フィリアが元の世界に戻る準備について話しながら銭湯に戻ると、ばあちゃんが柔らかな笑顔で「さっきはついてきてくれて、ありがとうね」とお礼を言ってくれた。その言葉に少しほっとしたところで、ばあちゃんがふと思い出したように口を開いた。
「そうそう、お墓に行って思い出したんだけどね。明日の夜、お盆の肝試し大会があるみたいだから、せっかくだし行ってきたらどうだい?夕方だけ番台に出てくれたら、あとは私が代わってあげるから。」
肝試しか──その言葉に反応してしまう。フィリアに日本の文化を体験してもらうには絶好の機会だ。でも、「私が代わってあげる」というばあちゃんの言葉で、花火大会の夜の予定をまだ調整していないことを思い出した。
「ばあちゃん、最近ずっと夜の時間を任せっぱなしで悪いんだけど…次の日曜日の夜、夕方が終わったら花火大会に行ってもいいかな?」
俺が尋ねると、ばあちゃんはけろっと笑って返してきた。
「そんなの、許可なんていらないよ。夏の花火大会に孫を行かせない祖母なんているもんかい。ちゃんと予定は空けてあるから、フィリアちゃんと楽しんできなさい。」
その言葉を聞いて少し安心したけど、内心で(夏菜も、なんだけどな…)と少し引っかかった。でも、ややこしくなりそうなので黙っておくことにした。
そのとき、隣で話を聞いていたフィリアが首をかしげ、不思議そうに口を開いた。
「肝試しって…何ですの?」
俺が説明しようとした瞬間、ばあちゃんが先に口を挟んだ。
「肝試しってのはね、夜の暗闇を歩いて、いろんな仕掛けや脅かしに耐えながら進む遊びだよ。日本のお盆には、昔から怖い話とか幽霊の話が付き物でね、そこから生まれた風習なんだ。」
フィリアは目を見開いて、興味津々といった様子で頷く。
「この世界…いえ、この日本にもゴーストがいらっしゃるのですね。それを遊戯に使っていらっしゃるとは、なんて斬新なのでしょう!わ、私もそのゴーストを操る術式とやらを学んでみたいですわ!」
その言葉にばあちゃんは肩をすくめて笑いながら、俺に目配せをしてきた。
「私にはよくわからないけど、フィリアちゃんが日本の文化を楽しんでくれるなら、連れていってあげたらどうだい?」
こうして、半ば強制的に明日の肝試し参加が決まってしまった。
「明日の夜、自分の心臓は持つだろうか…」
そんな不安が胸をよぎる。肝試しが得意でもない俺がフィリアと行くなんて、すでに結果は見えている気がする。それに、あんなにわくわくした顔をしているフィリアだけど、本当に大丈夫なのか?
俺はその光景を想像しながら、思わず溜め息をついた。これが楽しい夜になるのか、それとも試練の夜になるのか──それは明日次第だ。