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(70)エルフとじいちゃん

夏菜から「浴衣で花火大会に来てね」とメッセージが飛んできたのもあって、その夜、俺はばあちゃんに浴衣のことを相談してみた。小さい頃に着せてもらった記憶はあるけど、今のサイズに合うものが残っているとは思えない。半ば期待せずに尋ねた俺に、ばあちゃんは「ちょっと待ってな」と言って、古びたタンスを開けた。


「これ、じいちゃんが若い頃に着てた浴衣だよ。あんたが着たら、天国のじいちゃんもきっと喜ぶと思うよ。」

そう微笑みながら取り出してくれた浴衣は、少し色褪せているけど、しっかりした生地で丁寧に手入れされているのがわかる。


試しに袖を通してみると、ピッタリというわけではないけど、思ったよりもしっくりきた。帯を締めて鏡を覗き込むと、じいちゃんが大切にしてたんだろうなって気持ちがじんわり伝わってきた。


ふと横を見ると、いつの間にかフィリアが立っていて、俺をじっと見つめていた。


「に、似合っていますわ…。」

少し顔を赤らめながら、ぽつりと呟くフィリア。その言葉に俺の方が照れてしまい、思わず鏡の中の自分に視線を戻した。


「うんうん、若い頃のあの人そっくりだよ!」

ばあちゃんが目を細めて、じいちゃんを思い出すように懐かしそうに笑う。その空気に、俺もなんだかくすぐったい気持ちになった。


そんな中、ばあちゃんがふと思い出したように口を開く。

「そういえば、お盆だから、ちゃんとお墓参りに行かないとね。明日の朝、フィリアちゃんも一緒に来てくれる?」


突然の誘いにフィリアは首をかしげ、小さな声で尋ねた。

「お墓参り…とは、何ですの?」


その質問に、ばあちゃんは穏やかに微笑みながら答える。

「お墓参りっていうのはね、亡くなった家族やご先祖様に感謝したり、元気にしてますって報告しに行くことなのよ。」


「そうそう、お盆って、この世とあの世が近づく時期って言われてて、ご先祖様が帰ってくるとも言われてるんだ。」

俺も少し得意げに口を挟むと、フィリアは目を丸くして頷いた。


「まあ、本当に帰ってくるかどうかは別だけどさ。でも、お墓をきれいに掃除して、お花やお線香を供えるのは、大事なことだと思う。」

俺が言うと、フィリアは少し考え込むように口元に指を当てる。


「それは、とても素敵な文化ですわね…。亡くなった方への感謝を表すなんて…。エルフ族は長命ですので、そういった習慣はございませんの。」

どこか遠くを見つめるような目で静かに言うフィリア。その表情が何だか印象的だった。


「よかったら明日一緒に行ってみようか。何か感じるものがあるかもしれないし。」

俺が軽く促すと、フィリアは少し照れたように微笑んで頷いた。


「はい、ぜひお供させていただきますわ。お墓参りというものが、どのようなものなのか学んでみたいですの。」


「じゃあ、決まりだね。」

ばあちゃんが嬉しそうに言って、話はまとまった。


そのやり取りの中、フィリアの表情にはどこか神妙なものが浮かんでいて、俺は明日が少し特別な日になるような予感を抱いていた。

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