ青になるレベルで幾度となく命の危険を経験した結果、人格が天然パーマのごとくねじ曲がり、極度の人間不信になったとのことらしい。


 その結果、見目うるわしい小さな見た目とは裏腹に、切れ味抜群の罵倒に、小動物なら視線だけで殺せそうな殺気、他を寄せ付けない見下すような圧倒的なまでの高圧的な態度に、何を考えているのか分からない強化外骨格のような無表情。


「触るな、危険!」のレッテルを欲しいままにしている悪役令嬢と化してしまった完全無敵のお嬢さま。


 誰にも心を開くことがないので、彼女の笑顔を見た者などこの世に1人も居ないと言われている程だ。


 もちろんそんなお嬢様だから、お屋敷の中には執事はおろかメイドだって1人も居ない。


 大きなお屋敷に1人ぼっち……まるで巨大なおままごとセットに置き忘れられた人形のようだ。


 なんて考えていることがバレたら間違いなく処刑されるので、絶対におくびには出さないが。


 大きなお屋敷に1人ぼっちで寂しくないのだろうか?


 まぁ寂しくないから1人で居るんだろうけどさ。


 俺だったら寂しさのあまり毎日愛しの後輩に電話して慰めてもらうけどなぁ。


 と、話が脱線してしまった。


 つまり俺が言いたいのは、ジュリエット・フォン・モンタギュー様は人を人とも思わない超絶完璧超人の悪役令嬢……のハズなんだけど……。




「ロボくん、ロボくんっ! い、一緒にDVDようよっ! コレね、この間発売された映画版プ●キュアの初回限定盤のヤツでね、なんと声優さんのインタビューも一緒に入っているんだよ! あっ、ロボくんは座ってて! すぐ用意するから!」




 そう言ってニコニコと満面の笑みを浮かべて、プ●キュアのDVDを持ってバカデカいテレビの前へと移動するジュリエット様。


 その足取りは遠足前の小学生のように軽やかで……え~と。


 誰、この人?


 えっ? ほんとジュリエット・フォン・モンタギューさん?


 さっきと性格が180度違いませんか?


 もはや別人と言われた方が納得するレベルで人格が違うんですけど?


 あの硬く、冷たく、触れる者は斬る! と言わんばかりに硬質的な雰囲気から一転、背後に桜の花びらが散っているように錯覚するレベルでおっとりポワポワとした雰囲気を醸し出すジュリエット様。


 いや雰囲気っていうか、もう人格も含めて全部が違うんですけど!?


 どれくらい違うかと言えば、マッチングアプリで20代のピチピチヒップが目を惹く年上グラマーなお姉さんと連絡し、いざ待ち合わせ場所で待機していれば、明らかに40オーバーの名うての熟女マダムが圧倒的な質量をたずさえて登場してきた時くらい違う。


 ほんとあの時は衝撃的だったなぁ……。


 一体人生をドコでどう間違えたら親の年齢よりも年上の熟女とデートするハメになるのだろうか?


 そんなに俺は前世で悪い事をしたのだろうか?


 ちなみにそのマッチングアプリは、熟女の次に俺に『100人切り余裕っすわぁ~♪』と言わんばかりの男性経験3ケタを誇る歩く性病の塊のようなコッテコテな百戦錬磨のヤリマンギャルを紹介してきたから鬼軍曹が如き猛々たけだけしさでアンインストールしてやった。




「そうだっ! 実はさっきクッキーを焼いたんだけどロボくん食べる? ……って、ロボくんクッキーって食べられるの? やっぱり電池とか電流とかそういうのしか受け付けないのかなぁ?」

「……ピピッ、アカシックレコードに接続。――肯定、自分は最新鋭のアンドロイドですので人類の食するモノは大抵いただけます」

「そっかぁ、よかった! ところでさっきから口にしている『アカシックレコード』ってなに?」




 何なんでしょうね?


 俺も適当にソレっぽいことを口にしているだけなので、特に意味はありませんよ?


 ただ、ジュリエット様にこうもキラキラした瞳で見られると俺の中のちっぽけな矜持プライドうずいてしまい……気がつくと勝手に唇が動いていた。




「アカシックレコードとは世界を管理し、全ての真理を統括する扉の名称です。自分はソコに接続することで情報を引き出すことが出来るのです」




 ハハッ、自分で言ってて意味わかんねぇ~♪


 なんだよ真理を統括する扉って?


 おまえはどこの国家錬金術師だよ? 


 おいおい大丈夫か俺?


 さすがにちょっと調子にノリ過ぎたか?


 コレ、絶対にジュリエット様に人間だってバレ――




「すっごぉ~い!? ロボくんってばそんな機能がついているんだね! さすが最新型だぁ!」




 し、信じた……だとっ!?


 おいおい、純粋過ぎるだろこのお嬢様?


 ほんとにコレ、さっきまでの人と同一人物か!?




「じゃあさ、じゃあさ! 人間はなんで簡単に人を騙す邪悪な生き物なのかアカシックレコードに接続して調べてもらえる!?」

「申し訳ありませんお嬢様、ソレは禁則事項です」

「えぇ~っ!? うぅ~、禁則事項ならしょうがないかぁ……あっ、そうだクッキー! すぐクッキー持ってくるからちょっと待っててね?」




 えへへっ、と年相応の少女のようにはにかみながら、トットコハム野郎よろしく部屋を後にするジュリエット様。へけっ☆




「これが親父の言っていたジュリエット・フォン・モンタギューなのか……?」




 だとしたら、二面性が激し過ぎない?


 ちょっと精神構造が心配になるレベルで人格が違うんですけど?


 なんかね、さっきまではね「人でも殺すんじゃねぇの?」ってくらい刺々しい雰囲気だったのに、今はアレだよ? 背景にふわふわと花びらやらが散ってそうなくらいおっとりした雰囲気をまき散らしているんだよ?


 というかね、もうね……目が違うの。


 さっきまでは「絶対コイツ5、6人はぶっ殺したことあるだろう?」っていう薄暗い切れ長の瞳だったのに……2人きりになった途端に「将来の夢はお嫁さん!」と言い出しかねない純粋無垢なドリームガールみたいな目にシフトチェンジしてるんだよ?


 もう一体どんなマジックを使ったワケ?


 というか、ほんとに同一人物なワケ?


 途中どっかで絶対にチェンジしただろう?




「あぁダメだ……昨日から色々あり過ぎて頭が回らねぇから、考えが纏まんねぇや」




 とりあえず、今日は深く考えるのはやめて流れに身を任せてしまおう。


 俺は勝手にそう結論づけながら、改めてジュリエット様の自室と思しきこの部屋を見渡してみた。


 軽く10畳はあるんじゃないかという広さの部屋に、東向きの窓には装飾品が施されたカーテン。


 やけに高い天井には煌びやかな照明が色んな意味で眩しい。


 そして真っ白な絨毯の上には大理石で作ったような大きな机に、俺と親父が座っていたソファと燃え朽ちたソファが机を挟むように2脚置かれている。


 部屋の隅っこには化粧品類やドライヤーが鎮座した大きな化粧台があった。


 そんな立派な化粧台の横には真っ赤なレースの天蓋てんがいつきベッドが置かれていた。


 シワ1つなくベッドメイキングされたソレは、彼女の几帳面さが浮き出ているような気がして、思わずゴクリッ、と喉が鳴った。


 あ、あそこでジュリエット様が毎日寝てるんだよな?


 あの豊満の極みのようなボディを横にして、まるで男を誘うようにカマ~ン♪ と……ハァハァ。


 まったくお嬢様も不用心である。いくらロボットだと信じていても、俺も男の子なのだ。


 俺のようなワイルドな男の子を室内に入れようものなら、自分の下着がどうなってしまうのかくらい簡単に想像出来そうなモノだが……ふふっ、どうやら考えもつかなかったようだな。


 さぁて! ジュリエット様の下着の上で華麗なるバタフライで決めて――いや待て、ロミオ・アンドウよ。よくよく考えるんだ。


 あんな小学生と見間違うほどの小さな女の子――まぁ胸は規格外だが――の下着にまみれてバタフライをかますのは、さすがに犯罪じゃないのか?




「いや、大丈夫だ俺。刑法167条を信じろ!」




 ●刑法第二編 罪 第二十二章 わいせつ、姦淫かんいん及び重婚の罪

(強制わいせつ)第176条

 13歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。




 そう13歳未満であれば同意の上であっても罪だとする法律だ。


 だが逆に言えば13歳以上で同意があれば、それはわいせつに当たらないということ。


 そうっ! ジュリエットお嬢様は見てくれは小学6年生だが中身はピチピチの17歳JKなのだ!


 合法ロリ、そう彼女は合法ロリなのだ!


 これはつまり同意があればジュリエット様にセクハラしてもいいということ!


 そしてジュリエット様はロボットと思い込んでいるとはいえ、男の俺を無防備に部屋に置き去りにして立ち去った。


 これはつまり、見方を変えればジュリエット様から同意を得たと同じことと言えるのではないだろうか!?


 そう、今俺はジュリエット様の下着の上で華麗なるバタフライをかます権利を得たと言っても過言ではないのだ!


 ジュリエット様がこの部屋に戻ってくるまでおそらく残り5分ほど。


 その間に執事服をキャストオフして、ジュリエット様の下着の上でバタフライをかまし、彼女が帰ってくる前に全て片付ければ……よしっ、イケる!


 さぁ、誰も傷つかないホットでタフなパーティーの始まり――




「――お待たせロボくん! 飲み物はミルクティーでも良かった? ……って、何をしてるのロボくん?」

「……いえ、お嬢様が帰ってくるまで直立不動で待機していただけです」

「ハハハッ! 別に座って待ってくれていても良かったんだよ?」




 お盆にクッキーとティーセットを乗せたジュリエット様が微笑を浮かべながら直立不動になっている俺のもとまで近づいてくる。


 あ、危なかった……。


 あと少し帰ってくるのが遅かったら、お嬢様は自分の下着の上で華麗なるバタフライをかましているロミオ・アンドウの姿を目視することになっていただろう。


 そうなれば一生モノのトラウマをジュリエット様に植えつけると共に、俺も親父も仲良く瀬戸内海のお魚さんのエサにされてしまう所だった。


 ふふっ♪ ドキドキさせてくれるじゃないか、お嬢様!




「それにしても、初めてロボくんを見たときはビックリしたなぁ。もう本物の人間そっくりなんだもの!」




 まぁ本物の人間ですからね。


 とはもちろん言えず、かと言って愛想笑いも出来ないので、無表情のままソファに腰を下ろす俺。


 そのすぐ隣でティーセットを机の上に置きながら、小動物のように俺の肩に寄り添いながら同じくソファに腰を下ろすジュリエット様。




「今日からロボくんがボクの恋人役になるんだけどね、正直に言ってね、ボクは別に男の子に慣れるために君を恋人役にするワケじゃないんだよ?」

「そ、それは別の目的があるということでしょうか?」

「えへへ……うん。あっ、コレはみんなにはナイショね? とくにお母様に知られたら後が五月蠅うるさいから」




 俺は「かしこまりました」と頭を下げつつ、彼女の次の言葉を待った。




「ロボくんにはボクに余計な男の子が寄りつかないように恋人役として頑張ってもらおうと思ってるんだ」

「『余計な男の子が寄りつかないように』ということは……つまり自分は男払いの役目を担っているということでしょうか?」

「端的に言うとそういうことだね。ロボくんは知らないとは思うけど、ボクのお家ってそこそこ有名な家らしくてさ、もうひっきりなし縁談の話が舞い込んできて大変なんだよぉ」




 参った参った、と言わんばかりに肩を竦めてみせるジュリエット様。


 俺はそんな彼女の聞き役に徹するべく、黙って相槌を打つロボットへと意識を切り替えた。




「ボクは人間が大っ嫌いだし、ましてや男の子と結婚するなんて反吐が出そうになるくらい嫌なんだけどね? 相手も名家の人間だから縁談を断るにしても何か都合のいい言い訳が必要になってくるんだよ」

「言い訳、ですか?」

「うん。その言い訳にロボくんを使いたいワケ。ようは『将来を誓い合った恋人が居るので』っていう体を利用して縁談を断るんだよ。さいわい君がロボであることはジュリエット家の人間とごく僅かな人たちしか知らない事実だからね。コレを利用する手はないよ! 大丈夫、恋人のフリをするのはボクがモンタギュー家の当主になるまでだから。でもそれまでは悪いんだけど、ロボくんにはボクの恋人役として付き合ってもらうよ?」




 にししっ♪ とイタズラ小僧のように笑う彼女の金色の髪からふわっ♪ と甘い匂いが漂ってきた。


 ちょっとぉ? ジュリエット様からメチャクチャいい匂いがするんですけどぉ?


 俺と親父が彼女の同じジャンプ―、洗剤を100年使い続けようが絶対に漂ってこない甘くて優しい上品な匂いが肺一杯に広がった。


 イカン!? 意識を匂いから別のモノに変えなければ! と慌てて視線を彷徨さまよわせてしまったのが運の尽き。


 ジュリエット様との身長の関係上、彼女を見下ろすような形になってしまい、その……アレだ。


 日本海溝よりも深いジュリエット様の谷間がドアップで視界に飛び込んできたのね。




「? どうしたのロボくん?」

「い、いえ……」




 さすがに「マスターのデカパイを網膜に焼きつけてました♪」などという勇猛ゆうもう果敢かかんな告白は俺にはまだレベルが高すぎる。


 不思議そうに小首を傾げるジュリエット様から逃げるように視線を谷間から外そうとするのだが……ダメだ!? 不思議な力によって視線が谷間に惹きつけられてしまう!?


 こ、これがにゅうトン先生が言っていた『万乳ばんにゅう引力いんりょくの法則』か!


 すげぇぜ乳トン先生! 


 いや凄いの乳トン先生じゃなくてジュリエット様の方か。


 なんだこのグラビアアイドルの魅力をぎゅ~っ! と閉じ込めたような身体は!? 


 反則だろ、あんなの!?


 俺、生まれて初めてロリ巨乳って人を見たわ!


 こんなの女というモノを母親しか知らない童貞たちにはレベルが高すぎて逆に直視できないぞ!?


 何なの、この


 絶対童貞殺すウーマンなの? 


 い、イカンッ! このままではロボットらしく下半身が暴走してしまう!?




「お、お嬢様? ソファも燃えて使い物にならなくなっておりますし、掃除をしてもよろしいでしょうか?」

「ん? 掃除なんていいよぉ、自分でやるし。あの燃え朽ちたソファは明日業者さんを呼んで持って帰って貰うから、そのままでもいいよ」

「そ、そうですか……」

「そうなんです。それよりも! ロボくんの原動力は何なの!? ナニを原動力にしたらそんなに精密な動きが出来るの!? もしかしてゲ●ター線でも使用しているの!? それから、それから――」




 すげぇ聞いてくるじゃん、この……。


 わたし、気になります! と千反田ちたんださん家の好奇心モンスターに負けないくらい、瞳をキラキラさせながら俺に詰め寄ってくるジュリエット様。


 えっ、もしかしてこの質問に全部答えないと今日は眠れないパターンのヤツですか?




「むぅっ! もう聞いているのロボくん!?」

「……はい。聞いております、お嬢様。残念ながら自分はゲッタ●線がエネルげんではありません」

「そっかぁ……残念。じゃあじゃあ! その身体は超合金Zで作られてるの!? あっ、もしかして伝説のオリハルコンとか!? もしくは、もしくは――ッ!?」




 かくして俺のいつわりのロボ生活1日目は、エロ本を吟味ぎんみする童貞の如きアグレッシブさを発揮するご主人様からの質問攻めにより消費されていくのであった。

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