フィリアが帰るまで、あと17日。日曜日の昼前、銀さんが教えてくれたグルメフェスの会場は、幸いにも近くの公園だった。近いなら楽勝だろうと思って軽い気持ちで出かけたが、夏の日差しは想像以上に厳しく、炎天下の中を10分ほど歩くだけで汗がじわりと滲む。
ようやく公園の入り口にたどり着くと、そこには金髪にシルバーアクセサリーをキラリと光らせた銀さんが、アロハシャツ姿で立っていた。まるで南国の観光ガイドみたいだ。俺に気づくと、銀さんは手を大きく振りながら近づいてきた。
「おう、来たな!待っとったで!」その朗らかな声に、俺は少し疲れていた気持ちが和らぐ。
「相変わらず派手っすね…」と冗談っぽく言うと、銀さんは胸を張って笑った。
「夏っちゅうのはな、これくらい派手でちょうどええんや。ほれ、まずは熱中症対策や!」
そう言って渡されたのは、冷えた透明カップ。中には濃い色の麦茶が入っている。周囲を見渡せば、グルメフェスに来ている人々はビール片手に楽しんでいる様子で、麦茶の地味さが少しだけ目立つ。でも、銀さんの気遣いが嬉しくて、俺は冷たい麦茶をぐいっと飲み干した。
「ふぅ…ありがとうございます。めっちゃ効きますね。」冷たさが喉を通って体に染み渡り、一気に気分が楽になる。
「さぁ、積もる話もあるやろうけど、まずは腹ごしらえや!」と銀さんは朗らかに笑い、俺を肩でぐっと押し、屋台の方へと向かわせる。
会場には、肉が焼ける香ばしい匂いやタレの甘い香りが立ち込めていて、思わず腹の底から湧き上がるような食欲を感じる。銀さんの目がキラキラと輝き、まるで子どもみたいに次々と屋台に向かって進む姿に、俺も笑いをこらえきれない。
「まずはこれや!」銀さんが選んだのは分厚い牛串。タレがたっぷり絡んだ熱々の串を俺に差し出し、「豪快にいけ!」と笑う。言われるままにかぶりつくと、肉汁が口の中で爆発し、タレの旨味と香ばしさが広がった。
「どうや!夏はやっぱり肉やろ!」銀さんのドヤ顔に苦笑いしながら頷くと、彼は早くも次の屋台へ目をつけていた。「お次はたこ焼きや!」
銀さんがたこ焼きを買う列に並んでいる間、俺は少し恥ずかしそうに問いかけた。「なんでこんなに俺に良くしてくれるんですか?」
「なんでって、見ててほっとけんやろが。」銀さんは振り返りもせずにそう言い放ち、「あんちゃん、顔に『悩み抱えてます』って書いてあるで」と笑いながらたこ焼きを受け取った。
渡されたたこ焼きは熱々で、銀さんは「あっつ!」と叫びながら一気に頬張る。「外カリッ、中トロトロ、これぞたこ焼きの醍醐味や!」と目を輝かせながら俺にも手渡してくれた。俺もつられて一口かじると、生地のとろけるような食感がたまらない。
「な、ええやろ?」と銀さんは満足げに頷き、次はイカ焼きの屋台へ向かう。その情熱に、俺もつられてどんどん食べてしまった。
しばらくして、銀さんがポンと俺の肩を叩く。「さぁ、腹が満たされたとこで、本題いこか。」
その言葉に、俺は自然と表情が引き締まった。銀さんの隣で芝生に腰を下ろし、俺はずっと心に抱えていたフィリアや夏菜のことを話す覚悟を決めた。この夏、どうしても向き合わなければならない想いと一緒に。