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(25)エルフとアイス

気づけば時計は22時を過ぎていた。銭湯の営業が無事に終わり、俺もフィリアもそれぞれお風呂に入ってさっぱりし、パジャマに着替えて一息ついていた。23時を回った頃、ふと今日のことを思い返し、改めてフィリアに感謝の気持ちを伝えたくなった。


「フィリア、今日は本当にありがとう。フィリアが声をかけてくれたおかげで冷凍タオルも売れたし、お客さんたちも楽しんでくれた。本当に助かったよ。」


「いえ、私はお役に立てて光栄ですわ。」フィリアは控えめに微笑んで頷いた。その笑顔を見て、ただ感謝するだけじゃ足りない気がして、何か特別なお礼をしたいと心に決めた。


「よし、ちょっと外に出ようか。」そう誘うと、フィリアは目を輝かせながら、「えっ、外ですの?夜に?」と驚きと期待が混じった声で問い返してきた。


「ああ、そういえばフィリアが来てから、夜に外へ出たことなかったよな。ここは田舎だから、ここは田舎だから、星がすごく綺麗に見えるんだよ。」俺がそう説明すると、フィリアは嬉しそうに頷いて玄関へと向かった。


外に出ると、満天の星空が広がっていた。まるで宝石箱をひっくり返したみたいに、無数の星が煌めいている。その光が夜の静けさに溶け込んでいて、なんとも言えない特別な雰囲気を醸し出していた。


「こんなに綺麗な星空が広がっているなんて…まるで夢の中みたいですわ。」フィリアが感動したように呟く。その声を聞いて、俺まで胸がじんわりと温かくなるのを感じた。


「でも、本当のお礼はこっち。」俺はそう言って、最寄りのコンビニへ向かう。フィリアは不思議そうに首を傾げながらも、俺の後を黙ってついてきた。


コンビニに入ってアイスコーナーへ向かうと、俺は手で棚を指しながら言った。「今日は冷凍タオル作戦が上手くいった記念だ。打ち上げってことで、好きなアイスを選んでいいよ。」


フィリアは色とりどりのアイスが並ぶ棚を見て、目を輝かせた。俺は迷わずチョコソフトを手に取り、フィリアはしばらく悩んだ末に抹茶ソフトクリームを選んだ。


「この色…故郷を思い出しますの。」フィリアがぽつりと呟いたその言葉に、俺は思わず目を細めた。


「そうか。フィリアの故郷の森って、深い緑が広がってるんだよな。」俺がそう言うと、フィリアは静かに頷き、手にしたアイスを大事そうに見つめた。


帰り道、星空の下を歩きながら、二人でアイスを食べる。


「抹茶って言うんですね…不思議な甘さとほろ苦さが混ざっていて、なんだか少し切ない味わいです…」フィリアがしみじみとした表情で呟く。


その後、「この味は…ご飯と一緒にいただくお茶とは、また違うのですか?」と真剣な顔で尋ねてきた。俺は少し考え込む。正直、抹茶と緑茶の違いを詳しく説明できるほど知識があるわけじゃない。


「うーん…親戚みたいなもんかな?」と、曖昧にごまかしたが、それでもフィリアは満足げに頷いていた。


「ユウトさんのアイスはどんな味がしますの?」フィリアが興味津々で尋ねてくる。自分のチョコソフトをすすめられて、少し気恥ずかしい気持ちが湧いてきた。あげてもいいけど、これって間接キスになっちゃうんじゃ…と、一瞬、妙なことで悩んでしまう。


そんな俺の様子に気づいたのか、フィリアは自分の抹茶アイスを差し出しながら、「わ、私のをお渡ししますので…こ、交換という形でお試しいただけますか?」と、少し緊張した面持ちで提案してきた。どうやら、俺のアイスをただ食べたいわけじゃなく、お互いに味を共有したいという純粋な気持ちらしい。その姿に俺は、くだらないことを気にしていた自分を少し恥ずかしく思いながら、素直に交換することにした。


「うん、抹茶も悪くないな。」俺がそう言うと、フィリアもチョコソフトを一口食べ、驚いたような顔をしてから目を輝かせた。


「こ、これ、すごく甘くて、なんだか…とても元気が湧いてきますわ!」

夢中で食べ始めるフィリアの様子につい笑ってしまう。


その時、フィリアの口の周りにチョコがついているのに気づいて、思わず指摘した。「フィリア、口の周りがチョコだらけだよ。」


「えっ…!?そ、そんな…!」フィリアは一瞬動揺したように目を丸くして、急いで自分の手で口元を拭き始める。


「あ、は、恥ずかしいです…!」顔を赤く染めながら、何度も手でぬぐおうとするその仕草が、どこか幼くて可愛らしい。


「まあまあ、大丈夫だよ。誰も見てないし。」俺は思わず笑いながらフォローするが、フィリアはなおさら顔を赤くし、俯きがちに「それでも、は、恥ずかしいものは恥ずかしいですわ…!」と小さな声で反論してくる。その恥じらう様子に、思わずこっちまで温かい気持ちになった。


夜空の下、二人で笑いながらアイスを頬張り、話をしながら歩いていると、不思議と時間がゆっくり流れているように感じた。涼しい夜風が心地よく、月明かりに照らされた俺たちの影が長く伸びて、営業を終えた銭湯の我が家へと静かに戻っていく。


「さて、明日は夏菜との買い物だ。何が待っているんだろう…」俺は小さく呟きながら、次の日への期待と、少しの不安を胸に秘めて、フィリアと並んで歩き続けた。

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