樹は、
(梗一郎さまが俺のことを好きだって……?)
そんな奇跡が起こる筈がない。だって樹は、どう
フッと自嘲気味に笑った樹の顔に影が落ちる。それを
(え……?)
樹が
「そなたが不安に思わなくなるくらい、全身全霊で愛してあげよう。……私の愛しい樹。その美しい肢体で、私がどれだけそなたを愛しているか、身を持って知るといい」
そう言って
「っん、んん……っ!」
唐突な口付けに息苦しくなって無理やり唇を離すと、樹が息を吸ったわずかな歯列の隙間から、薄くて熱い舌が入り込んできた。待ち望んでいた梗一郎の口づけに
熱い呼気を
「梗一郎さま。僕――俺は、早乙女樹じゃありません」
そう言った瞬間、梗一郎の動きがピタリと止まった。しかし梗一郎の表情は動かない。ただひたすらに、樹の瞳を見つめているだけだ。
樹はほんの少しだけ
「……信じられないかもしれませんが、本当なんです。俺は別の世界で死んで、魂だけの存在になって、早乙女さんの身体に憑依しました。だから……今、貴方の目の前にいるのは早乙女樹ではなく……山田樹という別の人間なんです」
「気づいていたよ」
「――え?」
動じること無く言い切った梗一郎を、樹は信じられない思いで見つめた。すると梗一郎は、フッと切なそうに微笑んで、樹の額へ口付けを落とした。
「私は今、私の目の前にいる樹を愛している」
「そ、んな……嘘……だって、」
「嘘じゃない。私の魂にかけて誓おう。
その言葉を聞いた途端、樹の両目から、ポロポロと涙が零れ落ちた。
「う、れしい。嬉しいです、梗一郎さま。俺……俺も、梗一郎さまのことを愛しています」
樹は梗一郎の顔を両手で包み込むと、蕾がほころぶように花笑みを浮かべた。
「梗一郎さま。俺を抱いてください。梗一郎さまのことしか考えられなくなるように……ん、んぅ」
樹の言葉は梗一郎の口の中に吸い込まれていった。
(俺……凄く、幸せだ……)
樹は梗一郎の口づけに翻弄されながら、もっともっとと、梗一郎の首に両腕を回したのだった。