墓場から銭湯への帰り道、俺はばあちゃんに「先に帰ってて」と伝えた。「ちょっと暑いし、フィリアにお茶を飲んで涼んでもらおうと思ってさ」と適当に言い訳をしたけれど、本当の理由は言えなかった。これでフィリアと二人きりで話す時間ができた。
しばらく無言で歩いていると、俺は意を決して口を開いた。
「フィリア、帰るために必要なもの、全部教えてくれ。何でもいいから、できるだけ早く準備したい。」
「そ、それは…ええ、もちろんですわ。」
フィリアは少し驚いたように目を見開いたが、すぐに頷いてくれた。その素直な反応にほっとする一方で、胸が少し高鳴るのを感じた。
「ただ、実は、そんなに大きな準備はいりませんの。でも…ユウトさんのお気遣いがとっても嬉しいですわ。」
彼女は照れたように顔を赤らめ、視線を下に落とした。その控えめな仕草に、なんとなくドキッとしてしまった俺は思わず目を逸らしてしまう。
「そ、そうなんだ。具体的にどんなことをすればいい?」
気を取り直しながら尋ねると、フィリアは少しだけ考えてから答えた。
「召喚魔法陣と、マナが詰まった触媒ですわ。」
その異世界感満載の単語に、俺は「おお…」とつい呟いてしまった。
「触媒…?」
どこかで聞いたことのある言葉だったけど、この世界とあの世界でどう繋がってるのか、想像もつかない。
「ええ、この世界ではマナの気配がほとんどありませんの。でも、私のマナをこうやって込めれば問題ありませんの。」
そう言いながら、フィリアは両手を広げ、小さな光をふわりと灯した。その光景があまりに幻想的で、俺はつい見とれてしまった。
「準備するには、マナを込めたものを魔法陣の形に配置する必要がありますの。」
真剣に説明を続けるフィリア。その姿に俺も自然と身を乗り出して聞いてしまう。
「何がいいんだろう…フィリア、それって何でもいいのか?」
問いかけると、フィリアは少し考え込んでから静かに答えた。
「葉っぱなんかにも込められますけど、風で吹き飛んでしまいますわね。ですので、小さな石に一つ一つマナを込め、それを魔法陣の形に並べていこうと思いますの。」
「その魔法陣って、どれくらいの大きさなんだ?」
恐る恐る聞くと、フィリアは両手を広げて「これぐらいですわね」と示した。その大きさに俺は思わず息をのんだ。
「そ、そんなに大きいのか…。でも、家にも庭にもそんなにたくさんの石はないな…。」
頭を抱える俺を見て、フィリアは少ししょんぼりとした様子で言った。
「そういえば確かに、小石はあまり見かけておりませんわ…私の元いた場所は森の中でしたので、石はいつでもどこでも集められたのですが、この世界ではそうではないのですね…。」
その言葉に、俺はふと近くの場所を思い出した。石がたくさんあるところ──あそこしかない。
「よし、次の定休日、石を集めに行こう。いい場所があるんだ。」
「はい!よろしくお願いいたしますわ。」
フィリアが嬉しそうに微笑む。その笑顔を見ていると、肩の力がすっと抜けた気がした。
フィリアを無事に送り出すために、準備は万全にしなければならない。俺たちは静かに銭湯に向かいながら、次の計画に思いを馳せた。