ばあちゃんに背中を押してもらったその夜、これから自分は何に挑戦すべきなんだろうなんて、ちょっと真面目に考えながら布団でゴロゴロしていたら、スマホが小さく震えた。画面を見ると、夏菜からのメッセージ通知。そこに表示されていたのは、犬小屋からひょっこり顔を出しているチワワのスタンプ。
「なんだこれ…」
眉をひそめながら、夏菜の「既読スルー禁止ルール」を思い出す。これを無視すると後が怖い。仕方なく「どうした?」と返信を打つ。
隣を見ると、フィリアが布団に横になりながら本を読んでいた。月明かりが彼女の横顔を優しく照らしていて、その穏やかな表情につい目を引かれる。けれど、こうして見ているのがバレたらまた変なことを言われそうで、慌ててスマホに視線を戻した。
少しして、次に届いたのは花火のスタンプ。
「あああああ…そうだった!」
スマホを握りしめながら、やっと思い出した。花火大会、一緒に行く約束をしてたんだった。
でも、送られてくるのはスタンプだけで、待ち合わせの場所や時間なんて一言も書いてない。つまり、「あとは全部お前が考えろ」ってことだよな…。
「ったく、ほんと手のかかるやつだな。」
苦笑いしながら、花火大会の日程をスマホで調べる。ところが、その日は銭湯の営業日。前に盆踊りに行ったときと同じで、ばあちゃんに夜の7時から番台を代わってもらわないと無理っぽい。
「ばあちゃんと相談して、明日返事するよ」
そうメッセージを送ると、すぐに返事が届いた。画面には、白ひげがふさふさのゴールデンレトリバーが「ウムウム」と頷いているスタンプ。
「…完全に満足してるな」
肩の力を抜いてスマホを置き、一息ついた。でも、ふと歯磨きを忘れていたことを思い出して洗面台に向かうことに。
部屋に戻ると、フィリアが俺のスマホを手に取ってじっと画面を見ているのが目に入った。彼女の真剣な横顔に、思わず足を止める。
「フィリア…何してんだ?」
俺の声に驚いたフィリアが顔を上げる。目をぱちくりさせながら、少し得意げにスマホを掲げた。
「ユウトさん、この絵がたくさん動いて面白いですわ!指で触れると、次々と違う絵に変わりますの!」
満面の笑みでスマホを見せてくるフィリア。画面には夏菜が送ってきたスタンプがずらりと並んでいて、彼女はそれをひたすらタップしていた。
「ああ、それはスタンプって言って…」
俺が説明しようとした瞬間、スマホが再び震えた。そして次の瞬間、スピーカーから夏菜の声が響き渡る。
「悠斗、どうしたの?急に通話なんて。」
その声に俺はぎょっとしてスマホを見直す。どうやらフィリアがどこかのボタンを押して、誤って夏菜に通話を繋げてしまったらしい。
これは、ちょっと、一波乱ありそうだ。