肝試しの出口にたどり着くと、スタッフから派手な袋を手渡された。「お盆の肝試し大会クリア記念!」と大きく書かれている。袋を開けてみると、中にはキーホルダーとポップなデザインのハンカチが入っていた。
「なんだこれ…頑張ったのにこれかよ。」
俺が袋を覗きながらぼやくと、隣で夏菜が肩をすくめた。
「肝試しなんてそんなもんでしょ?でもまぁ、面白かったから良くない?」
そう言いながら、夏菜はキーホルダーを手に取り、クルクルと回して満足げに眺めている。その楽しそうな仕草に、俺が何か言おうとした瞬間、彼女がニヤリと笑った。
「昔と違って悠斗は泣き出さなかったんだし、その成長が見れただけでも良かった良かった。」
「ちょ、その話は!」
慌てて声を上げる俺。隣でフィリアが首をかしげているのが目に入る。やめてくれ、今さらそんな話を蒸し返すなよ。
「昔ってなんですの?」
無邪気に問いかけるフィリア。その純粋な笑顔が逆に鋭い一刺しみたいで、俺は動揺を隠せなかった。
「ほ、ほら、子どもの頃は誰でも泣くもんだって!別に特別なことじゃないから!」
「へぇ~、でも悠斗は大きくなってもまだ怖がってたよね?今日だって、かなり慌てふためいてたし。」
夏菜が容赦なく追い打ちをかけてくる。その一言でフィリアの瞳がさらに興味深そうに輝いた気がするのは気のせいじゃない気がした。
「も、もう帰ろう!」
話題を打ち切るように言い、俺は逃げるようにその場を離れた。
「じゃ、アタシもう帰るね。次は花火大会だよ!浴衣、忘れないでよね~!」
夏菜が軽やかに自転車に乗り込み、手を振りながら夜道に消えていく。街灯の光に照らされたその笑顔が、夏の夜空に溶け込むようだった。
「…さて、俺たちも帰ろうか。」
フィリアに声をかけると、彼女は柔らかな微笑みを浮かべて静かに頷いた。その微笑みに、不思議とさっきの恥ずかしさが少し和らいだ気がした。
銭湯に戻ると、ばあちゃんが番台から顔を出して待っていた。
「おかえり。肝試し、楽しかったかい?」
「楽しかったですわ!」
フィリアが明るい声で答える。その笑顔につられて俺も何か言おうとしたが、何を言えばいいのかわからず、結局曖昧にごまかした。
「う、うん…まぁ、楽しかったよ。」
ばあちゃんは俺をじっと見て、意味ありげな笑みを浮かべた。
「女の子をエスコートできるように、心もきちんと鍛えなさいよ。フィリアちゃんに笑われないようにね。」
「そ、そんなことないですの!ユウトさん、い、いつも頼りになる御方ですわ!」
フィリアが慌ててフォローしてくれる。その言葉に少し胸が温かくなったものの、ばあちゃんの一言が図星すぎて何も言い返せなかった。
ばあちゃんの笑い声が、夏の夜に心地よく響いていた。その笑い声を聞きながら、俺は次の花火大会に向けて少し複雑な気持ちを抱えながらも、どこかほんのり温かい気持ちを胸に抱いて、その場を後にした。