スマホから突然、夏菜の声が響いた瞬間、俺は思わず肩をビクッとさせた。画面を覗くと、小首をかしげた夏菜の姿が映っている。

夏用のパジャマは白地に小花柄が散りばめられていて、袖口とショートパンツの裾にはふんわりしたフリル。肩までの髪は無造作に下ろされてて、軽く跳ねた毛先が夏菜の天真爛漫さを際立たせている。背景には大小さまざまなクッションやぬいぐるみが並び、完全に「夏菜ワールド」全開だった。

「悠斗、どうしたの？突然通話なんて。え、フィリアちゃん？どういうこと？」

夏菜は画面越しにフィリアを見つめながら、首を傾げる。その仕草が自然すぎて、なんかこっちが見てるのが恥ずかしくなるくらいだ。

「えっ、これ…カナさんですの？」

フィリアは驚いたようにスマホを持ち上げ、画面に向かって真剣に話しかける。その真面目さが妙にツボに入って、笑いそうになるのを堪えるのに必死だった。

「そうだよ～！フィリアちゃん、こんばんは！」

夏菜が元気よく挨拶すると、フィリアはさらに目を丸くして「こ、こんばんは…」と小さな声で返す。

「あの…どうやってこの中にいらっしゃるのですか？」

フィリアの純粋すぎる質問に、夏菜は一瞬ポカンとした後、吹き出すように笑い始めた。

「中にいるわけないでしょ！これはカメラで映してるだけだよ！」

夏菜がケラケラ笑いながら説明するのを見ても、フィリアはまだ半信半疑でスマホを凝視している。その様子があまりにも真剣で、俺は苦笑いしながらフォローを入れた。

「ほら、映像を送ってるだけだから。夏菜がスマホの中に住んでるわけじゃないって。」

ようやく納得したらしいフィリアは、顔を赤くしながら「失礼しました…」と小さく頭を下げる。その控えめすぎる態度に、夏菜がすかさずニヤリと笑みを浮かべた。

「もしかして、フィリアちゃんって箱入り娘でスマホ触ったことないんじゃない？」

その言葉にフィリアの顔が真っ赤になり、視線がキョロキョロと泳ぐ。

「そ、それは…」

「あ～やっぱり！スマホに慣れてない感じ、めっちゃ可愛い！」

夏菜が楽しそうに追い打ちをかけると、フィリアはますます赤くなってモジモジし始めた。その様子が面白すぎて、俺は二人のやり取りを黙って見守ることしかできなかった。

すると、フィリアが急に思い出したように深々と頭を下げた。

「カナさん…海辺では楽しい時間をありがとうございました。私にとって、とても大切な思い出になりましたわ。」

その真っ直ぐな感謝の言葉に、夏菜は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに優しい笑顔を浮かべた。

「こちらこそ楽しかったよ！次の花火大会も絶対楽しもうね！」

夏菜の明るい声に、フィリアも笑顔で「は、はい！」と元気よく返事をした。その微笑ましいやり取りを見て、俺もつられて笑いそうになった──けど、同時に胸の奥に小さな焦りが芽生えていた。このまま会話が続けば、フィリアがスマホどころかこの世界の常識をあまり知らないことがバレるかもしれない。そうなったら、夏菜にどれだけイジられるか分かったもんじゃない。

「そ、そろそろ通話切らないと遅くなるだろ！」

焦りながらスマホを手に取ろうとしたその瞬間、夏菜が画面越しにフィリアの横を指差した。

「ん？フィリアちゃんの隣に布団がもう一つ…え、まさか…！」

夏菜の顔がみるみる変わっていく。最初は冗談めいた笑顔だったのに、次第に真剣な表情に変わり、その鋭い視線が画面越しに突き刺さる。

「ちょ、ちょっと待て！違うって！」

俺は慌てて否定しようとするが、夏菜の探偵みたいな視線が、逃げ場を完全に封じてくる。

…これは、本当に面倒なことになりそうだ。