管理者の建物から各戦線を通って、再び自分達の世界に戻るのは簡単なことのはずだった。しかし、リース達が五日掛けて戻った戦線は大混乱していた。
正気を取り戻した元犯罪者達がモンスターを見て絶叫し、各国からの兵士達に睨まれ逃げ場もない。世界が変わり始めた最初の混乱は最前線のドラゴンレッグから始まったようだった。
その途中――
「正気に戻らないと思って、あたし達、手加減なしでやっつけちゃったわよ⁉」
「でも、やらなきゃやられてたし……」
「不可抗力ということで……」
――リース達は、全力で戦線を逃げ出していた。
また、ここ以外にも世界中からモンスターが押し寄せ、混乱は数ヶ月続くことになる。真相を知るリース達は、その大混乱に乗じてドラゴンレッグを旅立った。
当初予定していた獣を討ち取った真実を世界に告げず、そのままの足で世界を回ることにした。ただし、お世話になったドラゴンテイルの老人とドラゴンアームで清流の槍を提供してくれた王様、魔法を教えてくれたエルフ達など、一部の人間には結果を報告してある。
…
一年後――。
戦いを終え、世界の変革を見守ることにしたリース達は、エルフの隠れ里に落ち着いていた。モンスターの居なくなった世界でエルフ達と同じ服を着て畑を耕し、小さな幸せを噛み締めていた。本当に必要なのは穏やかな時間だけでよかった。
畑仕事の休憩中に里のエルフ達と草の上で寛ぎながら、エリシスが言葉を漏らす。
「あの出来事が夢みたい……」
「わたしもです」
「だって、ドラゴンレッグで会ってきたのって神様だもんね」
「そうですよね」
ユリシスはクスリと笑う。
「言い方を変えれば、リースさんが神様になったんですから」
「プ……! そういう言い方もあるわね!」
エリシスが可笑しそうに笑い、その隣でリースは頬を膨らます。
「笑いごとじゃないよ! あの時、本当に吃驚したんだから!」
「ごめんごめん……。でも、神様が畑仕事してるんだから可笑しいわ!」
エリシスは、また可笑しそうに笑う。
「反省してないし……。もういい!」
リースは立ち上がると、パンパンとお尻の草を落とす。
「何処行くの?」
「ドラゴンヘッド。エルフの皆には伝えてある」
「何しに行くの?」
「お墓参りと忘れ物を取りに行くの。アルスの家に、私の荷物を置きっ放しだから」
「へ~……。あたしも行く」
「何で?」
「最近、面白いことないから」
「では、わたしも」
「遊びに行くんじゃないんだけど……」
「そうよ、この世界を楽しみに行くんだから」
失ってしまった大事な人や物があるけれど、直ぐ近くには守り抜いた大事な人達が居る。世界中の人々は知らないが、この世界は、小さな幸せを夢見た少女達に守られたのだ。
リース達は守り通した未来で、笑顔を浮かべていた。
「さて、ついでに将来の旦那も捕食しに行こうかな」
「「え?」」
アルスの居ない未来で、代わりを務めるのは誰なのか?
リース達の物語は、まだ始まったばかりなのかもしれない。
―――――そして、それは彼女に受け継がれ……。 完